○男子転校生運の悪さは筋金入り
一緒にいた、友達の広瀬 絢が、叫ぶように言った。
「あっ!!小島先生じゃん!!先生の隣にいるのって転校生じゃない?」
『本当だぁー!こっちに向かってくるじゃん!!』
みんなが、一斉に騒ぎだす。
目の悪い私には、転校生がよく見えない…。
けど、近づいてくるにつれて転校生のシルエットがはっきりして来た。
小学生にしては、身長が高くて、女の人にしては背の高めの小島先生の背よりも高い。
そして、先生と転校生そして転校生のお母さんが、私たちに近づいてきた。
先生は大きな声で私たちに呼びかけた。
「みんな、作業の途中だけど、こっち向いて!!」
言われなくても、大半の生徒が、初めて目にする噂の転校生に興味深々で、先生たちの方を食い入るように見つめていた。
「明日から、一緒に勉強することになりました、転校生の藤井佑介くんです。2組になるけど、1組のみんなも仲良くしてあげてね!」
そして、小島先生は、転校生の背中を押した。
『藤井佑介です。よろしくお願いします。』
早くも声変わりしているかのような、低音の声で彼は私たちに挨拶した。
背が高くて声が低くて私の回りにはいるガキっぽい男子とは違い大人っぽい。
しかし…
前髪が長く、暗い印象。お世辞にもカッコイイとは言えなかった。
私の回りの何人かの女子のため息がさっきから幾度となく聞こえるほどだった…
翌日、転校生は何食わぬ顔で教室に訪れた。
幸い、今の席は転校生である藤井に用意された席とは遠い。
先生が、席替えをすると言い出さない限り、席が近くなることはないだろう。
藤井が用意された隅の席に着いた瞬間、転校生の周りには、人だかりができた。
大半が男子。
女子が寄っていかない理由は簡単だ。
イケメンじゃないから。
ブスだとは言わないが、おまけに暗そうならなおさら女子はよっては行かないだろう。
世の中、人を顔で判断するのは間違っていると思う。だけど、どうしても最初は見た目で判断してしまうのが人間のサガなのかもしれない。
だが一見暗そうで、あんまり話さなそうな印象の藤井は、
時折、無邪気な少年のような笑顔をみせながらクラスの男子と楽しそうに話している。
私は、遠目で彼を見ながら、
「大人っぽくて暗そうなのに、あんなに無邪気に笑うんだ…
やっぱり、大人っぽくても小学6年生の男子だもんね…。
つか、打ち解けるの早いなぁー」
なんて考えていた。
いつもどおり朝の時間。
ただ一つ、いつもと違うのはクラスの人数が1人多いこと。
朝の会の時間の先生のお話で、
「もう、藤井君と朝、お話した人もたくさんいると思うけど、藤井君もこっちに来たばかりだしもっとみんなと仲良くなれるように1時間目の国語の時間は、学活の授業にしてレクリエーションしましょう!」
『やったぁー』
授業がつぶれることが嬉しかった。
だけど…
心の底から喜べない。
なぜなら、まだ、転校生の清掃班がどこなのか?
席替えはするのか? 給食班は?
私にはまだ、数々の不安が残っていたから。
そして、ついに先生の口からついにあの言葉が…
「あと、藤井君の清掃班は11班です!」
私の心の中で、自分に問いかけ続けた。
『私って、何班? つか、清掃班に、何班とかあったの…。私は、何班なの…??』
自分の清掃班な班の番号が分からない。
そんな内心慌てる私にむかって、先生は静かに告げた。
「咲希ちゃんと同じ班ね。」
その瞬間、頭の中で終りの鐘が鳴り響いた。
遠くから、仲のいい友達の笑い声が聞こえてくる…。
先生は、いつもの私の大好きな、優しい声で続ける。
「藤井君、昼休みの後、清掃があるんだけど1年生から6年生までの縦割り班で、このクラスで同じ班の子はあそこの席の相澤咲希ちゃんだけだから清掃場所昼休み終わったら咲希ちゃんと一緒に清掃場所に行ってね!」
転校生の『はい。』という返事が遠く聞こえる。
この時、私は唖然とするだけだった。
放心状態の私は、先生の一言で我に帰る。
「咲希ちゃん、連れて行ってあげてね!」
いつも優しくて天使みたいな先生が、今は悪魔に見える。
悪魔に見えても大好きな小島先生にそんな風に言われたら、
素直に「はい」としか言えない。
藤井はこっちを向いて、軽く頭を下げてくる。
本当は睨みたいところだけど、せめてもの思いで見て見ぬふりをした。
窓の外の遠くの空を見上げてみると、空は私の心とは裏腹に雲ひとつない快晴だった。




