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言葉で言うのは簡単。頼りになる夏恋お姉ちゃん。

いつもありがとうございます!

「ふふふ、ついに当日がやってきましたわね」


 リリィーナは買い物へ向かっている時間、やけに高テンションでいた。

 それもそのはず、もしかしたら今日で関係が動くかもしれないからだ。

 ……寧ろ高テンションになりたいのは俺なのだが、やけにリリィーナのテンションが高すぎるせいで、表には出せないでいる。何か期待してるみたいで気持ち悪いし。

 ちなみに、煉夏は家で待機していた。元々ある食材を調理していてくれるらしい。

 目玉焼きしか作れないと言っていた煉夏がどこまで料理できるのかは分からないけど、今日ここにいたっては好都合だ。

 何故ならリリィーナと二人きりになれるから。本来ならこの時点で煉夏がいて、昼になったら皆集合。夜に二人というのも怪しまれるし、この状態で二人だけというのは少しだけありがたい。

 が、本当にリリィーナが逃げないとは思えなかった。絶対コイツのことだから難癖つけて、俺を一方的に怒ってきそうだ。


「さて、どうしますのっ? 今からしてもいいですわよっ?」

「待て待て。先に買い物だ。それに、ムードくらい男の俺だって欲しいぞ」


 外国人じゃないんだからさ。まぁ少なくともコイツはそっち系統の女の子だけど、俺は純日本人である。キスに慣れているわけがない。

 今回はそんなに食べ物を買う必要もなくなったので、買い物はあっという間に終わった。

 先程歩いてきた道を戻っていると、リリィーナが公園に寄っていこうと言い出す。

 きたか……。これからどうなるのか、それはまだ分からない。

 公園についた俺達は、近くのブランコに腰を下ろす。行きの高テンションもどこか鳴りを潜め、黙っているリリィーナを盗み見ると、微かに震えていることが分かった。

 こりゃあきっと関係が進展せずに終わるな。そう思っていると、彼女が動きだす。


「そ、そそそろそろ、し、しても、いいですわ、よ?」


 かなりぎこちない。おまけに噛み噛みの状態で、俺は苦笑した。

 そんなに硬くなるくらいなら言うなよと、表情に出てしまったのだろうか。

 リリィーナは軽くムッとしたような感じで、一気に俺との距離をつめた。つまり、顔と顔の距離が尋常じゃないほど、近づいている状態。


「い、いきますわよ?」

 

 彼女の吐息がくすぐったい。もろに甘い匂いが鼻孔を刺激する。


「ん……」


 そこからは無意識だった。俺が彼女の肩を掴み、距離をとっていたのだ。

 少しだけ傷ついたような表情でいるリリィーナに対して、一気に罪悪感が湧いてくる。


「……嫌、ですの?」

「違う……けど、俺らって何で今キスしようとしていた?」


 これは事前にも考えた「俺らは何のためにするのか」ということだった。

 俺がリリィーナを好きだと断言できるのならいいのかもしれない。リリィーナが俺のことを好きだと分かってるならいいのかもしれない。だが、現実は分かっていないことが多すぎる。

 大体、何故リリィーナは以前からキスを求めてきていたのだ? 好きだから? それともからかうため? 少なくても後者とは今の表情からは考えられないが、対する俺の気持ちが曖昧すぎる。

 俺は初日に彼女と衝突した。彼女の言い分は「身だしなみが整っていない」からで、それだけならともかく馬鹿にしてきた彼女に噛み付いたのを覚えている。

 だが初日に勝負が決まった時からだ。その時から何故か関係が続いて、今では普通に遊ぶし、こうして二人きりの時間も増えてきたと思う。

 

「何でって……約束を……」

「ああ、確かに俺らは互いに言ったな。お前は絶対に逃げないと言ったし、俺はお前がいいならいいと言った」

「ええ、その通りですわ。ですが、あなたは逃げた。これはつまり、私のことは嫌いということですの?」

「違うよ。けど俺達には何かが足りてないんだ」


 リリィーナが昔から俺のことを特別な対象として見たり、直接好意を聞けていたりしたら、そうだったらきっと避けてはいない。俺はその不明瞭ふめいりょうさが気に入らないんだ。


