『好きだから』で片付かない問題。自由奔放なマリアノ。
いつもありがとうございます! ……っていつも書いてますけど、初めて見てくれてる方もいるんですよね。なので、その方たちにも、ありがとうございます! と、言いたいです。
「お互いが好きなら付き合ってもいいんじゃないんですの?」
少しだけ暗い雰囲気になりそうだった俺らの間に、リリィーナのそんな言葉が響く。
だがそうじゃない。好きでも何でも、諦めてもらわなければならない関係だってある。
「そういうことじゃないんだよ。リリィーナ、お前は本気で人を好きになったことがあるか?」
「ありませんわね。そもそも接触してくる向こうの方は、私ではなく家目当てですから。向こうも親の強制といった感じが強いですし」
「なるほどな。じゃあ仮にアマリアさんがお前と付き合いたい、付き合って! そう言ってきたらどうする?」
「お姉様が? その場合はなるべく角が立たないように断りますわ。お姉様には素敵な殿方と幸せな――――」
それだ。自分と親しい相手だからこそ、しっかりとした幸せな生活を送ってほしいと思うのは、当然のことだ。多少自分勝手で逃れるための口実とも捉えられるかもしれないが、本気でそう思ってる。
「……何となく理解しましたわ……少しだけ身勝手でしたわね」
「まぁ確かに好き同士だったら問題ないと思うんだけどな。残念ながら、そう単純じゃないんだよ」
簡単な例をあげるとすれば、芸能人などの結婚報道などである。
マスコミはとにかく注目を集めるためこぞって各社が派手な記事を作り上げるのだ。
ほっとけばいいのにと思っても、結婚、離婚、浮気、危ない薬に手を出した云々、お前らストーカーでもしてるのかと言いたいくらい、日々新聞やニュースを彩っている。
マスコミや新聞を作る人間はいいだろう。そういうネタが毎日あって困らないのだから。
しかし、当人達はそうじゃない。終わっても尚目をつけられ、自宅の前に大量に人が集まって家から出られない~なんてことも聞いたことがある。世間の印象でテレビから降板することだってあるのだ。
話が逸れた。俺らが付き合ってるうちはいいかもしれない。けれど、夏恋も女である以上『結婚』という二文字に憧れないわけがないだろう。
そうなった時、必ず俺らと全く関係のない奴らがしゃしゃり出てくる結果になるのだ。
普通じゃないから、暗黙のルールを破っているから、などといった理由で、迫害される結果となる。
「そういうものですのね。暮らしにくい場所ですわ」
「そうだな」
「むぅ~!」
「そんなに頬を膨らませたって駄目なもんは駄目だって」
「じゃあ愛人でいいから! リリィーナちゃんに本妻の権利はあげるからぁ!」
「逆にそれでいいのかよ……」
一夫多妻制を築いてる貴族じゃなくても、そういう関係を築いている人間は沢山いる。
疲れた時、暇つぶしをしたい時に、セカンダリー要員として関係を保っておくのだ。
その事を本妻は気にするかもしれない。けれど、その逆もあることを考えると、案外Win-Winの場合だっってある。
「夏恋さんがやっと名前で呼んでくれましたわ」
「あっ、ごめんね! 皆呼んでるし、いいかと思ってさ。それに、アインツベルンって呼びにくて……」
「私も時々名乗るのが躊躇われる時もありますわ。何も問題ありません」
「せっかく家名なんだから面倒くさがらずに名乗れよ」
「初対面の時は名乗ったじゃありませんの」
初対面の時だけな。それ以外は俺がアインツベルンと呼んでいただけだし、コイツの口からその名を聞いたわけじゃない。
入学してから多少濃い一週間のことを思い出していた。
初日で激突した金髪娘ことリリィーナ・F・アインツベルン。コイツとだけは今後も仲良くなれないな的なことを考えたこともある。それがどうなったかと言うと、こうして今普通に遊んだりしているわけだ。
