第三章 変調(真白視点)
私は口を開きました。
志音ちゃんに返事をするために。
「私も…」
みっともなく震えた声が出ました。
志音ちゃんが驚いて顔をあげます。涙で濡れたその顔を。
「私も、友達で居たかったから…だから。」
久しぶりに出した声は掠れていて汚い。
それになんだかクラクラします。
それでも私は続けました。
「だから、志音ちゃんだけが我慢をするのは嫌だったの。」
ガクガク震える足と身体。
声だって全然出てない。
それでも志音ちゃんは、また嬉しそうに泣くのです。
嬉しそうに、だけど少し申し訳なさそうに。
だんだん視界が暗くなって来ます。
志音ちゃんが焦ったように立ち上がります。
私はそこで意識を手放しました。
目を開けるとどこかの天井が見えました。
周りはカーテンに囲まれていて、保健室のようです。
「起きた?」
志音ちゃんが覗き込んで来ます。
私が頷くと、彼女は申し訳なさそうに笑いました。
「びっくりしたよ。急に倒れちゃうんだもん。…大丈夫?」
不思議でした。どこも痛くないのに…。
「大丈夫みたい。ありがとう志音ちゃん。」
私が言うと、志音ちゃんは顔を歪ませて私に抱きついてきました。
「よかった…。本当によかった。」
いろんな意味が込められた『よかった』の言葉に、視界が歪みました。
私たちはしばらくの間、抱きあったままないていました。
保健室に、二人分の泣き声が響いていました。
志音ちゃんは、私に言いました。
もう我慢しないで、言いたいことはなんでも言って欲しいと。
私も志音ちゃんに言いました。
自分の気持ちを殺さないで、私にもなんでも言って欲しいと。
二人で顔を合わせて、笑います。
笑い声も二つ、保健室に響きました。




