幽霊
結局コレですか…。
自分の部屋で勉強の合間に携帯をイジっていた俺だったが、相手の電話番号やメルアドなどわかるはずもなく、ため息をついてベッドに携帯を投げる。
英語の教科書を開けども、将来外国に行くこともないであろう自分のような庶民には必要などないのではといった虚しさが起こり、現実逃避のために缶コーヒーを買いに外に出ることにした。
自動販売機は歩いて三分のところにあるの携帯など持つ必要もない。
夜の九時なのに余裕で汗が出てくるほどの猛暑だ。にも関わらずここの自販機にはホットコーヒーが売っている。
俺はホットを選ぶ。冷たいコーヒーなど俺の心を癒してくれないのだ。
微糖のホットコーヒーを手に部屋の扉を開けると着信音が鳴っている。
井上の馬鹿か?
のんきに歩み寄り、取ろうとすると切れてしまった。
「ん?」
見覚えのない携帯の番号が着歴に残っていた。こんな時間に気味が悪い。
無論その番号にかけてみたりはしない。
もしかしてあの子から…?
あれから十日も経っているんだ、それはありえないだろう。
それから何げにテレビをつけてみる。何げにと言いつつこれも立派な現実逃避である。
「天才除霊美少年江口君」というテロップが画面右下に出ている。
ああ、最近流行りのヤツか。くだらん。美少年というところを全面に押し出して今のオカルトブームに乗っかってひともうけしようっていうテレビ局側の狙いが若人の俺にすらわかる。
江口という美少年は女のように長い髪を後ろで縛り、巫女のような雰囲気をしていた。
話によると彼が失敗した除霊は一つもないという。
テレビではある民家で起こっている怪現象を江口が除霊しているシーンが流れていた。
妖しいお経の後で江口が何もない空間に向かって手足を振りかざして一人で戦っているようなシーンが延々と映し出され、除霊は終了。深々と頭を下げる主婦。そしてそれから一ヶ月、その家では怪現象がピタリと止んだといった内容がVTRで流されていた。
こんな安上がりな番組はない。みんなヤラセに決まっている。
幽霊は目に見えないためわざわざトリックをしかける必要もないので、超能力の番組よりも簡単だ。
俺は小学生のころと違い、宇宙人とか超能力とか幽霊とかについては今現在一切信じていなかった。
そう言いつつもこの家で最近たまにある得体の知れない人の気配については時々寒気を覚えていたのだった。
英語の参考書がいつの間にか少年マンデーに変わっていたが、夢中で漫画を読んでいるうちにもう十一時である。
それからはとっとと風呂に入り、髪を乾かし、そして歯を磨く。
明日電車であの子に偶然合わないかな…。
そんなことを思いながら鏡を見ていると、
鏡の中、
俺の後ろに人がいる…。
親父でもお袋でもない。
この家は三人家族だから、ほかに該当する人間などいない。
背後に写っているのは女子高生に見え、そしてその姿は一瞬にして消えた。
いやいや有り得ないって!
幽霊なんているわけねえだろ!
さっきオカルト番組をちょっと見たせいで何かに敏感になっているんだ。
でも、さっきのって本当に幻覚か?
なんか幻覚じゃなくて現実に見えたきがするんだが…。
俺の背筋が氷のように冷たく感じ、心臓がバクバクと脈打ち、体が震えだす。
振り向くべきか?
でもここで振り向くとどうなる?
ホラー映画だと、血しぶきと共に俺の悲鳴があがるのではないか。
でも振り向かないことには…。
恐る恐る後ろを振り向く。
そして俺は驚愕する。
俺が振り向くと、目の前には、青白い顔をした女子高生が立っていた。