レイヴン~フリーのハンターと二人の少女~ お試し版
だいぶ前に書いていた小説の冒頭部分を、お試し版として手直ししたものです。
お試し版ですが、以降連載版を掲載するかは分かりません。
それを踏まえて読んでください。
かつて、人類は自らの手で滅亡寸前まで追い込んだことがあった。
人々は優れた科学技術を持ち、文明を発展させ、繁栄を謳歌していた。しかし、豊かになった生活と共に、人々は他人を思いやる心を失っていった。
そして起きたのが、全人類大戦だった。
国同士の大きな戦争から個人間の争いまで、人々はあらゆる争いに身を投じ、お互いに滅ぼしあった。百億を超えた世界人口はたった一年で半分となり、ニ年で二十七億まで数を減らした。
だが、そんな急激な変化にも人類は気がつかず、さらにニ年が経過し、人口は十億を切ろうとする寸前で人々は、はたと気がついた。
自分たちがいかに愚かな事を繰り返していたのかを。
繁栄の象徴だった大都市群は破壊し尽くされ荒廃し、人間だけでなく多くの生き物も自然も死に絶える寸前だった。
生き残った人々は、このような過ちを二度と繰り返さないために、復興に必要な技術のみを手元に残し、それ以外のすべ手放すことを決定して、地下深くへと封印することとした。
機械文明の中で生活していた人々は、再び過酷な自然の中で生きていくことを選択したのだった。
時は流れ、人々は世代を重ね、千年という時間を掛け、文明としての復興を成し遂げ、さらにはかつての自然を見事に復活させていた。
だが、再生された自然は、新たな猛威を生み出していた。
真獣【まじゅう】
他の動植物、さらには人間をも凌駕する戦闘能力を有する化け物に、復興を遂げた人類は再び全滅の危機に瀕してしまった。
数ある大陸の中でもいち早く発展を遂げた国がいくつも存在し、今では、世界を動かす大陸とまで言われている、【グラット・シエール大陸】。
なぜ、真獣という脅威のある中で、そこまでの発展ができたのか?それは、各国が”遺跡”の発掘を奨励しているからである。
遺跡とは、かつて戦争を生き延びた人々が地下へと封印した施設のことで、中には現在の人々から見ればオーバーテクノロジーの数々が収められている。
先祖代々、触れてはならないと言い伝えられていたものだが、真獣という危機を前に、そして人々の内に眠る探究心と欲望は抑えられる物ではなく、一度遺跡が暴かれればその後は言わずもがな、である。
そういったオーバーテクノロジーを手にした各国は急激に力を付け、大陸の技術レベルは他の大陸を大きく突き放すことになり、真獣を撃退するだけの戦力を整えたことで、さらに発展の速度を上げている。
そして、この発展に大きく貢献したのが【レコードハンター】である。
彼らは、【サイド】と呼ばれる集団を形成し、遺跡に残された記憶体や物品など、いわゆる【レコーダー】と呼ばれるものを発掘することを生業としていた。発掘したレコーダーは、国や地方を治める有力者に買い取ってもらい金品を得ているのだ。
ハンターは、単独で仕事を行うことを禁止されており、そのためにサイドが存在しているのだが、例外と言える者がごく少数存在した。
この物語は、そんな例外という肩書きを持つ一人のハンターの話である。
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グラット・シエール大陸の南東に位置する【ブルイヤール自治区】
三国の国境が複雑に接し、いわゆる緩衝地域と言われる場所に自治区は存在し、そこをいくつものコロニー(村と町の中間程度の規模の集落)が共同で自治権を持っていた。
そんな自治区に小さな遺跡が存在した。
【ブルイヤール遺跡】
小さな丘の中に作られた施設で大昔の物資保管庫と考えられ、通称「初心者の遺跡」と呼ばれている。
単純な構造と遺跡調査に必要な基本的技術を覚えられるとして、近隣に拠点をかまえるサイドが、新人育成のために訓練場として使っていた。
もちろん、内部にあったレコーダーはすべて回収されている。
街道から遺跡へと続く道を、異様な格好の人物が足早に歩いていた。
