お人形のような女の子。本気で好きだもん。
いつもありがとうございます!
夏恋の大きな声に惹かれ俺がリリィーナの方を見てみると、そこには昼すれ違った女の子よりもっと魅力的な雰囲気をまとっていた。
「ふむふむ……アインツベルンちゃんは結構出るところも出てるって感じだね~」
「夏恋さんには敵いませんわ」
いや、胸は揺れればそれだけで十分なんだと力説したくなるのをグッと我慢し、早く次の服装に移ってくれと夏恋に合図する。
「潤一もアインツベルンちゃんのこと好きだね~あいよっ、少々お待ち下さい!」
夏恋の勢いに負けているのか、はたまたもうどうでもよくなったのか、リリィーナは真顔で俺の方を見ていた。……そんな目で見られても困る。
というわけで下着姿を晒しまくった彼女は、とりあえず貰ったばかりの服を全て着終えるまで終始真顔を保っていた。凄い忍耐力だ。
「はぁ……いきなり夏恋さんを呼んだかと思えば……こんなことの為とは……もう分かったでしょう? 私にはこの服が一番似合っているんだと」
「何言ってんだお前は……どれも十分似合ってたわ」
「そうだね~私も少し嫉妬したくらいだよ~」
着る服買った服が何でも似合うなど女子の夏恋からしたら羨ましいのだろう。
どこかで聞いた話だが、胸の大きな女子はそういう選択肢が少ないと聞いたことがある。夏恋は結構苦労しそうだった。
「ふ、ふんっ! おだてても何も出ないですわ!」
「嘘じゃないって。お前はお人形みたいな見た目だからな」
アニメとかでよく出てくる、喋らなければ最高だというやつ。
ま、リリィーナは喋っても嫌なキャラではないので、喋れば喋るほど、良い奴なのだと理解できる。
つまり、彼女は女性の中で最高と言えるような人材であった。
「付き合おう」
「は、はぁっ!?」
「って言ってみたかっただけだよ」
リアクションもいちいち面白いし……、本気で彼女としていてほしいくらい――――かもしれない。
人は中身! などと男は言うが、実際は殆ど顔しか見てない。それで運良く付き合えたりしても「こんな子だったの……」と絶望すること多数だ。
女子については昔からよく考えてきたが、一つ言えることは可愛い子は性格が悪いということだった。
実際星間学院でもコイツや椎菜――――は普通だな。多少面倒くさいだけだ。じゃあ森塚? あの人は思いの外お茶女属性を持っていて意外と可愛らしい一面がある。夏恋はアホという属性を最大限に活かしているし……、待て。これじゃあ可愛い子=最高になってしまうではないか。
や、最高に越したことはない。だが、こうも最高の人材ばかりだと、疑いたくなるのが俺という人間だ。
「思い出しましたわ。少しだけこの方を借りてもいいですの?」
「いいよ~好きにしちゃって~」
勝手に許可出すなよ。俺はどこに連れて行かれるのだろうか。
別に言われりゃ普通に歩くのにも関わらず、リリィーナをいつものように俺の腕を引きながら歩いて行く。
彼女の中で俺のイメージは「手を引いてあげないとついてこないから」と、いった感じなのだろうか?
