第三章 変調(真白視点)
「俺、やっぱり天使ちゃんのこと好きだわ。」
いつもみたいにどこか余裕のある笑顔はどこかへ行ってしまったみたい。
輝くんは引きつった笑顔で言いました。
そんなに無理して笑わなくてもいいのに。
私は、輝くんからの告白を断りました。
断った時、輝くんは何かから吹っ切れたように笑いました。
「天使ちゃんは、天使だよ。」
私は…そんなに綺麗なものじゃないよ。
「だったら輝くんは、ヒーローかな。」
出会った時からずっと、私のことを救ってくれていたから。
私は…悪魔の方が向いてるよ。
それは言いませんでした。
きっと彼を悲しませるから。
こんなに汚い感情を持っている私は、天使になんてなれません。
私の頭に浮かぶ天使は…。
初めてあった時から、不機嫌そうで、どこか悲しそうで。
不器用で優しくて。
人のことばかり気にして、自分だけ悲しい思いをしてしまうような人。
きっと耳のことだって、周りを気遣いすぎた結果だと思います。
そんな優しさが、私はずっと苦しかった。
それでもそれ以上に、彼のことが好きになっていた。
純粋な恋心が、どんどん悪魔に支配されて、汚れて。
私を救ってくれようとするみんなを嫌いになりそうで。
自分のことを嫌いになっていって。
そんな時、志音ちゃんが言ってくれたんです。
「私、奏汰に告白する。きちんと自分の気持ち伝えて、応えてもらって、前に進む。だから真白ちゃん。」
「一緒に進んでくれませんか?」
小指を立てて、私に向けて彼女は眩しく笑いました。
私はその小指に自分の小指を絡めて頷きました。
「私も、前に進みたい。」
いつまでも弱いままじゃ嫌だ。
いつまでも一人で自分を嫌い続けて、また前のようになんて戻りたくない。
それに私はもう、一人じゃない。
小指を絡めたまま、志音ちゃんは楽しそうに手を揺らします。
「真白ちゃんと出会えてよかった。」
「それもこれも、奏汰のおかげ。…あと、輝も。」
「みんな、一緒に進もう。」
ニコっと笑う志音ちゃんの笑顔はやっぱり眩しくて、思わず目を細めます。
私も、志音ちゃんみたいに強くなりたい。
そしたらきっと、もう迷うことなんてなくなるだろうから。
立城くんと出会って、人とお話しすることの楽しさを知った。
人の怖さを知った。
孤独の恐ろしさを知った。
自分の中の汚い感情を知った。
人の優しさを知った。
人の温かさを知った。
人とケンカするときの悲しさを知った。
苦しさを知った。
仲直りの嬉しさを知った。
人の弱さを知った。
自分の弱さを知った。
そして何より、人を好きになる気持ちを知った。
一緒に居たくて。
でも一緒にいると苦しくて。
話したくて。
でも話せなくて。
もどかしくて。
でも、やっぱり好きで。
死んでしまいそうだと思った。
止まりそうだった。
でも手を差し伸べてくれる人が居る。
私も、志音ちゃんの腕を揺らす。
二人で笑いあった。
保健室に笑い声が二つ響いた。




