第二章 消音(真白視点)
声が出せなくなるよりも、目が見えなくなればよかったのにと思ってしまった。
友だちの、志音ちゃんのあんな場面を見てしまった。
覗き見だなんて最低だ。
それに勝手に傷付いてしまうだなんて、馬鹿げてる。
まるで、結婚式のそれだった。
神聖な、誓いの場面。
カーテン越しに重なる二つの影を見た瞬間、まるでその空間だけが切り離されたかのように静かで…。
とても綺麗で。
汚れた感情を持つ私なんかが居ていい場所ではないと感じたのです。
音をたてないように、私は走り出しました。
もうマラソンを走り終わった後のような息苦しさに、視界が滲みます。
苦しい。
痛い。
泣くな。
泣いちゃだめだ。
私にはその資格がない。
友だちの幸せも喜べない私には…。
「……天使さん?」
優しい声が響きました。
…園田くんです。
「…どうしたの?」
背の高い園田くんが、私に目線を合わせようとしゃがみます。
やめて。
こんな私に、優しくなんてしなくていいのに。
そんなに優しい声で聞かれたって、私の声はもう出ないのに。
そんな声で聞かれたって、こんな汚い感情を吐き出せるはずもない。
頭がぐるぐるまわります。
頭の中が、これ以上動けないと限界を訴えてます。
ドクドクと鼓動と一緒に締め付けられる頭。
ふわりと、大きく温かい手が私の髪に触れました。
まるで割れたガラスの破片を集める時のように、不安げに。
生まれたばかりの赤ちゃんを撫でる時のように、愛おしそうに。
教会で神に誓う時のように……。
彼は私の頬にキスをした。
「俺にしなよ。天使ちゃん。」
________第二章 消音 完




