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06

 地下二十七層の隠しダンジョンに入って二時間が経過した。

「うへぇ……もう朝の六時だぞ。徹夜しちまってんなぁ俺」

 タブレットで時刻を確認したスォッグは盛大に欠伸を掻く。

「ふぁ……」

 欠伸は伝播し、レイナも口元に手を当てて隠しながら欠伸をする。唯一欠伸をしてないのは起きてから四時間程しか経っていないシキサだけだ。

「こっちでいいのかい?」

 殿を努めるスォッグが自分の目の前を歩いているレイナに確認を取る。

「はい。こっちであってます」

 欠伸によって涙が滲み出た目元を擦りながらレイナはタブレットのマップ表示で緑色の点が三つ固まっている場所が進行方向上にあると確認する。

 様々な分かれ道を行き、時には行き止まりにかち合ってしまい戻って別の道を行くの繰り返しで二時間歩き、最初にいた地点から数えて残り四分の一まで距離を縮めた。現在は単調な水流や風で滑らかに削り取られたであろう天井高四メートル、幅二メートルはある一本道である。先程までは横幅が六メートルはあったので、余計に狭さを感じてしまっている。

「……やっぱりシキサは凄いですね」

「んだな」

 二人は先頭を歩くシキサを見る。

 何が凄いかと言えば、罠の回避についてだ。

 シキサは自分のタブレットを見ながらマップを埋めて行っているのだが、ふとタブレットから視線を外して辺りを見渡す事があった。そう言う時に限って、何処かしらにトラップが仕掛けられていたり、モンスターが潜んでいたりした。

 シキサはソロプレイヤーにとって必須の補助スキル『観察眼』と『直感』、『索敵』によって、的確に敵や罠を発見して倒すか避けて行っている。トラップを解除するには『罠解除』の補助スキルが必要であり、シキサは持っていない。『罠解除』を持っていたとしてもスキルレベルが低ければ罠の解除に失敗し、ダメージを負ってしまう場合がある。ダメージを受けてはならないシキサにとって『罠解除』を行うにはリスクが高過ぎる。なのでシキサは罠を見付けると迂回したり、遠くから『疾風』の魔石を利用してわざと罠を発動させてやり過ごしている。その御蔭で『疾風』の魔石は手持ちが無くなった。宝箱は開けるまで何が起こるか分からないので全てスルーしている。

 スキルはスキルの能力に見合った行動をする毎に熟練度が溜まり、一定数まで溜まるとレベルが上がる。『観察眼』ならば辺りを隈なく観察していれば熟練度が上がり、『罠解除』ならばトラップを解除していけばレベルアップをしていける。なので、生産職の持つスキル『鍛冶』『調合』『錬金』は前線でモンスターを倒さなくとも職が成り立つ。

 シキサが習得した補助スキル『観察眼』、『直感』、『索敵』は最大レベルの三十となっている。ソロプレイによって極限まで鍛え上げられたと言えばいいのだろうが、それでも前線で攻略を行っている他のソロプレイヤーでレベルが精々十七か十八なので、シキサのレベルの異常さが際立っている。

「……きゃっ。御免なさい」

 タブレットでギルドメンバーの位置を確認していたレイナが不意に立ち止まったシキサの背中にぶつかる。

「どした? また罠か?」

 スォッグが立ち止まったシキサに質問を投げ掛けるが、シキサは答えずにタブレットのメニューから『麻痺』、『睡眠』、『猛毒』の魔石を二つずつ取り出し、それを前方と後方へと投げていく。

