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嘘なんです、ごめんなさい。ならば何故。

いつもありがとうございます。

「これは……どういうこと……ですの?」

「すまん……」


 リリィーナの視線に耐えられなくて、俺は謝ることしかできそうにない。

 現在俺達はリリィーナ家の一階、その大広間にて並んで座っている。

 周りでは先程目にした警備員達が右往左往しており、また、アマリアも指示を飛ばすことに精を出していた。

 正直言って、今更「嘘なんです止めてください」と言える地震はない。


「あら、リリィーナ起きたのね。もう、お付き合いを始めたのなら最初から言ってくださいよ」


 やばい。アマリアの言葉に金髪娘が固まる。……アマリアを責めるつもりはないが、今この時ばかりはタイミングが悪かった。


「私とこの方が付き合ってる……? と、お姉様は言うのですか?」

「ええ。私も先程初めて潤一様から聞きました」

「そ、それは間違いですわ! この方となんて……付き合ってないですお姉様!」

「えぇっ!? でも潤一様はこうやって……」


 気配でアマリアがこちらを向いたことが分かった時には既に、俺は土下座をしている。


「……ごめんなさい!!」

「……もしかして、嘘……ですか?」

「……ごめんなさい!!」

「……そうならそうと早く言ってください……皆に迷惑をかけてしまったじゃないですか……」

「……それも含めて、ごめんなさい……」


 一切言い訳をせずに俺は謝ることに徹した。少ししてから顔をあげると、困惑しているアマリアを見てもう一度頭を下げる。


「あぁ……もう頭を上げてください! 勘違い私も悪いのですから……」

「天使や……天使がいるぞ……」

「天使じゃないですわっ! あ……いえ、天使のようなお姉様ですが、しっかりとした人間ですわ!」


 もうそんな細かいことはどうでもいい。俺にとっては天使、これは避けようがない事実だった。

 

「……でも、どうせならリリィーナとお付き合いを始めてもいいんですよ?」

「お、お姉様っ、余計なことは言わなくていいですわ!」

「いえ、私は本気です。リリィーナはことごとく縁談を断ってきていますし、学園を卒業しても見合いを受けるつもりはないのでしょう?」

「それは……そうですわね。好きでもない殿方と結婚など、絶対にしたくはないですもの」


 分かる。誰だって好きな子と結婚したいものだろう。それが仮に異性だろうが禁断の同性だろうが、誰だって同じ気持ちだと思う。

 好きだから特別な関係になりたいと思うのは当たり前のことだ。現時点でそういうつもりはないが、絶対俺の人生の中で何度もそう思える程の女の子が出てくることだろう。

 というか既に、リリィーナや椎菜をはじめ、学園には魅力的な女の子は沢山いる。


「だから、潤一様とはどうですか? というお話です」

「……仮に私にそういう気持ちがあったとしても、この方が応じるはずがないですわ」

「いや、別にお前が望めばいくらでも付き合うぞ?」

「ふぇ?」


 多少面倒くさいところがあってもリリィーナは魅力的な女の子だ。案外優しく面倒見がいいところだってこいつは備えている。不動産屋で優良物件を見つけた時のような気持ち、と、言ったら分かりやすいだろうか。しかもこいつは立場的にもしっかりしているため、願ってもないくらいだ。

 しかし、そういう側面だけで見て付き合うなどというのは失礼なことだ。それこそ政略結婚のように、ばっくだけ見られていることと全く同じだと思う。

 仮に特別な関係になるのならば、相手をしっかり理解するのが先のはずだった。


「お前が望めばって言ったからな。少なくても、お前に決定権があるようなもんだし、俺にはどうもできねえよ」

「……そういうものですかね?」

「はい。それと、話は変わりますが……アリアナさん、潤一『様』と呼ぶのは止めてくれませんか? 俺はそう呼ばれるような存在ではありません」


 逆に俺がアリアナやリリィーナのことを様付けするのが普通かもしれないこの場所で、何故立場が上のアリアナが俺を様付けするのか。それが俺には分からなかった。

 

「お姉様は基本的にお客様に対して、そう呼びますわ。あなたや夏恋さん達と違って、相手にしてるのは本物の権力を持つ方ばかり……なので、それがもう癖になっているのですの」

「ああ……お前の「ですわ」口調と同じってことか」

「私のは癖でも何でもありませんわ!」

「はいはい。理由は分かったけど、落ち着かないんだよなぁ……お前、何かいい案出せよ」

「何故私が出さなければなりませんの!?」


 今更「潤一」と呼ばれても何か違う気がするし……。


「まぁあなたの名前など呼ぶ必要もないですわ」

「おい……」

「私はそのまま潤一様とお呼びしますね」


 ああもう! リリィーナにそっくりなお姉さんだこと!

