第二章 消音(奏汰視点)
久々の教室は記憶の中よりもずっと静かだった。
初めはざわついたり、話しかけられたりもした。
けどそれはすぐにチャイムの音によって途切れた。
事情を知っている先生たちは出来るだけ低く落ち着いて話してくれていた。
何故だか落ち着かなかった。
斜め前の席に天使が居た。
小さいけど真っ直ぐに伸びた背筋は教室の中の誰よりも凛としていた。
久しぶりの授業、一時間目はほとんど集中出来なかった。
授業の間の休憩時間。
輝と天使と話していると、視線を感じた。
全然教室に来なかった人が来たんだからその視線は当たり前かもしれない。
でもその視線は、好奇心とか、そういう視線ではなくて……。
昔に受け続けた、人間の汚い感情の含まれた痛々しい視線だった。
(天使さん、輝くんと話してるよ)
(私たちとは話さないくせに)
(本当に声出ないのかな)
(構ってほしいだけかもよ)
……あぁ、何も変わってなかった。
俺が声のする方を見ると、何人かの女子が一斉に顔を背けた。
こんなだから、来たくなかったんだ。
あの時の自分は。
女子の会話が聞こえたのは俺だけ。
天使はそんな風に思われていることすら気付いていないだろう。
……関わらない方が良かったのかもしれない。
俺達が、天使の今までの生活を壊してしまったかもしれない。
体育の授業が終わって、天使は教室に戻ってこなかった。




