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第二章 消音(真白視点)




初めて見た彼の笑った顔。


でも、彼を笑顔にしたのも、その顔の前に居るのも私じゃない。


私じゃダメだった……。


だって志音ちゃんはすごく良い人です。


さっきだって、こんな私に言ってくれました。


『ひとりにしない』って。


幼なじみのあの三人に、同じ距離で居られるわけないのに。


私はなんて欲張りなんでしょう。


枯らしたはずの涙が、あの時とは違う意味で溢れます。


ピアノに向かって座る二人は、本当に楽しそうできらきらしていました。




____すごくお似合いです。




「どうしたの?天使さん。」


後ろから声をかけてきたのは園田くんでした。


慌てて目元を拭って首を振ります。


私の顔を見て、少し驚いていた園田くんは音楽室を覗き込みました。


そして、私の頭に手を乗せるとそのまま優しく撫でます。


優しくて、温かくて、大きな手で。


「天使さんはちょっと待ってて。」





そう言った彼は、音楽室に入って行ってすぐに出てきました。


「天使さん。甘いもの好き?」


突然聞かれて、わからないまま頷きます。


「よし、じゃあ行こうか。」


園田くんはその大きな手で私の手を掴んで歩き出します。


反対の手に、私の荷物を持っています。


「あいつらには、先生に呼ばれてることにしたから。」


歩きながら振り返って言いました。


「ちょっと二人でお話しよ?」






そう言って連れてこられたのは、ファミレスでした。


「ここ、デザート系が美味しいんだって女の子が話してたんだ。」


メニューを私に向けて言います。


「好きなの頼んでいいよ。勝手に連れて来ちゃったからさ。」


私は迷って、それから園田くんがにこにこと楽しそうに笑うのを見て、苺のケーキを指さします。


それにOKと笑って園田くんが注文してくれます。


飲み物もついでだからと持ってきてもらうことになりました。


……すごく申し訳ないです。


戻ってきた園田くんが、色んな話をしてくれました。


三人が出会った話。


小さな頃の立城くんのこと。


志音ちゃんのこと。


自分の兄弟のこと。


園田くんは妹さんが居て、その妹さんが反抗期なんだとか。


妹さんにのっぽと言われて落ち込んだとか。


園田くんが楽しそうに話すから、私もいつの間にか笑ってました。


私が笑うのを見てまた嬉しそうに笑うのです。






私のケーキが半分以上無くなって、園田くんが切り出します。



「天使さんはさ、奏汰の事が好き?」


もちろん、好きです。


「それは友達として?」


……わかりません。


「じゃあ前川のことは?」


好きです。


「……そっか。」


園田くんは優しく笑います。


そして、頰杖をついて窓の外を見ます。



「俺はさ、そういう話にアドバイス出来るほど経験もないけど。」


「話を聞くぐらいなら出来るからね?」


「どんな話でもいいよ。」


「これが嫌だったとか、これは嬉しかったとか。」


「……これが苦しかったとか。」


「誰かに話せて、誰かに話せないことなんて誰にでもあるよ。俺だってあるよ。」


「あの二人にでも、俺にでもいい。天使さんの話を聞かせて欲しい。」


どこまでも優しく、彼は笑った。


「大丈夫。もう、ひとりにはしないよ。」




もう、涙を抑えることなんて出来ませんでした。


園田くんがこのお店の端っこを選んだのも、窓側を向く席を私に譲ったのも、彼の優しさでした。


さっき、音楽室から連れ出してくれたのも。


二人に嫉妬してしまったこんな私に、彼は優しかった。


私はその優しさにまた甘えてしまいます。





私が落ち着いて、二人でお店を出ました。


私を家に送る道の途中、彼が笑って言いました。


「天使さんってさ、どこか妹に似てるから守りたくなっちゃうんだよね。」


シスコンじゃないからね!?と慌てる園田くんが面白くて笑ってしまいました。


(こんなに頼れるお兄さんが居るなら、妹さんも安心ですね。)


と返すと園田くんは私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回して言いました。


「そんなこと言われると照れる!」


そう言う彼は嬉しそうでした。







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