権力の話。リリィーナ・F・アインツベルン。
読んでいただけると嬉しいです。
「そもそもこの学院では家の権力は使えませんわよ?」
「は?」
事前とは裏腹に、至って冷静に説明してくれるアインツベルン。
「それに、アインツベルンという名前を有しているだけであって、私にそんな権利はありませんわ」
「いや、けどさ……それなら朝のあれはどうなるんだよ? 明らかに圧力かけてたじゃん」
「あ、圧力なんてかけてないですわ。ただ同意を求めようと……しただけですもの」
アインツベルンとやらかす前に聞いていた情報はどうなるんだ。学院長も椎菜もヤバいって言っていたんだが?
「芳情さん、ごめんなさい」
「え? どうして急に謝るの? 待って! 嫌な予感しかしないんだけど?」
「朝のアインツベルンさんに対しての説明は、この母にお願いされて大げさに言っていただけなんです」
「じゃあ……アインツベルンが俺に突っかかってきた理由は?」
「それは本当に思ったことですわ。普通、最低限の身だしなみくらい、整えてくるのではなくて?」
何だこれ……。途端に俺がいかに恥ずかしい行為をしていたかが分かってきて思わず俯いた。
「潤一君、お掃除しますか?」
「……やらせてください……」
俺は手渡された布を使って、元々綺麗な教室をもっと綺麗にしてやろうと、壁を擦り始めた。
当然汚れてない壁がそれ以上綺麗になることはなかったが、変わりに俺の心が綺麗になった気がしたので、良しとしておこう……。
「あれ? なんだ、意外といい感じに落ち着いてるじゃない? で、どうして潤一くんは一心不乱に壁を擦ってるの?」
「あんたのせいだよっ!」
「えぇ!? どうして急に私が犯人扱いされてるのっ?」
「椎菜さんに余計なこと頼みやがって! おかげで俺はアインツベルンに突っかかる羽目になったじゃないか!」
完全な逆ギレだろうが何だろうが知るか! 全てはこの学院長から始まったのだ!
しかも学院長は親父と知り合いらしいし、ろくな話ではないのは分かりきってることだった。
「さぁ、そろそろ本当のところを教えてもらいましょうか。俺の親父と知り合いだったぐらいの理由で、呼んだわけじゃないんですよね?」
「……さ、さぁ……どうだったかしらねぇ?」
「とぼけても無駄ですよ!」
「ふぅ……なら本音を言ってあげるわ! それはね! あなたのお父さんにお金をあげたからよ!」
「お金……?」
「そう! あなたのお父さんにお金を渡して、潤一くんにはここに来てもらう。どう? 完璧な作戦じゃな――――」
「親父もあんたも、糞から生まれた糞星人なんですか!?」
それって賄賂って言うんじゃないだろうか? というか、金を払ってでも呼びたくなるような俺でもないだろうに。
「やだ……成人だなんて……これでも既に二六よ……」とか言ってる学院長に鳥肌立つ。そんなことは聞いてません。
「芳情さん、流石にその発言は見逃せません」
「あ、ごめん……椎菜さんのお母さんって分かってたんだけど、どうしても言いたくなって……」
「そうですね。だけど糞などと言うのは酷いと思います。せめてアホにしてください」
「それでいいんだ!? 椎菜さんも大概だね!」
昔から苦労させられてきたのかもしれない。傍若無人っぽいしね……。
「ところで、私とあなたの勝負はどうなりますの?」
「……もう素直に俺が謝るよ……いきなりごめん」
「……わ、私も大人ですしね! 許してあげますわっ」
「おぉ~学院長の作戦通り?」
「絶対面白がってただけだぞ、その人」
夏恋も学院長も、えらくポジティブシンキングな持ち主のようだった。残念ながら俺も、とは言えない。
大体、今朝から人に振り回されてばかりな俺に、そろそろ救世主が現れてもいい頃合いだ。
だというのに、アインツベルンも夏恋も学院長も、揃って面倒くさそうな奴らばかり。
(椎菜さんと森塚先輩だけがせめてもの救いだな)
森塚はどこかズレてるというか少しだけ茶目っ気が入ってるけど、基本いい人そうだ。
そして、今朝からずっとお世話になってる椎菜には頭が上がらないくらい助けられている。
「椎菜さん、本当に朝からありがとう。多分椎菜さんがいなかったら、入り口の門に八つ当たりしてた」
「入り口の門に八つ当たり……というのはよく分かりませんが、お役に立てたのなら何よりです」
本当にいい子だ。少しの時間でもお世話になったのだから「こうしてやったんだから、対価よこせ」と言われてもいいくらいだ。
これがアインツベルンだったらそうはいかないだろう。絶対「私の時間を使ってあげたのですから、あなたの大切な物を一つ……貰っていきますわ」そう言うに違いない!
