第二章 消音(輝視点)
次の日の朝。
昨日、天使さんが泣いていた。
その理由をなんとなくだけど察してしまった。
天使さんはきっと、奏汰の事が好きなんだろう。
奏汰はどうだろう。
あいつは優しい奴だから、彼女を放っておけなかっただけかもしれない。
……難しい。
俺が唸っていると、奏汰と前川がこそこそと話し合っていた。
「あの輝がすごく考え込んでる…。」
「妹ちゃんと喧嘩でもしたんじゃないの?」
……俺の悩み=妹のことだけだと思われているようだ。
思わずため息を吐く。
「ため息まで吐いてるけど。」
「輝お腹でも痛いの?」
「二人は俺のことをなんだと思ってるの。」
特に奏汰。
お前のことで考え事してるんだけど。
「お腹は痛くないし、妹とも喧嘩してないよ。」
と、返すと二人は心底驚いた様子で俺を見る。
「え、じゃあ何に悩んでるの。」
「お前にそれ以外の悩みがあるなんて…。」
「俺だって悩むわ!」
ことごとく馬鹿にされている。
拗ねていると、奏汰が振り返って俺を見た。
「で、何を悩んでんの。」
いつも通りの奏汰。
「奏汰ってさ、好きな人とか居るの?」
だから俺もいつも通りに聞いてみた。
「はぁ?」
呆れたように返された。
「それがお前の悩みとどう関係があるんだよ。」
「いや、俺の悩みというか…。」
さすがに聞くタイミングを間違えたと思って焦る。
そんな俺を見て一つため息を吐くと奏汰は答えた。
「居ないよ。」
「そういう悩みなら俺じゃなくて前川に聞けよ。俺にはわからないから。」
「へ!?私も無理だよ!?」
完全に誤解されたけど、聞けたからいいか。
奏汰に好きな人が居ないなら、天使さんに教えてあげるべきか。
でも…。
なんとなく、奏汰も天使さんを好きなんだと思っていたんだけどな。
また考えこむ俺を横目で見る奏汰に、俺は気付くことなく学校に着いた。




