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女の子の群れ。笑みを浮かべる悪魔。

いつもありがとうございます。読んでいただけたら幸いです。

「……増えたなぁ……」


 俺の前を歩く女子の群れを見て、思わずそう呟かざるを得なかった。

 リリィーナと椎菜、麻衣と亜夢の存在は理解できる。が、そこにいるのは四人だけではない。

 まず俺の横でニコニコしてる夏恋。その夏恋の横に森塚がいて、前で歩いてる亜夢の横には姫もいた。

 ……ここで予想外だったのは、何よりも姫が楽しそうに笑っていることだ。……夏恋が付いてくれば付随して森塚達も来ることは分かってたし。

 俺が軽く驚いていると、夏恋が話しかけてくる。


「姫ちんが笑っているところ初めて見た?」

「まぁな。それより、姉貴は姫先輩のこと知ってるんだな」

「……まぁ……正直クラスも少ないし、私は何より生徒会長だからね。一応皆の名前を把握しているつもりだよ~?」

「そうか」


 一応と夏恋は言ったが、きっと本当に覚えているのだと思う。昔から夏恋はそういうところが器用なタイプだった。だからよく歴史の偉大なる人物を覚えるためのコツを教えてもらったりしたしな。

 どこか別のところの赤ちゃんと間違えたんじゃ、と言いたくなるほど、夏恋と俺の差は大きい。

 一方の俺はかなり適当だし毎回テストで悪い点を取ってくるような息子だったからこそ、母から見捨てられたのだろう。

 まぁあのクソ親父と母の元かと言われれば、クソ親父のところにいたほうが自由に生きられるといった感じだが……。金も入るしね。


「潤一君、何か食べたい物はありますか?」

「……特にないですね。もう皆がいてくれるだけで十分です」


 正直リリィーナ達に合わせるのはまだ疲れる。あいつは椎菜と二人きりになりたいくせにとことん俺を利用しようとするから、その度に俺が椎菜に怒られる展開になるのだ。

 リリィーナの好感度はともかくとして、椎菜の好感度は下がっていくばかり……。正直、労働とその報酬が合っていない。

 あいつにしたって、もう少し何かあっていいはずだ。……弁当は貰ったけど、殆ど疲れるだけ。


「お~? ハーレム狙ってるの?」

「……なわけない。森塚先輩の前で余計なことを言わないでくれ姉貴」

「……ハーレムですか……それもいいかもしれませんね」

「先輩は意味分かってます?」


 少しだけズレのある森塚のことだ。そう発言していても本音は違うに違いない。

(大体この面子でハーレムだって?)

 まずほぼメインである二人からして、俺には荷が重そうだ。そして、まいまい――――麻衣がいないと付いてこない亜夢なんかはもっと無理。……麻衣は俺に対して気さくに接してくれるものの、そういうつもりはないだろう。

 よって、俺はこの学園にただ通うだけで終わりそうだった。……こうして誕生日パーティ? を開いてくれて「もしかして俺って幸せ者?」などと勘違いして終わる……。その光景が容易に想像できるのは何故だろう。


「てか、皆の家ってどこなんです? この学院って結構上のほうですし、大変じゃないんですか?」

「大体は学院の寮に泊まっていますね。けど、家から通う者もいます。私や夏恋さんもそうですし」

「私はお母さんに「寮の方が皆と楽しめるから!」って説明したけどダメだったよ~だから、家から通ってるの」

「ほ~そもそも姉貴ってどこら辺に住んでるんだ?」

「この上り坂――――今は下りだけど、その下りきった先くらいだよ」


 そう聞いて、確かに住宅街があったなと思い出す。

 別に聞いてどうなるわけではない。ただ、聞いてみたかっただけだった。

(俺らが喧嘩してるわけでもないしな)