難関と言われる”指定遺跡”の調査にでも行くような大荷物を担ぎ、軍が正式採用しているタクティカルアーマーと対刃グローブを身に着け、腰のホルスターには大型の自動拳銃が日差しを受け鈍く光っている。
アーマー同様、腰から下も防弾防刃素材のパンツと使い込まれた軍用のコンバットブーツを履き、そんなゴツイブーツで舗装されていないむき出しの地面を、ほとんど音を立てずに歩いていた。
そして、極め付けがフードつきのコートにガスマスクと見間違えそうなフェイスガードを付け、肌を一切見せない完全装備という出で立ちをしていたのだ。
街道からこっち、すれ違う人から好奇の目で見られたが、本人はまったく気にしていなかった。
『遺跡まで200M』という看板が見えた頃、遺跡の方から五〜六人の一団が歩いてきた。装備などから、新人たちの練習帰りといった感じだった。
「おい・・・なんだあれ?」
一人が気がつき、全員の視線が目の前から歩いてくる人物へと注がれる。
しかし、そんなことを気にするような軟な精神は持ち合わせておらず、”彼”は一団とすれ違おうとする。
「お兄さんよぉ。まさかそんな重装備で、あの遺跡に行くのか?」
からかう様な口ぶりで、声をかけてきた男は、16歳ぐらいの日に焼けた若い少年だった。
他のメンバーもおおよそ同じぐらいの年齢と思われ、くすくすと笑っている。引率と思われる中年の男が、やれやれとため息を漏らす。
「お前たち、あまり軽率なことを言うんじゃないぞ。この間もそれで・・・・・・」
少年たちに注意す引率の男の表情が凍りつく。通り過ぎる際に、相手の腕に刺繍された”カラスのモチーフ”が使われた識別マークを見てしまったのだ。
「だって、初心者が行く遺跡にあんな格好して行くなんて、用心を通り越してただのチキン野郎でしょ?なぁ?」
同意を求められ、メンバーたちは口々に肯定の言葉を並べる。そんな少年の口を、男は顔を真っ青にして塞いだ。
「お前たち!いいから黙れ・・・・・・・」
小声だが、はっきりとした口調で全員を諌める男。視線を上げ、遺跡へ歩いていく”彼”の姿を確認する。
一切振り返ることなく去っていく姿を見て、男は安堵し胸をなでおろした。
先輩に当たる男の行動に納得のいかない新人たちは、男に詰め寄った。
「いったい、何なんです?いきなり口を塞ぐとか」
「別に、向こうは一人。こっちは六人なんですよ?向こうがキレて襲ってきても、楽勝ですって」
若者にありがちな向こう見ずな言葉の数々に、男は無知の怖さを改めて知り、肺に溜まった空気を、ため息にして吐き出した。
「やはり気がついてなかったか・・・・・・さっきすれ違ったのは、同業者の中で『レイヴン』と呼ばれている、凄腕のレコードハンターだ。お前たちも名前と噂ぐらい聞いたことがあるだろう?」
先輩の問いに、新人たちの表情が固まる。
「レイヴンって、歴代最年少でフリーライセンスの資格を取ったいう、あの?」
新人の言葉に、無言で肯く男。
今度は、新人たちの顔が真っ青に変わる。
「た、たしか・・・・・難関って言われていた【カルム一級指定遺跡】をたった一人で攻略したとか・・・・」
「俺は、レイヴンの手柄を横取りしようとした悪徳サイドを、再起できない程に壊滅させたって聞いたことがあるぜ」
飛び出してくる情報に、言った本人たちが体を震わせる。
「そんな伝説の人物に、あれだけの失礼を言って何も無かったのは幸運だ・・・・彼が紳士だったことに感謝しよう」
見えなくなったレイヴンに、男は謝罪と感謝の念を送りつつ頭を下げ、新人たちも同じように頭を下げた。
レイヴンと呼ばれた人物は、遺跡の入り口に到着し荷物から端末を取り出した。先ほどの一件を気にしては居なかったが、やはりこの格好はやりすぎだったか、と思い始めていた。
『さてと・・・・』
とはいえ、今更脱ぐわけにもいかず、格好のことは忘れることにし、端末を操作し始める。
端末のディスプレイ上に、遺跡の見取り図が表示される。入り口から、少し進むと三本の通路に分かれ、そしてどの道も行き止まりとなっている。三本の通路は、二つが下向きに進み、一つだけが上向きに通路が延びていた。
