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対決2

川島竜次は除霊師の江口を急かすものの、江口はサキの目を見つめたまま動こうともしない。

 サキもサキで除霊師は初めてなのか、強がった素振りを見せつつもその表情からは緊張が隠せない。


 そのまま五分以上が経過した。


 すると江口がサキを睨みつけ、急に両腕を上にかざした。

 サキも俺も思わず身構えた。


 しかしそこからまた五分が経過した…。


 すると江口は緩やかに両腕を下げ、深くため息を付き、呟いた。

「川島さん…除霊は返って危険かもしれませんね…」

「な!なんだと!どういう意味だ?」

「火に油を注ぐ結果となりかねません。このサキという霊がそうそう簡単に消えるとは思えません。なぜなら…」

「な、なんだね?」

「非常に言いづらいのですが、この少年が言ったとおり恐らく貴方がサキさんを殺した張本人だからでしょうね…」

「な、何を言うかと思えば…どこにそんな証拠があるというのだ!」

「証拠と言われると私は刑事でも名探偵でもないので困ります。除霊師なりの直感としか言い様がありません。除霊師の立場からすると、除霊を依頼される方は殆どの場合、幽霊が出るその家の住人なのですが、今回のように殺した張本人が除霊を依頼するというケースは非常に珍しいのです。いや、あるのかもしれませんが、私にとってはそのようなケースは初めてでして…。除霊は失敗して、逆にサキさんに余計な能力を与えてしまう可能性もあります。今回の除霊が成功する確率は五十%、つまりイチかバチかということになります。故に危険なのでやめたほうがいいということです」

 淡々と語る江口に対し、川島竜次はゴクリと唾を飲み込んでみせ、無理な笑顔で言う。

「ほ、ほう。面白いじゃないか。こう見えても私は『運』だけは強かった。運が強かったからこそこうして高級料理店を成功させることができたのだ。そういうロシアンルーレットみたいなゲーム、私は嫌いではないよ。面白そうだ、実に面白そうだ。江口君、私は除霊が成功する方に賭けるよ、そしてサキは消え去り、私は真の平和を手にすることができるのだ」

 江口は川島と目線も合わせずに、

「…イチかバチかやってみましょうか?」

と呟いた。

「頼むよ!君は今まで一度も除霊に失敗したことがないというじゃないか!君なら大丈夫だ、自信を持ってやってくれ!」


 そして除霊が始まった。

 江口は笹の葉のような長い棒っきれを右に左にと降り始めた。

 そして坊さんのようにお経のようなものを早口で唱え始める…。


 サキには別に何の変化もない。


 俺はただその様子を見守るしかなかった。


 変化が起きたのは十分後だった。

 サキが急にうめき声を上げて苦しみ始めたのである。

両手で頭を抱えながら、「ヤ、ヤマト…あ、熱い…熱い…た、助けて…」

「サ、サキ…」

 のんきに傍観していた自分をとても馬鹿だと感じた。

 マズイ、この様子だと、除霊が成功してしまうのではないか?

「てめええええ!」

 俺は思わず、江口に襲いかかろうとしたが、体が全く動かなかった。

「ヤマト君といったね。君が私の除霊の邪魔をしないようにとりあえず君には金縛りの状態になってもらっていますから、ご了承願うよ、君が動くと面倒なことになるからね」

「こ、この野郎…」

「ううう…ヤマト…く、苦しい、熱い、熱い」

 サキは徐々にゾンビかミイラのような姿に変化し始める…。

「サ、サキ!や、やめろおお!くそお…川島竜次!お前は史上最低だ!」

 すると川島は菩薩のような微笑みすら浮かべてとんでもなく能天気なことを呟いた。


「ヤマト君、もういいじゃないか。この件はサキの除霊後に水に流そうじゃないか」


 「はあ?な、何言ってやがるんだ!こんなことが水に流せるわけねえだろ!」

「そもそも君にとってサキは一体なんだというのだね?」

「えっ?」

 川島からの予想外の質問に俺は思わず戸惑う。

「君の家に住み着いた幽霊が除霊されるのだぞ。こんないい話があるかね?」

「ふ、ふざけ…」

「君は生前のサキと一切関係がないどころか、一度たりとも接触がなかったじゃないか。それが、なんでここまで彼女の除霊に抵抗するのだね?何をこだわっているのだね?正義感からそうするのかもしれないが、良かれ悪かれ、この事件はもう時効を迎えた。終わったんだよ」

「ふざけるなよ!悲劇に時効なんてない!悪人に時効なんてないんだ!」

「時効は時効だよ。私だってあの事件の後ずーっと苦しんできたんだ。そう言う意味では私はもうそれなりに精神的な罰を受けているんだ。そして時効を迎え、この事件は終わった。もういいんだ」

「いいわけねえ!」


「まさかとは思うが君はサキのことが好きなのかね?」

 

「なっ!」



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