表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

神様の裏山

 はてさて、境内の掃除を済ませて、水場への掃除へと取り掛かろうとした時に神様は言った。


 「最近は金髪の神様とかいてもいいんじゃないとか思ったりするんだけど」

 「まぁ、いいんじゃない金色の狐がいるくらいだからな、髪の毛自由くらいあるだろ神様にも」

 「なら、レインボーとかいいのかしら」

 「随分最先端をゆく神様として信仰がもらえるかもな」


 さて、そもそも水場とはどう掃除すればいいものなのだろうか。

 掃除箱にしまっているゴム手袋を装着し、たわしを掴む。

 この一週間境内の掃除を徹底し、ちまちま水場の掃除をしているのだが、どうにもこすって汚れを落としても、下に沈殿して掃除する意味がない。

 最近は動かせない水場だから、水道から繋いでやろうかと考えたがどうにもこの神社には水道と呼ばれる物がない。


 わかめの多い味噌汁の様になった水場の周りを掃除する事にする。

 いつか解決策が見つかれば掃除しよう。


 「なぁ、水の神様的な人と繋がりないのか」

 「私のひきこもり歴を舐めるなよ人間」


 指を折り重ねて、両手を達した時に満足げにドヤ顔を見せる神様は一体俺に何を求めているのであろうか。

 きっと俺が想像するよりももっと引きこもっているのだろう。

 友達が皆無に等しい俺にとってもまぁ、水が使える友達なんているわけもないのでこの水場は放置決定だ。


 境内の落ち葉の掃除を済ませ、水場への今後の計画を考えていると時間はもう夕刻を迎えていた。

 そろそろ帰らないと、夕御飯の時間だな。


 「神様、そろそろ帰るよ」

 「そうか、また明日な」


 ちゃっかり明日来る事を決めつけている辺り、神様は暇で仕方ないんだろうか。

 それとも、。


 境内前にある長い階段を下りながら、ちらりと振り返ると、

 本殿前に立ち、静かに手を振る神様が見えた。

 それは俺から見て、とても儚くて、脆くて、触れると消えてしまいそうだと思ってしまった。

 だからこそ、俺はほっとけないんだと思う。きっと俺が一日でも来なければ彼女は消えてしまう、そんなことすら考えてしまう。

 明日も来ようと思いつつ、神社を後にした。


 裏山から家まで対して時間は掛からない。

 だからこそ毎日通えているのだが。


 「コタロー!おかえりーッ!!」


 玄関で俺は敵襲に出会う。

 ついに俺の素性がバレてここまで来たか、今日こそ迎え討ってやる。

 伸ばした両手を掻い潜り、そのまま靴を脱ぐ。

 よし、調子がいい。このまま自分の部屋まで逃げ込めば俺の勝利だ。


 がーー。


 「ふっふふ、残念、それは幻影でした」

 「はっ?」


 気づけば俺は宙に浮いていた。

 体重は平均体重程あると自覚しているのだが、その体をふわりと玄関の空に飛び立っていた。

 「コタローパワー充電、開始!!」

 「うぐぁ!?」


 そしてまるで格闘ゲームのコンボの様に掴み技。

 両腕で俺を掴み、そのまま力の限り潰す。パワープレスとはこのことか。

 俺には姉がいる。姉の紹介はまた今度として、俺は帰ると絶対にこれが日課になっている。

 更に今日は攻撃をかわしてしまった。


 「今日はフル充電よ」


 片手で俺を掴むと、空いた手を拳を作り、俺の脇腹にめがけて振り下ろす。


 「ほごぉ」


 こ、こいつ遠慮がないのか、

 まるで肉食動物が獲物を逃がさない為にしているような。

 一撃。

 これは、あばらの二三本はいっちまったか。

 一撃。

 す、すいません。言ってみたかっただけです、健康です。あ、健康って言ったら良くないじゃん。

 一撃。

 姉さん…。き、きさまぁ。

 一撃。

 ………。

 一撃。一撃。一撃。一撃ーーー。


 母親が止めに入るまでの1分近く、ゴツゴツした骨の感触とゴツゴツと音を立てる俺の横腹の感触を味わっていた。


 夕飯を済ませ、自室へと戻ると俺は作業を開始する。

 パソコンを起動して、直様ゴーグル先生で検索を掛ける。

 慣れた手つきで学校の裏山の名前とスペースを空け、神様とタイピングする。


 検索結果から1万以下の検索結果と今まで調べた功績である紫色になったサイト名。

 カーソル下げて、まだ見ていない場所へとクリックする。


 だがどこを調べても神様について全く情報が出ないのだ。

 裏山には実はちょっと歴史があるらしいのだが、そんな事はどうでもいい。

 歴史に追随して神様について触れるものがあるかと期待しても結果は残さない。


 あの神様は本当に神様なのだろうか。

 嘘をつかないかと疑心暗鬼になっているものの、神様自体が本当に神様かどうかがわからないのだ。俺は石に性別があるのかと意味不明な事を言っている様に。

 本当はホームレスかなにかで、俺をひっかける為に嘘をついているのではないかと考えた。


 でも、賽銭なんて最初にあった時に100円だけで、それ以上金銭が関わった事はない。もし嘘をつくのだとしたら、きっと金銭の要求をしてくるのではないだろうか。

 人間、生活するためにはお金がいる。100円で一週間以上過ごすのは無理があるだろう。

 だから疑問なのだ。本当に神様なんじゃないかと思ってしまう自分にも。


 でもまぁ、想像の夢と信じて、願ってみるのも悪くはないか。


