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金髪の女の子。姉との再会。

続きです。


 星間学院に入ってみると、そこは本来通うはずだった高校の中身と大して差はなかった。

 一つ分かりやすい例をあげるとすれば、それは匂いだと思う。

 何ていうかこう……、男子がいると嗅げないような……、そんな匂い。

 すぐ近くを歩いている椎菜のいい匂いも含めて、空間には甘い匂いがただよっていた。


「ここです。私はどうしましょうか? 着いて行った方がいいですか?」

「そ、そうしてくれると助かるかな……」

「分かりました」


 言って椎菜は入り口の扉を二回ノックする。中から「どうぞ~」という声が聞こえて、椎菜は扉を開く。


「あら、その子が例の子?」

「まだ確証はありませんが、恐らくそうだと思います。学院長はいますか?」

「奥にいるわ。へ~結構派手な子ねぇ……」


 恐らくその女性は俺のツンツンしてる髪の毛を気にしたのだろう。だが、残念ながら俺にそんな趣味はなかった。


「やっ、これは寝癖でして……ですからその――――」

「やぁ、待ってたよ」


 椎菜が呼んで来てくれたのだろう。俺がアタフタしている内に、とても綺麗な女性が側に立っていた。


「ど、どもっ、あの自分は――――」

「お、落ち着いて落ち着いて……君のことは分かってるよ。芳情潤一くん、だろう?」

「は、はい……それで、聞きたかったんですけど、どうして俺……自分なんです?」

「この実験に選ばれた生徒が、ってことかい?」

「正しくその事です」

「それなら話は簡単さ。何故ならそれは」


 そこで目の前の女性は俺の反応を楽しむといった感じで、言葉を止めた。……そんな焦らしプレイはいりません。


「きみのお父さんと知り合いだからさ!」

「え……そ、そんな理由で?」

「きみのお父さんはああ見えて良い奴だから「その息子も大丈夫でしょ」って感じでね」


 俺は絶望する。そんな適当な理由で、犠牲となったのかと。

(あっちの高校には友達だっていたのに)

 仲良かった親友や、わりと話すことの多かった女の子など、新たな高校デビューに期待してたのに!


「ちょ、ちょっと大丈夫?」

「大丈夫じゃありませんよ! そんな適当な理由で選ばれた俺の身にもなってほしいです! 俺だって色々高校入学に合わせて、プランっていうものがありましてねぇ!」


 まぁそれは全てが計画通りにいく、なんて可能性はないけど、少なくてもゼロではないはずだ。

 だというのに、通えば何とかなるかも、という前提条件が消え去ってしまったので、俺に未来はない。


「俺、帰ります!」

「……やれやれ、お父さんから聞かなかったのかい?」

「うっ……」


 そうだ。俺には既にあちらの高校に通う権利がないのだった。

 イライラをどこにぶつけたらいいか分からず、目の前の女性をにらみつける。


「……そんな睨まないでってば……もう、あなたはお父さんとそっくりね」

「あんな糞親父と一緒にしないでください! あんな奴と一緒にされるくらいなら、死んだ方がマシです」

「そ、そう……ごほんっ、とにかく苹果に既に聞いてるようだし軽く説明するけど――――」


 この星間学院には一学年毎に一クラスしかないこと。そして、そのクラスの中には、結構な権力を持ってるお嬢様と呼ばれる人種も在籍していること。扱いをミスったら学院長でさえ、首が飛ぶ可能性があること。