人間は面白い。簡単に人の見かたは変わる。悪印象が強かったとしても、その後の人となりで容易に塗り替えられてしまう。
残念ながら学院で何かをしたなどはないが、少なくても出会いは沢山あった。椎菜、麻衣、亜夢、姫、森塚と関係を持ち、そして、夏恋との再会。
そこは親父に感謝しなくちゃならない。もし女子校行きなんて稀有な体験ができなければ、俺らは一生と言っても過言ではないくらいの確率で、出会うことはなかっただろうと思う。
「リリィーナちゃんは彼のこと名前では呼ばないの?」
「そ、それは……私なりにこだわりがあるんですわっ」
「そうなのぉ? ね、一回呼んでみて」
「ぐっ……じゅ、潤一……さん」
「凄く仲のいい二人って感じがするわ! 呼んだほうがいいわよ!」
そうだそうだと心の中でマリアノを擁護する。いい加減名字くらいは呼んでほしい。
「潤一って呼び捨てにしてくれていいぞ」
「……潤一……」
何だこれ。新鮮な感覚だ。
亜夢や夏恋のそれとは違って、照れや戸惑いが含まれているため可愛さに拍車がかかっている。
ただそこまで恥ずかしがるようなことだろうか。所詮俺という人格に名前がついているだけだ。
番号で呼ばれる人なんて毎日名前で呼ばれてるようなもんだし、いちいち照れてる場合ではない。
「もうこれはキマったも同然ね! 今から祝勝会を始めましょう」
俺達は何と戦って何に勝ったんだ。というか、普段ツッコみ役のリリィーナが赤い顔して固まってしまっているためにグダグダがいつまでも続く。
マリアノは思ったより空気を壊してくるような存在だった。落ち着いているアリアナと、多少騒がしいリリィーナがいるからこそ、この家族はバランスが取れていると思う。
もっとも、アリアナの場合は上手く躱しそうだ。リリィーナは絶好のカモさんということは言うまでもない。
「も、もう戻りますわ! あなたと夏恋さんも、行きますわよ!」
「あんっ、もう少し話したい~」
本当に自由な人だな……。
マリアノさんは普通に近所のお母さんみたいな感じだった。近所の知り合いのお母さんに困るようなことを言われ苦笑してしまうような感じ、と、言えば分かるだろうか?
正直接し方は困るものの、俺らを排除しようとする意志が見えない以上、気楽さはある。
何度も『普通』という言葉を使っていると『普通』とはなんだとなるが、本来ならこうして会うことさえできないもんじゃないだろうか。
そういうところが少しだけ想像と違う。結局、俺らは人生の中主観だけで判断していることが多いということがよく分かった。
「まったく……あなたもあまりお母様に流されないでほしいですわ」
「悪い悪い。けど感じ良さそうなお母さんじゃん」
「まぁ……私のお母様なのですから、当然なことですわ! ……時々、困ることもありますけれど」
時々じゃないだろ。絶対いつも困っているんだろお前は。
世の中でもカモというのは必然的に使われたりするものだ。己の暇つぶし、弱みに付け込んで物を買わすなどなど、実に生きづらいと思う。
……そんなことを言うと俺は違うみたいな言い方に見える。けど、実際は俺だって何かしらのカモに該当しているわけだ。買い物とかだってその価格に踊らされてるもんなぁ。
俺がその事実に少し悲観していると、相変わらず俺の服の裾を握ったままだった夏恋が俺にだけ聞こえるように耳打ちしてきた。
(……リリィーナちゃんの家を出た後、時間ある?)
(あん? まぁあるけど?)
(じゃあ約束っ。絶対だからね!)
耳がくすぐったい。無理してここに呼んだのは俺だし、責任は取らなければならないだろう。
訝しげな表情でこちらを見やるリリィーナに「何でもないよ」と伝え、歩きだした彼女についていく。
夏恋の用とは一体何なのだろうか? 好きとか言われてもどうしようもないし、俺は変わらないぞ。
話がグダグダと続いていきますねぇ。
テンポ良い作品を書ける人は素直に凄いと思います!