……考えたくもないが夏恋の場合は「ハグさせて~」とか、言ってきそうだった。
ともかくとして、俺は改めて周りを見回してみる。
アインツベルンと衝突した事により、余計に警戒心あらわといった感じだが、興味はあるのかこちらを見てる女の子達。
近くにいる夏恋や、森塚など。まだこの目で見たわけではないが、先輩方も全て女性の群れができているだろうということ。
そして、意外と話せば仲良くなれるかも? と、思えるようなアインツベルンと、異性にも優しい椎菜。
それらが組み合わさって出る答えは、案外――――
「この学院も悪くないのかも?」
その一言に尽きるかもしれない。ただし、俺がチョロいっていうのは確実の話だ。
「今日はゆっくりお話でもしましょうか」
「そうだねぇ~どうせ授業っていう雰囲気でもないし~」
「私も今日は疲れました。この後はゆっくりしていたいです」
森塚の提案に夏恋と椎菜が乗っかり、その後のことは決まったわけだったが、俺はそこで一つ気になることが生まれる。
「森塚先輩、まだ時間は朝ですよ? 会話に時間を割いてる場合じゃないような……十分長話もしましたし学院長もいるんですから」
自己紹介をして晴れて一限目――――みたいな展開だと思っていた俺は、どうしても聞かないという選択肢を選択できなかった。
「学院長や椎菜さんからまだ聞いていなかったのですね。潤一君がどういう想像をしているか分かりませんが、三年生では私達が同級生の子達に教えることになっているのですよ。そして、私達次第でその日のスケジュールが決まると言っても過言ではありません」
「そうなんですか? ……俺、この短時間で普通って言葉の意味が分からなくなってきましたよ……」
ずっと「普通あり得ないだろ」とか言ってきた身としては、その異質な自体に何も言えなくなる。
生徒が生徒に教えていて、自由にスケジュールを組む権利があるだぁ? きっと俺でなくても、それを聞いた者には疑問を抱かずにはいられないだろう。
というか、森塚はどういう立場にあるのだろうか? 普通の市民? それとも貴族? それが分からない。
もしかして生徒会に属しているという事実が、そういう事に繋がっているかと思うと、少し頭が痛くなった。
そもそも、貴族と市民を混合に扱ってるこの学院という前提から、訳の分からないことばかりだ。
貴族ってなんだよ……、いつの時代だよ……。そうやって窓の向こうの青空に視線を向けていると、アインツベルンが話しかけてくる。
「そういえば、あんたにはまだきちんとした自己紹介をしていませんでしたわね。いいですこと? きちんと聞いてくださいな」
「うん」
「ず、随分素直で調子が狂いますけど……私の名前は、リリィーナ・F・アインツベルンと申しますわ」
「へ~案外可愛い名前してんだな。リリィーナかぁ」
「気安く名前呼びしてほしくないですわ。それは然るべき関係になってから……ですわ!」
「はいはい。アインツベルンって呼ぶからいいよ」
しかし、リリィーナという名前は意外にいいと思うので、ここではリリィーナと呼ばせてもらおう。
「ところで、アインツベルンのその『~ですわ』口調は、演じてやってんの?」
「普通に喋ることもできます……わ……」
「あぁ……もう癖になってるんだな」
リリィーナは「うるさいですわぁ! 摘んで掃き捨てますわよ」などと興奮気味な様子だ。気に入っているのかもしれない。
「むぅ……潤一がアインツベルンちゃんとだけイチャコラしてる……」
「してないよ!」「してないですわ!」
うん。俺達はきっと仲がいい。
だってこんなにもタイミングピッタリなのだから。
正直な話、自分が書く作品というのはオ○ニーみたいなものですよね。
下品に聞こえるかもしれないですが、そういう自己満足な作品をそう例えるみたいですし……。
まぁあれですよあれ。主な読者は自分ってことで(汗)
だけど、閲覧してくれている方、ありがとうございます。