流石にそこまで子供ではないぞ。
「ここですわ。お母様があなたに会いたいと言っていたのを忘れていましたわ」
「は? お、お母様って……お前の母ちゃん?」
「そうですわ。お母様、お時間大丈夫でしょうか?」
『いいわよ~』
俺は止めることなくそのまま彼女に腕を引かれ、新たな一室へと足を踏み入れる。
「あら~その子が芳情潤一さん? 若いのねぇ」
「ど、どもっ! 芳情潤一といいますっ! じゅ、十分貴女もお若いと思いますよ?」
「あらあら~良い子じゃない! もう結婚しちゃいなさいよ、あなた達!」
「はい?」
あ、そういう……。まだ名前すら知らないリリィーナの母親からそう言われて、思わず黙り込む。
いきなりグイグイとくる母親だ。普通はもう少し警戒するもんじゃないのかよ。
何せ隣にいるのはお嬢様なのだ。ならば「どこの馬の骨かもわからない~」云々を言うのが定跡なのではないだろうか。
「お母様、まずは自己紹介をお願いしますわ」
「そういえばそうねっ。私はマリアノ・F・アインツベルンというのよ。もしよければ覚えておいて!」
「マリアノさんですか……お姉さんと少し語感が似ていますね」
「あ~アリアナちゃんねっ。アリアナちゃんとも話はしたのかしら?」
「はい。マリアノさんの娘さんは、皆揃って良い人や良い子ばかりです」
お世辞ではない。特にアリアナの存在が大きかった。
あの誰にでも分け隔てなく接してくれそうな感じは、余裕がなければ絶対にできないことだ。
リリィーナもそこそこ優しいところがあるので、立場+性格も良い姉妹という、非常に嫉妬したくなるような存在と俺は確かに関わっている。
「そうでしょそうでしょっ! アリアナちゃんは落ち着いていて可愛くて、リリィーナちゃんは無邪気で可愛いの! もう百合カップルにでもしたいくらい!」
「百合とかよく知ってますね。確かに百合はいいものです」
「そうなのよねぇ……でもね? やっぱりしっかりと男の子を好きになってほしいな~って思うの」
「それはまぁ……ここにいるコイツだって立派な女の子ですしねぇ」
「そうね。ところで、どう? リリィーナちゃん、貰ってかない?」
「そうしたいのは山々ですが、残念ながら自分はまだ求められてはいないですからね~」
やはりリリィーナが求めてこない限りはどうしようもない。
「そういう条件付けでもしているの?」
「はい。絶対かどうかは自分でも分からないですが、仮にリリィーナが求めてくるようだったら応えると本人には言いました」
「そうなんだぁ~じゃあリリィーナちゃんが求めたら応えてくれるかもってことね~」
「そういうことになりますね」
何度も言うが彼女は魅力的な女の子だ。
立場なんかはどうでもいい。可愛くて優しい女の子なんて、それ以外はいらなくなるのが普通だ。
そこまで考えた時、夏恋が服の裾を握ってきた。顔もどことなく不機嫌そうな感じ。
「どうしたんだよ?」
「潤一は本気でアインツベルンちゃんを狙おうとしているの? 私はやだな……潤一は私の側にいてほしい……」
「あらあら? あなたはどちら様?」
「あ、こいつは俺の姉なんです」
「そうなのっ? あんまり似てないから姉弟だと分からなかったわ」
まぁ無理もない。夏恋とは違って俺の顔は普通だしな。
「もしかしてだけど……あなたのお姉さん、あなたのことが好きなのかしら? 恋愛対象としてって感じでさ」
「いやいや、そんなわけないでしょう? そもそも、姉弟じゃ認められませんよ」
「潤一が好きだもんっ。それは普通の女の子と男の子としての意味だよっ!」
「えー……」
いきなりそんな大胆な告白をされても困る。昔から過剰なスキンシップで「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」と、思ったことは何度もあった。
それくらい距離感が近くて勘違いしそうになるのを何度も己の力のみで踏み留めた。その間違いを押し通してしまったらきっと社会的に終わると思っていたから。
だが夏恋はそんなことを簡単に言ってしまう。恋は盲目という言葉があるが、それは姉弟でも同性でも変わらないらしい。
「冗談はよしてくれよ姉貴。俺が間違いを犯したらどうすんだ」
「その時は責任とるもん。私だってもう子供じゃないんだよ?」
そういう問題ではない。全ての女子に当てはまるか分からないけど、子供だって産めないんだぞ?
こいつは小さい子とか好きそうだし、絶対に好きな人との間に子をなしたいとか思いそうだった。
仮に俺らが幸せな家庭を築けたとしても、必ず傷つく場面や白い目で見られる時がやってくる。
「やっぱ無理だ……」
「潤一……」
これは夏恋のためだ。夏恋ならばきっと優れた男がいるはずだ。
幸せを深めるためである付き合いや結婚を、わざわざ悪い方向に持っていく必要はない。
毎日楽しく書かせてもらっています。