 と俺は検索ワードを境内掃除へと変更するのだった。



 次の日、

 曜日で言うと金曜日。


 木曜日と続き、日本神話学がある。

 簡単に説明すると、神様の種類についての会話だった。

 恋簿神がどうたら、戦神がどうたら。

 もしかしたら、今日は裏山の神様について多少の説明でもあるかと期待していたが全然違ったことに残念に思う。


 授業が終わると同時に奴が来る。

 最近、小林君は護身術の本を読んでいるらしく。なぜか今日はやる気を感じ取れる。

 ずん、ずんと巨神がこの教室へと近づいてくる。


 小林君の運動神経はとても良い。サッカーではキャプテンだし全国大会に行けるレベルで強豪校なんて呼ばれたりしている。


 教室の最後の城門を鐘の音と共に粉砕し、そいつが来た。


 「こぉぉおおぉぉおおぉばぁぁぁぁぁああああああやぁぁぁぁぁしぃぃぃぃいいくぅぅぅぅんんんんん」

 「き、来たか!?」


 その大きく雲すら掴めてしまいそうな腕がフック気味に小林君を掴みかかる。

 「ッ!!」

 だが、小林君は才能の塊である瞬発力を活かし、体を屈める事で回避する。

 ぶぅぅんと空を切る巨大な腕をかわすと同時に今度は左腕が、パイルバンカーの様に射出される。

 だが、小林君。視線を逸らさず集中力を最大に引き上げている。サッカー部で鍛え上げた脚力を活かして、咄嗟に後ろへと飛ぶ事でその射程範囲から抜け出す。


 「よ、避けた!!」

 クラスメートの誰かがそう叫んだ。

 ここまで相手の求愛を回避した日があっただろうか。今日ほど小林君が生き生きした日があったであろうか。この時、誰もが勝利を確信した。

 体は悪魔に売ろうとその魂までは腐り果ててない、キラリと諦めてない小林君の瞳に。


 「こ、このまーーー、」


 クラスメートの誰かが勝利を口にしようとした。

 それが行けなかったのか、わからない。

 平然と勝利を確信した小林君には予期できなかった。

 両腕を伸ばしたままの巨神が、その肉肉しい脚力を活かして、突貫してくる事に。

 彼女の異名について説明したが、彼女はその巨体には似合わず神速の巨人と呼ばれているのだ。

 ミートプレス。技名をつけよう。

 

 勝利を確信した瞳を圧倒的な肉が圧縮していき、一瞬見えた瞳は困惑と恐怖を混ぜた瞳だった。

 入ってきた入口とは反対の城門を突き破り、嵐は去った。

 時間にして3秒。昨日の記録と同じだ。


 誰もが空いた口を閉じれずにいた。

 彼が囲碁将棋部の密室空間で何をされているのか、誰もが触れてはいけない暗黙の了解である。



 「今日も来たか!」

 「約束だからな」


 世紀に残る駆逐系男子の戦いを見終わると、俺はいつもの日課である神社へと来ていた。

 いつものように俺がくる事を察知していたかの様に、本殿の前で仁王立ちしている神様にもしかしてずっとこの体制で待っているのだろうかと疑問を抱いた。


 今日は落ち葉が少ないな。水場の掃除はできないが、本殿の掃除はできるか。

 掃除用具箱からスポンジとバケツを取り出すと、手袋につけて水場の水を汲む。

 近くに水道がないのが痛いな。


 「おい、」


 さて、カビくらいならスポンジでどうにかなるか。

 問題は木が腐っているんじゃないかという所だ。

 腐っているんだったら、俺の小遣いではどうにもできないよな。


 「その汚い水で私の家を汚そうというの?」

 「え、ダメなの!?」

 「ダメに決まってるだろ。水場をなんとかしてから掃除しろ」

 「なんと傲慢な神様だ…」


 当たり前だろっと賽銭箱に横になる神様はまたぽりぽりと鼻頭を掻く。

 と、そうすると掃除する場所が今日は無いな。

 用具をしまうと、賽銭箱の正面へと座る。


 「今日は掃除は無いのか」

 「あぁ、今できるのは落ち葉の掃除くらいだが今日はいいかなっと」

 「なるほどな、私も毎日掃除姿ばかりではつまらないと思っていた」


 賽銭箱から起き上がり、あぐらをかいて俺を見つめる神様。

 今日はやけに気分が良さそうだな。


 「では今日は何の話をしようか?」

 「いや、最近気になってんだけど、神様は何の神様なんだよ?」


 インターネットで調べても結果はわからないなら、本人から聞くのが一番俺の結果がそう判断した。

 でもこの質問はよかったのか。神様は一瞬、本当に一瞬顔をしかめた気がした。

 が、いつもの調子で言う。


 「まだ人間には早い、私が何の神様か知りたいなら信仰を1億ポイント貯めるんだな」

 「一億って程遠すぎだろ、ちなみに今は何ポイントよ」

 「5ポイント」


 一億貯める頃には俺はきっと、この世界で一番長寿なおじいちゃんとして紹介されている頃だろう。

 というか、その年齢でも彼女ができる夢も叶わない俺がすげぇ寂しい。


 「この話がしても良いためには、一つフラグを立ててもらわないとな」

 「フラグ?」


 というかひきこもり神様がフラグとかなんで知ってるんだよ。

 現代病にかかってるの?


 「この裏山に謎を解明したら教えてもいいかな」

 「そんな軽いものなのか?」

 「この謎は軽くないぞ」


 謎を見つけるまで掃除は簡単でいい。と言い残し、神様は珍しく本殿に帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