【終わり】好きだ。
読んでいただけると幸いです。
あれからの後も楽しい雰囲気のまま、初のお泊まり会は終わった。
後から聞いた話だが、女子陣は大層夜に盛り上がったらしい。俺は一人寂しく部屋で問題集をしていたし誘われることもなかったので、気づくこともできなかった。防音すげえな俺の家。
何はともあれ、また月曜日がやってきた。
そろそろいい加減に会話すること以外にもしなくちゃいけないことがあるんじゃないの。と、思うのは俺だけだろうか。学院長の学院への愛がいまいち分からない。
「おはよう、ですわ」
「ああ、おはよ」
今日も綺麗な金色の髪を左右に揺らしながら歩いてきたリリィーナ。今ではこうして挨拶して一緒に行くことが多くなっていた。
「今日の花係って俺だっけ?」
「いいえ、私ですわ」
「……虐められてるの?」
「きちんと日で当番は変わっていますわ」
そりゃそうか。以前もこうして一緒に歩いた時も同じだったからつい、虐められてるのかと。
にしても、コイツはそういう係をきちんと守って偉い。花係じゃない日だって早めの登校だし、もしかしたら早く行って皆と長い時間会話したいのかもしれないな。そうだったら、案外可愛いところがある。
リリィーナは教室へ行く前に職員室に寄って、新しい花を貰っていた。
「一週間くらいを境に新しい花を貰ってるけどさ、これってよく考えると、寂しい話だよな」
水やりを欠かさなくてもいつかは枯れてしまう花達。けれど、それを気にせずどんどん新しい物に変えてく人間達は、残酷だろうか。これもまた偽善だが、どうしても気になった。
新しい物を欲しがる気持ちはとても分かる。と言うよりも、枯れた花や壊れた物を飾り続けてもこちらの気持ちが落ちこむからだ。
「ええ。ですから、私はなるべく忘れないようにしていますわ」
「そうか。一人でもそうしてくれれば、花としても気が楽なんじゃないの?」
なるべくと言ったように、いつかは必ず忘れてしまうのだと思う。
「昔あんな花育ててたな~」みたいな感じで思い出すことはあっても、それが何色とか何の花だったのかは必ず紐付いているわけじゃない。
何を言っても、考えても、ほとんど全てが偽善と言われる対象になってしまうのはこの際仕方がないとして、とにかく感謝の気持ちを忘れずに生きていきたいとは思う。
「それにしても……潤一がそういう発言をすることに私は驚きましたわ」
「何でだよ。お前がどんなイメージを抱いているか知らんが、俺は良いやつだぞ。常に世の中を平和にするにはどうしたらいいか、とか考えてるんだからな」
「なら初日の日も平和にいきたかったものですわね」
「それはあれだ。リリィーナが突っかかってきたから」
「はいはい。私が悪かったですわ」
こんなしょうもない会話も今なら楽しい。
大体俺と話をしている時の彼女の笑みは苦笑方面に傾いているようだが、それでも笑っているため気にしない。それよりもっと困らせてみたいまである。
リリィーナはジッと己の顔を見ている俺を不審に思ったのか、訝しげな顔であちらもこちらを見ていた。形としては、見つめ合う感じ。
だが、それ以上は何もない。彼女が「行きますわよ」と言ったから「あいよ」と言って付いていくだけだ。もし俺らの関係が特別だったのなら、ああいうことやそういうこともしていたのかもしれないな。
教室に着くと、リリィーナは早速花を変え始める。
瓶に入っていた枯れた花をブツブツと小言で何か言ってからゴミ箱に捨てた。それから間もなくして瓶の中の水を新しいもに変えてきたリリィーナが、新しい花を突っ込む。
またもや小声で何かを言って花を投入すると「はぁ……」と溜め息を吐いた。
「……そんなにジロジロ見ないでほしいですわ」
「いや、前もこうして見てたなと思ってさ」
懐かしいには懐かしいが、まだ一ヶ月も経っていない。
だというのに、ここまで変われたのは一種の奇跡と言ってもおかしくはないだろう。
「ふふ、そういえば前もそうでしたわね。途中で苹果さんも加わって、潤一が情けなく謝っていたのを思いだしましたわ」
「何故か椎菜さんは俺に厳しいんだよな。特にお前や他の女の子と話をしてる時とかさ」
「理由が分かりませんの?」
彼女はぱちくりと大きな目を開いて聞いてきたが、俺には分からなかった。
「そう……けれど私の口から説明するわけにはいかないですわね」
「教えてよリリィーナモン」
「変なモンスターみたいに呼ばないでほしいですわ。……少しだけヒントを出すならば、好意、かもしれませんわね」
「それはないな。絶対にない」
「実際に聞いたわけでもいないのに、乙女心を理解したつもりでいますの?」
そう言われたら何も言えなくなる。
彼女はこちらを試すような表情をしていたが、ふっと力を抜くと近づいてきた。
「なら仮に好意があったとして、苹果さんが潤一に求めたらどうしますの?」
リリィーナは余裕そうな雰囲気を出していたが、足が少しだけ震えているようだ。
……震えるくらいなら聞いてくるなよと思いながら、俺は彼女を見ずに答える。
「答えは変わらないさ。そのままの関係を死守。まぁ、椎菜さんにそういう気持ちはないだろうがな」
「そ、そうですの……」
もう一度彼女は溜め息を吐く。ただ、今度のそれは若干意味合いが違ってる場合もあった。
それを勘ぐりだしたら止められなくなる自信があったので話題転換。
「アマリアさんやマリアノさんは元気か?」
「ええ。アマリアお姉様もマリアノお母様も、潤一に会いたいと言っていましたわ」