 少なくても俺は夏恋に対して遠慮する必要はなさそうだ。というか、昔から夏恋の方が俺にべったりだったし、俺に遠慮があったとしてもこいつなら引っ付いてくるに違いない。


「おーい! 歩くの遅いよ~!」


 気づけばかなり先を歩いていた第一陣に属してる麻衣から呼びかけがあった。森塚が微笑を浮かべて「急ぎましょうか」と言ってくれる。

 待たせるのも悪いと思って俺は歩く速度をあげた。正確には、俺と森塚だけが、だ。


「……歩くの早いよぉ……」


 そうでなくても遅かった状態から少しぐらい速度をあげたくらいなのに、それでも夏恋は音を上た……どんだけ体力ないんですか。

 仕方なく俺がしゃがんでやり、自らの背中をポンポン叩いてやると、夏恋はダイブする勢いで乗ってくる。


「うぉっ……」


 その瞬間に鼻孔をくすぐる柑橘系の匂い。……背中にはヤツ自体の確かな感覚。……更に言えば、密着する二つのインパクトがある感触だ。

 成長したなぁ、などと呑気に構えてはいられなくなった。こいつが姉貴だろうが何だろうが、女であることには変わりないのだ。

 早いとこ麻衣達の元へ行ってしまおうと、俺はスピードをあげる。森塚も自然とそれに合わせてくれた。


「お~生徒会長さんと仲良しだぁ」


 追いつくとまず麻衣が話しかけてくる。俺はそれに「姉貴だからな」と言って、静かに背中にくっついたままの夏恋に降りるように指示した。


「ふぅ~ありがとう! これでお買い物の時、しっかり自分の役割を全うできそうだよ!」

「おう」


 多分俺がおぶってなくてもスーパーにいけば結果は変わらない。それが夏恋だ。


「む、私は少し生徒会長さんと潤一くんの関係が、危うく見えてきました」

「近親相姦とか絶対ないからな。おいおい……椎菜さんのクールさはどこいってしまったんだよ……まさかアインツベルンに影響されてるのか? 駄目だぞ」

「わ、私のせいにしないでほしいですわっ。まず、どうして私が悪みたいな印象になっていますの!」


 こういう勢いのある子の相手は楽だ。自分の思ってることをしっかり言ってくれる。

 そして、その反対の例が正に、朝雛亜夢や朝雛姫の類だった。


「……よく考えてみればあんたって、本当にラノベ主人公みたいな人間よね」

「……それ。潤一は色々な女の子に手を出しすぎ」


 この姉妹の相手は椎菜よりも厳しいかもしれない。……反対とは言ったが、実際は思ったこと全てを言いすぎてしまうのがこの二人なのだ。


「別に俺は特別な関係になりたいとかじゃなくて、友達になりたいだけなんだよ。それに、それが学院の今現在の目的でもあるだろ? なら、俺が仲良くするのはいいことだ」

「はいはい。結局そうやって理由を作ったところで、見た感じはそう変わらないから」

「……まったく」


 この二人相手だと俺が何を言っても悪に捉えられそうだった。そこに夏恋が「まぁまぁ」と止めに入ってくれる。


「潤一は昔から女の子とは無縁な子だったから、新鮮なんだよ。何とかしなきゃ! って躍起になってるだけなんだから」

「へ~あんたそんな女が得意みたいな見てくれしておいて、女に対して初なんだ~意外~」

「……仕方ないから私が相手をしてあげる」

「うんうん。これこそ姉の働き、だよね!」


 全く役に立っていない。それよりもっと俺の存在を惨めな感じにしてくれた夏恋の後頭部にチョップをかましてやった。

「痛いっ」と涙目になってる夏恋を無視し、この中では聖域という感じの森塚と話すことにした俺は、夏恋を優しく撫でてやってる森塚に近づこうと――――したのだが、できない。

 何故なら、またもリリィーナが俺の腕を掴んだからだ。


「どうした?」

「ちょっとあっちで……」


 リリィーナが指差した先には、裏に隠れられそうな壊れかけの家がある。

 俺が頷いて歩きだすと、彼女もまたついてきた。


「で、話って?」

「……あなたは先程から何故、私に話しかけてきませんの!」

「……えと、だってお前は先に行ってたし……」


 それに距離だって開いていた。大体、このリリィーナにしたって、俺の方には一回も顔を向けてなかったしね。

 だから話しかける必要もないかな。そう思ってやっていたことだったが、コイツにはどこか気に入らないところがあるようだ。


「亜夢さんや姫さんとは会話をしていましたわ。……それに麻衣さんとも……本当に取っ替え引っ替えしようとしていますの?」

「……はぁ、だからそんなつもりないって。ところでお前はしっかり名前呼びできるようになったんだな。仲良くなったことだし、無理に俺が入る必要もないだろう?」


 そこまで空気の読めない俺はではない。


「それにお前から一回も名字か名前で呼んでもらったことないしな」

「そ、それは……」

「何だ? もしかして恥ずかしいとか?」

「そんなわけありませんわ! 芳情! 潤一! これでいいんですの!?」

「お、落ち着け……まぁ別にいいんだけどさ」


 この切り出し方を見るに、まるで俺が、名前呼びしてもらえなくて嫉妬しているみたいだ。

(少し言い方をミスったな)

 リリィーナのことだ。自棄糞やけくそ状態では言うかもしれないが、普段は絶対と言えるほど、彼女は意地でも俺のことを名前呼びしてはこないと思う。

 別に名で呼ばれなかったところで何ら弊害へいがいはないが、もしかしたらワンチャンあるんじゃ? と、少しだけ期待してしまってる俺にはガッカリな話ではあった。


「……そういえば皆さんのことを呼び捨てにするようになったそうですわね」

「まぁな」

「じゃあ……私も今度こそ、神に誓って、名前呼びを許可しますわ」

「え? まじか……神に誓ってって言ったよな? じゃあもう取り消せないぞ?」

「さぁ! ……呼んでみなさいですの」

「リリィーナ」


 ちょっと個人的にもイケボじゃね? と言えるような声音で言ってやると、目の前の女の子は顔を真っ赤にして固まってしまう。

 そういう反応は正直止めてほしい。どんな反応をするか、そしておかしな反応をしたらからかってやろうとしたのに、計画が無駄になってしまう。

 リリィーナもハッとなり慌ててゴホゴホと咳き込む仕草をしたが、わざとらしいことこのうえなかった。


「潤一くん……?」

「げっ……し、椎菜さん……」


 妖艶な笑みを浮かべた彼女に思わず俺は後ずさる。

 下がって下がって、リリィーナが軽く悲鳴をあげたのを無視して尚も、逃げ続けた。

 恐らく俺は、今日ここで死んでしまうのだろう。せめて天国にしてください、お願いします。

 そうやって、静かに目を閉じて思考を放棄した。

現在の設定だと、

椎菜苹果と椎菜薫子(別名学院長)が「潤一『くん』」と呼ぶタイプ。

森塚愛乃と寺田麻衣(別名まいまい)が「潤一『君』」と呼ぶタイプ。

芳情夏恋と朝雛亜夢が「潤一」と直接呼ぶタイプとなっています。


そして、リリィーナ・F・アインツベルンだけが、名前呼びはしてないですね。決まってないです。

もっと仲が深まったら、もしかしたらあるかもしれませんね。今回の話ではノーカウントです。

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