レイブンは、端末片手に遺跡の中へ進んでいった。
初心者の遺跡と言われるだけあり、設置されているセキュリティトラップは基本的なものしかなく、すぐに分岐点まで辿り着いた。後から誰かが設置したのか、左から1号通路、2号通路、3号通路と書かれた札が貼られている。
『これで、訓練になるのかな?』
そんな独り言を言いながら、レイヴンは一番右の3号通路へ入っていく。
この通路だけ、なぜか上りになっており、小さな丘のため上への空間はかなり狭いものと、見取り図から読み取れた。
実際、3号通路へ入ってみると、先は深くなく、数十メールも進むとすぐに行き止まりとなってしまった。
行き止まりまで来たレイヴンは、背中に背負っていた荷物を降ろすと、手早く荷解きを始める。
中からは大きなスタンドと機械。そして、機械とコードで繋がる操作端末が地面に置かれる。スタンドを所定位置へ設置し、操作端末の電源を入れる。端末が起動し、一呼吸おいたくらいでディスプレイに様々な表示が映し出される。
『よし。彼女の情報がが正しければ、この辺りのはず・・・・・』
端末を操作し、スタンドの上に取り付けた機械の先端を、壁の左端の方へ向ける。そして、ゆっくりと右へと機械を動かし、注意深くディスプレイを見つめるレイヴン。三分の二ほど調べ終わった辺りで、画面に反応が現れる。
『あった!』
レイヴンは、歓声とは裏腹に冷静な動きで壁に近づき、反応のあった場所を調べる。
しかし、そこは岩肌がむき出しとなった壁である。情報では他の二つは、奥にレコーダーなどが納められた人工の保管庫が存在していて、ここだけが天然の岩の壁があるのだが、どんな爆薬を使っても破壊できない代物だというのだ。
ライトを照らし、注意深く調べると小さな隙間が見つかった。注意深く見ても線にしか見えないそれを、レイヴンは肩に装備していたナイフで突き刺す。さすがに一度では通ることはなく、何度か刺し続けていると、隙間にナイフの刃が深々とめり込む。
慎重にナイフを隙間に沿って上下に動かし、そしててこの原理を使い岩を引き剥がすと、綺麗な正方形に岩が外れた。
岩の下からは明らかに人工物と思われる機械のボタンが現れる。レイヴンが慎重にボタンを押すと、地響きと共に、ゆっくりと岩の壁が持ち上がり、奥から鋼鉄製の壁が現れた。レイヴンは、その壁に何度も触り、感触を確かめる。
『これが、彼女の言っていた抹消された遺跡の入り口・・・・』
贔屓にしている”情報屋”から高値で買った情報が、見事当たりだったことにレイヴンの心は震えた。
この感覚は、何度味わっても慣れることはなく、何度でも味わいたいと思えるものだった。
そんな余韻に長く浸ることなく、レイブンは確認のため壁の中央を見た。
予想したとおり、目の前にあるものは壁ではなく扉だった。視線の先に、何度も別の遺跡の中で見たコード入力式の開閉ボタンのコンソールが静かに存在を主張していた。
レイヴンは、先ほどとは別の端末を取り出す。
それは、キーボード入力の端末で、端から伸びるコードの先に薄いカードの様な電極板が付いている。電極板をコンソールのカードを読み取るためのスリットへ差し込むと、レイヴンは猛烈な勢いでキーボードをたたき出した。
数分後、端末の画面に七桁の数字が映し出され、レイヴンは扉のコンソールにその数字を打ち込み始める。
『3・3・5・1・7・9・4・・・っと』
数字を打ち込み終わり、エンターキーを押すと、ポンっという電子音のあと、古の扉が轟音と共に開いていった。
『さあ、どんな物が眠っているのかな?』
レイヴンは期待に胸を膨らませつつ、先ほど出した調査用の機械をその場に残し、まだ荷物の入っているリュックを担ぐ。腰のホルスターに収めている大型拳銃を抜き出し、用心しながら奥へと続く通路を進みだした。
友人に「そんなの書いていたのなら、読んでみたい」と説得(脅迫?)されて、パソコンの内に死蔵されていた話の一つを、手直しして短編に出してみました。
一応、続きはありますが、前書きにも書きましたが連載版を掲載するかは・・・・・ご要望が多かったら考えさせてください。