「なるほど……つまり、その貴族とやら非常識な奴らが調子に乗ってる、そうですね?」

「ち、違うから! 話聞いてた!?」


「私も危ういんだから気をつけてよ、もう!」と冷や汗を浮かべてる学院長には悪いが、イライラをぶつけるには丁度いい相手だと思う。

 それに俺ならこの学院から排除されても全く問題ない。一年浪人したって絶対あの高校に通ってやる。


「分かりましたっ、教室では大人しくします!」

「ほ、本当、気をつけてね? ……んんっ。さて、行きましょうか」


 そういえば名前を聞き忘れていた。だが、直接本人には聞きづらいので、椎菜に聞くことにする。


「椎菜さん、学院長の名前って――――」

「私は椎菜薫子しいなかおるこよ。そこにいる椎菜……苹果の母親ってところかしら」

「え、えぇ!? じゃあ椎菜さんって凄い人じゃん!」

「母と私は関係ないですよ。母は母、私は私で認識してください」

「も、もしかして仲、悪い?」

「そんなことはないです。でも、学院長の娘だからって扱いは嫌いなんです」

「なるほど……分かった。椎菜さんは椎菜さんって考えればいいんだね」


 学院長も椎菜だからここは気軽に苹果呼びしたいところだが、残念ながら勇気がない。

 やがて教室が見えてくると、主に椎菜母のまとってる雰囲気が変わった。それに気づいたからこそ、考えていたよりも大変なことかもしれないという思いが、今更浮上してくる。

 気づけば手汗でベトベトになっているその手を椎菜が握ってくれた。


「大丈夫ですよ。普通にしていれば問題ありませんから」

「椎菜さん……ありがとう」


 気持ち悪くないのかなと思うより、お礼が先に出る。この子は本当に優しい子だ。


「ここね。じゃ、準備はいい?」

「は、はいっ」


 ガラガラと扉を開けた先に広がる光景に、俺は息を飲む。

 何故なら、その教室の中に沢山いるありとあらゆる女の子が、一斉にこちらを見てきたから。

 中には俺の方を見ながら近くの女の子とひそひそ話している子もいる。

 ただ分かるのは、そんなに歓迎されてはいないってことだった。


「やぁ~皆、おはようっ。前から皆にも言ってたように、今日から実験が始まる。ここにいる彼がその実験生だ。……芳情くん、自己紹介を」

「お、俺はっ、あの……芳情潤一といいます……」


 何だこれ。想像していたものとは全く違う。突き刺さるような視線がとても痛い。

 緊張に緊張が重なってあっちを見たりこっちを見たりしていると、中でも一際目立つ金色の髪の子が手をあげて立った。


「どうしたんだい? アインツベルンくん」

「椎菜学院長。私の発言を許可してくれるかしら?」

「どうぞ?」


 首を傾げながら学院長が許可を出すと、そのアインツベルンと呼ばれた金髪の女の子が再び口を開く。


殿方かれと共に勉学にはげみたくないですわ。最低限の身だしなみも整えない殿方は、この場には相応ふさわしくないですもの」


 金髪娘が放った言葉にクラスの女の子達がざわめきたつ。それを止めるべくして動いたのが、学院長だった。


「い、いきなり手厳しいねアインツベルンくん……」

「無理もないですわ。きっとここにいる全ての女性がそう思ってるはず。そうですわよね?」


 圧力だろうか? 別にそこまでではない、って表情でいた子も「そうそう、そうだよね!」 といった感じで、慌てて首を上下に振りだす。

(あの金髪娘は一際上の存在ってことか……)

 気づけば緊張なんてどこかに吹っ飛んでくれていた。そこだけはあの金髪娘に感謝しなければならない。


「おい――――」

「おーっとぉ! 芳情くんは少し黙っててくれるかな~?」

「だから――――」

「だから黙っとけっての!」


 学院長は俺に軽くボディブローをかまして、廊下へと引きずり出した。


「ちょ、ちょっとっ、何言おうとしてんのさぁ!」

「いや、俺はただあの失礼な金髪娘に一つかましてやろうかと思いまして」

「確かに少し言いすぎかもしれないけど、ああいう子がいるよ~って言っておいたじゃん!」

「だけど……ヘコヘコなんてしたくないですよ俺は!」

「落ち着いてください芳情さん。アインツベルンさんはこのクラスの中で一番権力を有しているお嬢様です。ここは何とか穏便に済ませられませんか?」


 熱くなっていた俺達を椎菜が止めようとしてくれるが、一番権力を有していると聞いて俺は穏便に済ますという選択を全て捨てた。

 権力を有してるからなんだっていうんだ? そんなもん部外者の俺には興味ない。

 それに、あの同調の求め方は好きになれない。もし仮にあそこで頷いてなかったら、きっとクラスの他の女の子は裏で排除されてしまうのだろう。


「決めた」

「ほっ……穏便に済ませてくれるのね?」

「いえ――――」


 俺は扉を勢いよく開け放ち、そいつの名前を呼んだ。


「アインツベルン! 出てこいやぁ!」

「なっ、あなた私にそんな言葉遣いでいいと思っているんですの? 私にかかればあなたの在籍権なんて――――」

「好きにしろやぁ、ボケがぁ! 俺だって少しは緊張してソワソワしてたってのに、お前があんな挑発かましてくれるから緊張なんて吹っ飛んだわっ、糞女!」

「芳情くん!?」


 学院長が止めに入るよりも早くアインツベルンが動き出そうと、そうした時だった。


「一年生の子達うるさいよ~? 今日はどうした……の……」


 後ろの扉から入ってきた女子が固まった。……いや、固まりたいのはこちらです。

 その女子はこのクラスの女子からは「生徒会長」と呼ばれていた。とりあえず、そんなことはどうでもいい。


「あ、姉貴!?」

「潤一じゃん! えっ? どうしてここにいるのっ? え~感動の再開に、思わずお姉ちゃん涙目なんですけど……」

「何でここにいるかは俺も知らんけど……でも姉貴ってここの学院に在籍してたんだな」


 俺と姉、そして母とは中学生頃から別居していて、全く事情が分かっていなかった。

 別居の理由は親父が原因で、母は姉を連れて出ていってしまったのだ。

(つまり、結局何もかも親父が悪いってことじゃん)

 俺が女子校に通うことになったのも、姉と母が別居するようになったのも、全てはあいつのせい。


「おぉ~アインツベルンちゃん、どうしたの?」

「夏恋さん……べ、別に何でもないですわ! 少しだけ立ちたくなっただけですの!」

「そうなの? 私も急に立ちたくなるから、その気持ち分かるよ~」


 急に立ちたくなるって何だよ……。それに、どうして権力が大きいらしいアインツベルンを、お前が黙らせられるんだ、とはツッコまないでおこう。


「いや~助かったよ夏恋くん。きみが来なければ恐らく私の首は飛んでいたからね……」

「はははっ、まさか~学院長も大げさなんですから~」


 いや、お前が一番怪しいよ!

 説明してほしくて、俺は夏恋に聞こうと近寄った――――

読んでくれた方、ありがとうございます。


あり得ない設定ですが、書いていて楽しいです。

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