表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/30

第二章 消音(志音視点)



帰りのHRが終わって、真白ちゃんが私を呼んだ。


奏汰と二人で、音楽室で輝を待つんだそう。


「でも、私も良いの?」


(もちろん!)


にこっと可愛く笑いながら頷く真白ちゃん。


奏汰も私が行くのに反対ではないらしい。


「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。」






音楽室。


授業以外では入ることもないこの教室。


何だか不思議な空気を感じる場所。


広々とした茶色の世界に、真っ黒な輝きが主張してくる。


黒がきらきらと虹色を反射して輝いている。


私はこの落ち着いた雰囲気と、何にも言い換えることが出来ないような不思議な空気が苦手だった。



真白ちゃんはピアノの椅子に、私達はその周りにあった椅子に座った。


奏汰が耳から機械を外す。


それを見た真白ちゃんが悲しそうに笑った。


奏汰から聞いた。


二人は『約束』をしていたらしい。


音楽室で話すことを。


『また明日』は来なかったのだ。


真白ちゃんの小さな小さな声は無くなったのだ。


戻るのがいつになるかわからない。


(ひとりぼっちに戻っただけ。)


彼女の声が聞こえた気がした。





真白ちゃんは静かにピアノを弾き始めた。


その音色は何処か寂しそうで……。


「ひとりぼっちになんてさせないから!」


思わず、大きな声が出た。


隣で奏汰が驚いていた。


「声なんて出なくても、真白ちゃんが私に笑いかけてくれるのなら____。」





「私たちは真白ちゃんから離れないから!」








『ありがとう。』


天使の声が聴こえた。









真白ちゃんは泣きながら笑った。


(ありがとう。)と。


そして、顔を洗ってくると教室を出ていった。


なんとなく、私はピアノに近付いて鍵盤に指を乗せる。


ポロンと静かに音が跳ねた。


「……弾けんの?」


奏汰が聞いてくる。


その顔はいつも通り。


だから私もいつも通りに返す。


「弾けるよ!『猫ふんじゃった』ぐらいなら。」


歌いながら指を動かすけど、どうも音が違う。


「馬鹿でかい歌で誤魔化すなよ。」


そう言って、冷たい手が私の両手を掴んだ。


そして、本来の位置に両手を動かす。


力強い手だった。


「……ほら、弾いてみ?」


耳元で静かな声が響く。


いつも通りの声が、いつもより近くで聴こえる。


心臓が動きを加速する。


ドクドクと、否、バクバクと忙しなく動く。


手が震える。


顔が熱い。


溶けてしまいそうだ。


(し、死ぬんじゃないのこれ!!?)


固まる私を不思議に思ったのか、奏汰が離れる。


振り返ると、奏汰はいつも通り。


「何、その顔。」


ばっと両手で頬を抑える。


熱い。


彼の冷たい手から奪われた熱で、私の手も冷たかった。


でも、それ以上に私の頬はまるでインフルエンザの時のように熱い。


それをどう勘違いしたのか、


「弾けないなら弾けないって言えばいいのに。」


と言ってきた。


私だけが動揺しているのが悔しくて、奏汰に教えられた位置に両手を置く。


少し速めの『猫ふんじゃった』が音楽室に響いた。


「ほ、ほら!ほらほら!弾けたじゃん!」


弾けた喜びとさっきの動揺から、勢いよく振り返る。




「……よく出来ました。」





そう言った奏汰は、笑っていた。


静かに、微笑んでいた。


久しぶりに見た、彼の綺麗な笑顔に見惚れる。



何だか目が回ってきた。


ピアノから退こうと椅子から立ち上がると、見事に足が引っかかる。


後ろに倒れる私を、奏汰が支えた。


「何やってんの?」


呆れた声がまた耳元で呟く。


「す、すまぬ。」


混乱して変な言葉遣いになる。


(どこの人!?何時代なの!!?)


クルクル回る視界と思考。


「すまぬって……何時代の人なのお前。」


笑いを堪えるような声だった。


奏汰を見上げるとやっぱり笑顔だ。


私も笑った。


……照れを隠すように。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