「うおっ!?」

 状態異常系の魔石が急に自分の方へと投げ付けられたので、スォッグは頭を屈めて回避する。屈まなくとも当たる事はない高さだったのだが、反射的にであったが。

 魔石は十メートル程離れた場所へと落下し、黄色、白、紫の煙を上げる。煙は黄色が麻痺、白が睡眠、紫が猛毒の作用を持っている。

「……囲まれた」

 シキサはそれだけ言うとレイナとスォッグに一瞬だけ視線を向け、紅の剣を抜き、状態異常の効果がある煙が晴れた前方へと走り出した。

 レイナも前方へと向かおうとするが、スォッグに肩を掴まれて行くに行けない状態となる。

「俺等はこっちだ!」

 そう言ってレイナの体を後方に向けさせる。

「こんな狭いとこじゃ、あいつと一緒になって戦うのは得策じゃねぇ! 横に並んで戦っちまえばシキサの動きを阻害する事になる!」

 スォッグはこちらに視線を向けてきたシキサの意図をきちんと汲み取った。そう、シキサの戦闘はその身のこなしが売りなのだ。しかし、こう狭い場所では十全に発揮出来ない。なので、シキサはこのような狭い一本道で囲まれてしまった場合は状態異常にしてから身動きを封じてから敵の殲滅をしていく戦法を取っている。ソロならでは戦法であるが、今回はパーティーを組んでいる。

「だから、あいつが後ろからの攻撃を気にしなくていいように俺等はこっちを殲滅しなきゃなんねぇ!」

 スォッグは後方に潜む体長百五十センチはあるであろう鎧を着込んだ二足歩行の蛙のモンスター――剣を持つトードウォリアー、槍を持つトードランサー、弓を持つトードアーチャーの総勢十五の軍勢をねめつける。今回シキサがソロでもないのに状態異常の魔石を使用したのには、この隠しダンジョンで遠距離攻撃を行うトードアーチャーと相対したからであり、目の前の敵と交戦している最中に不意の一撃で後ろからの攻撃を食らわないようにする為である。

 トードウォリアー達は麻痺や睡眠の異常状態を食らって身動きが取れなくなっていたり、猛毒によってふらふらとおぼつかない足取りとなっていた。

 狭い場所では存分に振るう事は出来ないが、金棒を構え、化け蛙の群れへと突っ込んで行こうとするスォッグを今度はレイナが止める。

「ここは私に任せて下さい」

 そう言うとレイナは顔を引き締め、年頃の女性であるのに化け蛙に嫌悪感を感じる事も無くスォッグの前へと出る。道の真ん中で大剣を抜き放ち、半身を引いて右に構える。この位置ならばぎりぎりで大剣を振り切れる。レイナの蒼い大剣の刀身に淡い青の光が宿る。それを確認すると、レイナは躊躇う事も無く一息で振り抜く。すると、青光は刀身から離れ、大剣の振るわれた軌道上まで広げられた光はまるで津波が襲い掛かっていくように前方へと広がって化け蛙の群れを呑み込んでいく。呑まれた蛙は光となって消え去る。大剣専用攻撃スキル『グランダルウェーブ』はただの一撃で敵の一体も残さずに役目を完遂した。

「うっはぁ……、今更ながら俺が来た意味ってあったのかねぇ?」

 金棒の先を地面につけながら、初めて目の当たりにした『蒼断』の放った『グランダルウェーブ』によって引き起こされた光景に度肝を抜かされる羽目になる。流石は攻略ギルド『夜明けを目指す星』のギルドリーダーと言った所か。人手が必要と思ってついて来たスォッグだが、実際いてもいなくても変わらないのではないだろうか? と思い込んでしまう。実際、この隠しダンジョンに入ってからはシキサかレイナがモンスターを倒しており、スォッグはただついて行っているだけである。

「はぁ……はぁ……」

 『グランダルウェーブ』を繰り出し終えて、その後の硬直時間である五秒が過ぎると、レイナは大剣を地面に突き刺してそれを支えとし、肩を上下させて荒い呼吸を始める。明らかにスタミナが切れた際の状態であった。

「えっ、もしかして今のでスタミナ使い切ったのか!?」

 流石のスォッグも攻撃スキル一発でスタミナを使い果たすとは思っても見なかったので、慌ててスタミナ回復薬を取り出してレイナへと渡す。レイナは左手で薄黄色の液体が入った瓶を会釈しながら受け取り、口に含み喉を潤す。林檎の爽やかな味が口内に広がるが、飲み終えると苦味が残って後味が悪いのが難点であるが、レイナの呼吸は平常時まで戻っていた。

