第三章 変調（真白視点）
「真白ちゃん、話そうか。」
真っ直ぐな瞳をして、志音ちゃんが言いました。
その瞳が何故だか苦しくて目をそらしてしまいます。
その卑怯な私の腕をしっかり、でも優しく、志音ちゃんが掴みます。
そして優しく言うのです。
「真白ちゃんの事を知りたい」と。
私は、頷くしかありませんでした。
志音ちゃんが言います。
私があの時、保健室に居た事を知った上で。
立城くんとは何でもないと。
誤解していると。
なるつもりもない。
でもそれは私の為ではないと。
……嘘つき。
どうして我慢してしまうのかと。
それは志音ちゃんも同じでしょう？
言ってくれないとどうしていいかわからないよ。
「私にはわかってほしくない？」
『ちがう！！』
声が出ないことなんて分かっているけれど、叫ばずにいられなかった。
それだけは絶対に違うから。
わかってほしくないなんて思えるわけない。
私だって志音ちゃんの事もっと知りたい。
私の事だってわかってほしい。
何だって相談したいし、してほしい。
そんな事言わないでよ…。
志音ちゃんの瞳がさっきよりももっと優しくなりました。
そして、もう一度問います。
「どうして、避けているの？」
『私、二人の事見てるとずるいって思ってしまう。』
……すごく仲良しで、信頼し合っていて。
『私の中にこんなに汚い感情があったなんて知らなかったです。』
……心が、真っ黒に塗りつぶされるような感覚。
『こんな気持ちを抱えたまま、仲良くしてもらうなんて出来なかったんです。』
……友だちのことをほんの少しだけでも憎いと思ってしまうような私になんて。
『志音ちゃんがダメなわけないです。ただ、みんなが優しいから、自分が嫌になるんです。』
……自分の気持ちを押し殺してまで優しくしないでよ。
『優しくしてくれるのに、私は返せない。』
私はそんなに綺麗な人間じゃない。
「ばかじゃないの。」
志音ちゃんの震える声に驚いて顔をあげると、彼女は酷く傷付いた顔をしていました。
（あぁ、またやってしまった。）
「優しくしてくれる？私たちが、真白ちゃんの事を可哀想だから仲良くしてるとでも思ってるの？」
志音ちゃんが顔を赤くして言います。
怒っている。
でもその表情は酷く泣きそうで、苦しそうで。
震える声で、必死に息を吸いながら。
普段からは考えられないくらいに弱々しい声で。
「私は真白ちゃんだから仲良くなりたかったの。」
「真白ちゃんだから、みんな友だちになりたかったの。」
彼女はまた、私に優しくするんです。
私の前で、制服を濡らす彼女に返事をしようと携帯で文字を打とうとします。
でも、一文字目を打った瞬間。
声が聞こえた気がしました。
『まだちゃんと答えてあげない気なの？』と。
それは紛れもなく、私の声でした。
忘れそうだった、自分の声。
私は、口を開きました。