「ほほぅ……やはり俺は年上の女性から好かれるみたいだな」
「勘違いも甚だしいですわ。単に、娘が連れてきた殿方が気になってるだけでしょうね」
「でも結局気になってるってことだろ?」
「まぁ……確かにそうですわね」
けどあまりアインツベルン邸に入り浸って父親が出てきても面倒くさいな。
「お前の父ちゃんが恐そうだから、ほどほどにしておくと言っておいて」
「分かりましたわ。けれど、父親の心配については必要ありませんの」
「え……もしかして死んでるとか?」
「そうではなくて……いない、といった方が分かりやすいかもしれませんわね」
「離婚?」
「別居ですわ」
俺の親父と母の関係みたいなものだ。一応何らかの事情があって、籍だけはきちんと置いてある。
若干踏み込みすぎたかと思い謝ろうとすると、彼女は笑顔で言った。
「元々私達が小さい頃からいなかった方なので気にする必要はないですわ。いないと言うよりも、いない扱いしていると言った方が正しいですもの」
「それは俺も一緒だな。昔は家を空けてる親父をいない扱いしていたもんさ……」
「そういえばお泊まり会の日も遭遇することはなかったですわね。なら、家にはいつも一人ですの?」
「今は煉夏がいるよ」
「……思い出しましたわ」
リリィーナと煉夏は何故か馬が合わない。
煉夏は受け入れようとしているけどリリィーナが素直じゃないせいで関係が進展しないのだ。
これだと百合ハーレムは当分無理そう。……ただ彼女は椎菜が好き好き大好きなので、百合カップルは叶うのかもしれないとか考えていると、不意にてを握られた。
一瞬で硬直する俺の体。その硬直した俺を、穏やかな笑みを浮かべながら見つめるリリィーナ。
状況的に見れば、明らかにこれから何か起こりうる、そんな感じの時間だ。手を離そうとしても、彼女の力が強く離すことができない。
「ど、どうしたんだよ?」
「……ただこうしたかっただけですわ」
「誰かれ構わずそんな事をしてたら、勘違いされるぞ。男ってのは怖いんだからな? 性欲の化身だぞ」
「けどあの時潤一は私を拒みましたわ。流れに身を任せなかったではありませんの」
当たり前だ。自分の気持ちもはっきりしないくせにそういうことをするのは間違っているはず。
俺は決して流されない。彼女の柔らかい笑みを見たところで、何も感じないぞ。
「よく考えると、あなたは不思議な方ですわよね」
「何だよ急に」
「あなたが来るまではぎこちないクラスだったというのに、たった少し存在しているだけで変えてしまいましたわ」
「俺がリリィーナに対して気を遣わないからか?」
「ええ。ある意味衝突してきた時は爽快、でしたわね」
「よく言うぜ。思いっきり怒ってたじゃんかよ」
今でもあの時の表情は忘れない。明らかに嫌悪感を含んだ顔だった。
その発言に彼女はクスクスと笑う。笑い事じゃないとツッコみたくなった。
「そして、私はあなたを好きになりましたわ」
「……それが答えか?」
「そうですわ。本当は少し前から……そう、あのキスの時から分かっていたことでしたわ」
「……じゃあ何で「分からない」なんて言ったんだ?」
「それは私があの時そう言ってしまったら、あなたが流されそうだったんですもの」
「なるほどな」
そうだったではなく、絶対に流されてたと思うよ俺は。
可愛い女の子に好意を寄せられて、あまつさえキスも求められたら、絶対に断れないはずだ。
もし断れる奴がいたのなら、そいつはホモか相当に自信が無い奴だけ。
「けどじゃあ何でお泊まり会の時あんな空気発してたんだ?」
「私が潤一に傷つけられましたわ~という感じで、苹果さんを味方につけたかったんですわ」
「最悪なヤツだなリリィーナは」
「苹果さんに潤一は勝てないと知っていますもの」
つまり、俺は彼女の手のひらでくるくる踊っているだけだったということ。思い返すと、少し悔しい。
「……それに潤一は、私が求めれば応えると言ってくれましたわ。あれはもう時効ですの?」
「何だこの外堀を埋められていく気分は。ああ確かにそう言ったな。しかも、マリアノさんの前で」
「そのことも懐かしく感じますわ。それで、あなたはどうしますの? 私の要求を断りますの? それとも、私のような純情可憐な女の子を泣かせますの?」
「どこが純情可憐だよ……そんなこと言われたら選択肢がなくなるじゃねえか」
純情可憐ってのはと力説してやりたいところだが、今はそんな時間がないようだった。
俺はコイツとその母親の目の前で言った。求めれば応じるのだと。
言い訳をして避けてきてはいた。でも結局俺があの時応じなかったのはリリィーナの気持ちがわからなかったため。
だが、彼女は今こうして直接気持ちを顕にしてくれた。ならば、いや、だから応えるとかではないけれど、きちんとこちらの気持ちも示すのが、男というものだろう。
「あ~やっぱ恥じいな。止めにしない?」
「そういうのはいりませんわ」
「そうだよな……じゃあ」
軽く息を吸い込んだ。この吸い込んだ空気が全て吐き出された後には――――
「俺も好きだ」
俺達の関係は一歩前進しているのだと、俺は思った。
これまでありがとうございました!
一作目よりも多くの方に見ていただいて、更新するのが楽しかったです。
結局最後はこういうENDになりましたが、本当ならもう少しそういう態度になった理由を書きたかったです。
何はともあれ、次作も考えてありますので、色々よろしくお願いします!