 その落ち着いた感じはリリィーナにはない魅力だが、根本的なところが変わらないのかもしれない。

 しかし、義理でもない限り姉妹で似ているのは当たり前なことだ。疑問を抱く必要もない。

 ただ、だから納得できるという話ではなかった。つまり、このお姉さんも相当、質の悪い存在ということだ。


「……もう遅い時間ですね」

「あっ、そういえばそうですね……すっかり時間の存在を忘れていました」


 大広間に飾り付けられてる立派な時計は、現在は九時だぞ、早く帰れと、主張していた。

 俺はすっかり寝落ちしそうになってる夏恋を再びおぶって、リリィーナ達に別れの挨拶を告げる。


「じゃあもう帰ります。今日はありがとうございました。……リリィーナも、今日はサンキュな」

「私も楽しかったから大丈夫ですよ。また今度、その時はもっとゆっくり会話ができるといいですね」

「私はその……正直あなたといるなんてあり得ないことですが……苹果さんと話せましたし、楽しかったですわ」

「おう。じゃあな」


 リリィーナ家から出る過程で警備員の方々が俺らに対して礼をしてくれたので、俺も「お疲れ様です」と、言って広大な敷地を後にした。


「重いな……」


 正直言って、眠っている人間を背負うのは相当重く感じる。昼間はそんな感じはしなかったため、余計にその差に驚いているのかもしれない。

 少しだけ盗み見てやろうと画策して、夏恋の寝顔を見てみた。

(こいつ、まつげとか長いな……)

 姉だというのに、無性にドキドキしてきたことが自分でも信じられない。顔をブンブンと振って、俺は歩みを再開する。

 夏恋は、昔から無防備なところが多かった。その度に俺が困り果て、俺が困ることで更にニコニコする夏恋の図。……見かただったり、立場が変わればご褒美に見えるかもしれないが、俺にそんなアブノーマルな趣味はない。

 女と男という壁の前に俺達は姉弟にも関わらず、スキンシップが過剰だったり、言動に危うさが多々あった。きっと夏恋にそういうネガティブな感情は一切ないのだと思う。

 子供の頃に夏恋に対して劣情を抱いたことは、一回や二回ではすまない。本当に危うかった時は「こいつが求めてるから、誘ってるからいいだろ?」などという、自らの悪魔の囁きに負けそうになったくらいだ。

 そういう体験があったからこそ、女の子と関係作りに鎖をかけているのかもしれない。ただし、その鎖が全て悪というわけではない。

 この鎖が抑止力になってくれたことで無駄な傷を負わずにすんだ事は確かに多かった。

 自ら告白してあっけなく玉砕という体験をしてこなかったことで、女性に対する恐怖が植え付けられたわけではないし、その女性への恐怖から男子にターゲットを移したなどの悲惨なことはないのだ。ある意味慎重さをくれたいい縛りだったと思う。


「……ふわぁ~……あれぇ……ここは?」

「もう外だよ。姉貴の家まで送ってく」

「……ありがと~……道は教えた方がいい?」

「まぁ、頼む」


 もう真っ暗な道で行ったこともない夏恋の家に行くのは少し抵抗はある。

 いや、どうせ学院に通う途中にある住宅街にあるのだから、道については不安はない。……俺が不安を感じているのは、母と遭遇する可能性があるということだった。

 でも、遭遇するなと思えば思うほど、遭遇してしまうのが、この現実というものだろう。


「か、母さん……」

「潤一?」


 後から聞いた話だが、連絡もよこさず帰りの遅い夏恋を探しに行こうとしていた時だったらしい。

 俺は母と実に三年ぶり以来の再会だった。


「はい。潤一は炭酸が好きだったでしょ」

「う、うん……」


 ぎこちない会話。どことなく空間にも気まずい空気が流れ始め、いつもは助けになるはずの夏恋も、ただ黙ってるだけだ。

 こういう時こそ空気を読まずに特攻してきてほしいわけだが……、結局、夏恋は動く素振りをとらない。


「久しぶりね。あの人とは上手くやってる?」

「まぁ……けど親父は殆ど家にいないから、何とも言えないよ」

「そうなの? ……離婚……したほうがいいのかもしれないわね。それがあなた達のためになるのなら」

「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり離婚はいきすぎって話でしょ? それに、もし離婚するつもりがあったのなら、とっくに別居を始めた時にしていたはずだ!」


 それに俺達を理由に母が離婚したいだけだろう。確かにあの親父とは早く離婚したほうがいい気もするが、俺達のためとか嘘をつき、それを口実として離婚されるのは納得がいかない。


「……分かってるわよ……でもね、私達が離婚しなかった要因も、またあなた達のためなのよ?」

「え?」

「考えてもみなさい。私の稼ぎはパートの一本のみ……それでどうやって夏恋の世話と。私の生活が維持できるというの?」

「じゃあ?」

「あの人にお金を出して貰っていたのよ。幸いあの人はお金だけは持っていたわ。潤一の口座にもしっかりお金が振り込まれていたはず……違う?」


 それは確かにそうだ。ほぼ一人暮らしの俺には少し多いくらいの金額が毎月振り込まれていた。

 親父の職業について考えたことなど一回もない。金を貰っておきながら、親父のことなんて考えたくもないと、避け続けてきたからだ。

 でもそれは……、あまりにも親父が不憫ふびんなんじゃないか?


「……じゃあ何でわざわざ別居なんてしたんだよ」


 そう呟いた俺の声音は、いつもよりも低かった。

今日限定かもしれないですが、朝十時に上げた結果、いつもより多くて驚きました……。


ただ、今日だけという可能性も否定できないので、しっかりやっていきたいです。

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