第二章 消音(真白視点)
体育の授業が終わって、同じクラスの人たちが話しかけてきました。
すごく驚きました。
だって、初めの一週間は優しく話しかけてくれていたみんなも、その後は面倒くさそうにしていました。
話しかけてくれることも、反応をしてくれることも無くなりました。
だから話しかけてくれて嬉しかった。
その瞬間までは。
私は何を言われているのかわかりませんでした。
だって、みんな優しい人だから。
そんなに酷いことばかり言うはずがないのだから。
邪魔だと言われた。
うざいと言われた。
色目を使うなと。
男に媚びるなと。
本当に声が出ないと証明してみろと。
頬を叩かれました。
怖い。
私を囲むみんなが真っ黒に見えます。
初めて見る表情をしています。
怖い。
____声が、出ない。
目を開けると、視界には真っ白なカーテンが見えました。
私はあの後、倒れて保健室に運ばれたそうです。
私のそばには、同じクラスの前川志音ちゃんが居てくれました。
園田くんや立城くんと幼なじみだそうです。
体育の授業の前に立城くんから教えてもらいました。
「何かあったら前川を頼れ。」と。
その意味が今、やっと分かりました。
「あ、天使さん。目が覚めた?」
前川さんが覗き込んできました。
大きな二つの目が心配そうに私を見ています。
「ごめんね、すぐに助けられなくて……。」
それは仕方がなかったのです。
係で呼ばれていたのだから。
私が首を振って応えると、前川さんは眉を下げてもう一度謝ってきました。
私は大丈夫なのに。
ドタドタと騒がしい足音が近付いてきました。
その足音は保健室のドアを壊す勢いで開けると、ベットの前で止まりました。
「前川、天使は起きたか?」
私の大好きな声が聞こえました。
何故だか力が抜けて、目から涙が溢れます。
前川さんが焦っています。
そして、カーテンの向こうに居る二人を呼びました。
二人はゆっくりと入ってきます。
彼の姿を確認すると同時に私は、彼に飛びつきました。
立城くんは本気で驚いています。
でも私は小さな子どものように泣きじゃくりました。
彼を見て、彼の声を聞いて、安心したから。
みんなに囲まれている時、一人ぼっちに戻ってしまった気がしたから。
彼と出会ったのが夢だった気がしたから。
「…お前、声が……。」
立城くんの呟きは今の私には聞こえませんでした。
そして彼の表情も、今の心情も何にもわかっていませんでした。
私はまた彼に迷惑をかけてしまったのです。