表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

第三章 変調(志音視点)







「奏汰は強い奴だよ。」


自然と出た笑顔と言葉。


それは私の本心だった。


そんな私の言葉に、君は楽しそうに笑う。


それで満足だ。


きっとこれからも君は私の事を友だちとして見てくれる。


そして私も君をお気に入りの友だちとして見る。


その為の告白であり、その為の返事だった。




「告白、するの?」


誰に、とは言わないけれど彼は答える。


「わからない。」


落ち着いて答える君。


きっと本当は、自分の中で答えが出ているのだろう。


「そっか。」


私に残った役目としては、彼の背中を吹き飛ばす勢いで押す事だろうか。



…いや、やめておこう。


囃し立てて彼らのペースを崩してしまうのも困るし。


それに、もう背中を押す必要もなさそうだから。


私にできることはここまでか。




奏汰が音楽室から出て行って、私は一人でピアノの前に座った。


あの日、奏汰に教えてもらった『猫ふんじゃった』は相変わらずうまく弾けない。


半音ズレている。


私にはピアノの才能は無いようだ。


…知っていたけれど。



もともと音楽は苦手で、音楽を聴いても眠くなるし、


ピアノの演奏に込められた気持ちだとか、


作曲者の想いだとか、


感じ取ることが出来なくて。


曲を聴いた感想をみんなはスラスラ書いていく中、私はいつも『すごかった。』だの『落ち着く。』だの適当にやり過ごしていた。


…音楽に限られたことじゃ無いけれど。


私はいつも言葉にすることにこだわっていた。


そうじゃないと伝わらないし、伝えられないと思っていたから。


相手に伝えてからが本番じゃないか。


そう思っていた。


そんな私に、いつの日か彼が言ったのだ。


「言葉以外にも伝え方なんていくらでもあるだろう。」と。


「感じ取ろうとしていないだけだろう。」と。


私はずっとその言葉の意味を考えていた。


ヒントはここ最近の出来事の中に転がっていた。


真白ちゃんと出会った日。


声で伝えられない彼女はただ笑って私の手を握った。


確かに、『よろしく』と聞こえた気がした。


声が出なくなった真白ちゃんを一人にしないと誓ったあの日。


『ありがとう』と確かに聞こえた。



奏汰の言葉の意味。


少しだけわかった。


クラスのあの子たちも、最初からあんな感じじゃなかった。


最初のうちは、普通に話しかけてくれていた。


私はそれを無意識に拒否していたのだろう。


「思いやり、ってやつかなぁ。」


ぽつりと鍵盤に転がる独り言。


私に足りないのはきっと『思いやり』だ。


相手のことを考えて、想像して、理解しようとして。


それで…?


どうするのだろう。


簡単にわかればこんなことになっていない。


私はこれから勉強をしなければ。


きっとたくさんの課題が積み上げられている。


まずは彼女らと和解することか。



うげー、と嫌な顔。


思いやりをしすぎる彼らはいつもどんな気持ちなのだろう。



初めて恋をして、初めて友だちを想って、初めて失恋して、初めて、


他人に興味を持った。


うまくいくかわからないけれど、私は決めた。



進もう。


見えていなかった壁も壊してしまおう。



彼らが進もうとするように、私も進みたいと思ったから。


成長したいのだ。


これが私の大きな第一歩だ。



もう一度弾いた『猫ふんじゃった』は、やっぱり半音ズレていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