「リリィーナ、お前は俺のことが好きなのか? 特別な関係になってもいいくらいと、そう言えるか?」

「それは……」

「言ってくれ」


 俺もいつもみたいに馬鹿みたいな表情を浮かべることができない。彼女の返答次第で、俺達は色々な意味で変わる。


「よ、よく分かりませんわっ」

「……そうか。じゃあ止めよう。そんな曖昧な感情の状態で、するわけにはいかない」

「けれど――――」

「これはお前のためなんだ」


 また偽善を発揮する。お前のため、その言葉を言う度に「違うだろ」という感情が己の中でかけまわるのが気持ち悪い。あの時の母のように、結局は自分が傷つきたくはないがために、皆がそう言うのだ。

 少し歩きだしてもリリィーナが付いて来る気配がなかったので、戻って固まったままの彼女の柔らかい腕を引っ張る。彼女も俺の腕をはらうことはなかった。

 結局、考えることや言うことだけなら誰でもできるということがよく分かった一件だった。

 皆が来るまでに何とか悪い雰囲気を打ち壊そうと会話を試みるが、彼女が雰囲気を隠そうとはしてくれず、皆が集まってもそんな感じの状態が続いていた。

 それでも麻衣や夏恋によって何とか場は盛り上げられて、気まずい空間で終わるのは避けることができたようだ。

 女子陣が別れて風呂に入りに行く中、俺は後から入ることになってる夏恋に相談を持ちかけることにする。一瞬これは酷な事か? とも思っていたが、既に薄々感づいているに違いない。


「姉貴、ちょっといいか」

「そうやってくると思ってたよ。外、行こっか」


 玄関からではなくリビングの窓を開けて外に出ると、季節も既に初夏近くのためか若干蒸し暑かった。


「暑いね~」

「まぁな。で、相談なんだけど」

「分かってるって。リリィーナちゃんのことでしょ? それと、私のことなら気にしなくていいよ。私だって大人だもん、諦めることくらいできるって」

「悪い……」


「謝らないでってば」夏恋は俺の髪を優しく撫でながらそう言った。

 姉の優しさは心のモヤモヤを溶かしてくれる。昔から何度もお世話になった人だ。


「がっついちゃったの?」

「……逆だよ。今日キスしそうになったんだけど、俺が避けたんだ」

「へ~どうして?」

「……まだアイツが俺に好意を抱いているのかも、俺がアイツを好きなのかも分からないから」


 夏恋は俺の発言に対して、うーん、とうなり、それから笑顔で言う。


「贅沢な悩みですなぁ、えいっ」

「いたっ! でもまぁ姉貴にとっては嫌な話だよな」

「……だから言わないでって……折角諦めようとしてるんだからぁ……」


 一気に目に涙をため始めた夏恋を見て、しまったと思うがもう遅い。

 それから無言でポコポコと殴られ続けておく。せめて夏恋が落ち着くまでそうしていたい。


「……うぅ……少し悲しいけど、やっと踏ん切りがついた! 私が応援してあげるから、頑張ってよ?」

「おう。けど、さっきの話のとおり、分からないんだ」

「じゃあ質問っ。リリィーナちゃんのことが気になる時はあるのっ?」

「そりゃあまぁ……アイツは色々と気難しいところやドジなところがあるし、気にかけてやらないといけないしな」

「なら友達として好き?」

「まぁそのカテゴリーで言えばそうだな」

「恋愛するとしてなら?」


 それが分かっていたら気まずい関係になっているはずがない。どうしてそれを聞いてくる。

 少しだけ俺が睨んでいると「あはは」と夏恋は笑う。笑い事じゃないっての。


「じゃあさ、好きとかの感情は分からなくても、付き合いたいとか、考えないのかな?」

「アイツとか?」

どうなるんですかねぇ……自分も一種の読者みたいなものですからね……。

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