「ありがとうございます。後程代金をお支払いしますので」

 レイナは大剣を地面から抜き、スォッグに頭を下げる。

「お、おぅ。……お前さんよ、もしかして今の大技を繰り出すといっつもスタミナ切れ起こすのか?」

「はい」

 レイナが臆面もなく頷く様を見て、スォッグは得もし難い表情をする。

「あ、いえ。普通ならば『グランダルウェーブ』を放っただけではスタミナは半分程は残ります。スタミナ切れを起こしたのは私の大剣の効果なんです」

 そう言ってレイナは自身の蒼い大剣を掲げる。

「これはユニーク装備の『シャードソウル』と言って、攻撃スキルの威力と消費するスタミナが倍になるんです」

 レイナは砕けた(シャードソウル)の腹を撫でる。彼女はこの大剣の効果故に、ボス戦ではスタミナが満タンである開幕と同時に高威力の攻撃スキル『グランダルウェーブ』を放ってボスのHPを一割程度削り、その後は即座にスタミナ回復薬を呑んで通常攻撃や、スタミナを全消費しない程度の攻撃スキルを繰り出していくようにしている。通常攻撃も大剣故に威力があり、霊人故に物理攻撃を食らってもあまりダメージにならず攻撃の手を緩められる事は殆ど無い。実際、レイナがボス戦に臨めばその分のダメージソースが増えるので他プレイヤーの負担が減る。なのでレイナは他ギルド合同のボス攻略の殆どに参加している。

 ボス戦での有効打点であるレイナの戦う姿を見て、プレイヤーの中にはレイナがスタミナ回復薬を充分持っていればソロで挑んでもボスは瞬殺されるだろうと考えている輩もいる。

 実際、レイナは『グランダルウェーブ』を十発放てばほぼ勝利は約束されるのだが、『トライバルミックス』の設定はそこまで甘やかさないでいる。大剣専用攻撃スキル『グランダルウェーブ』は高威力の全体攻撃であり、ボスへの有効打で通常モンスターならば一掃出来る性能を誇っている。が、それ故に制約も存在する。『グランダルウェーブ』は一回の戦闘で一発しか放てないように調整が施されている

 なので、レイナは『グランダルウェーブ』を放った後はもうその戦闘では使えなくなり、敏捷がそこまで高くないパワープレイヤーのレイナはスタミナが切れてしまえば恰好の的となり、硬直時間の隙を突かれてスタミナ回復薬を呑む暇を与えられずに連続攻撃を食らう事になり、幾ら霊人とは言えども多くの攻撃を食らえばダメージは蓄積され、結果としてゲームオーバーが目の前にちらつく事となる。

 レイナがボスに『グランダルウェーブ』を放てるのは共同でボスに挑んでいるプレイヤーが硬直とスタミナ切れを起こしたレイナに攻撃を当てないように誘導するからであり、彼女一人でボスを倒す事は『グランダルウェーブ』を使うのであれば不可能なのである。

「ユニークってぇと、シークレットボスを倒して手に入れたのか?」

「いえ、最初の種族設定をランダムを選択したらこれが手に入ったんです」

「お前さんもランダム選択してたんだな……」

「はい。どれにするか迷ってしまって……自分で決められなかったもので」

 あはは、と困ったように笑うレイナ。自分の優柔不断さを自覚してしまったが故の笑みである。

「因みに、そのユニークは外せるのか?」

「はい」

 レイナはタブレットを操作し、実際に大剣を消して見せた。そして、装備を解除したシャードソウルを再び装備する。

「……そうか。じゃあ、やっぱシキサのユニークはバグか」

「そうですね」

 スォッグは改めてシキサの持つ紅の剣(ヴァ―メイルブレイド)がバグを起こしていると実感する。そしてシキサが戦っている方面へと視線を向けると、壁を走って猛毒を食らった蛙を切り裂き、そのまま天井を蹴って麻痺している蛙の脳天を突き刺している光景を目の当たりにした。

「……文字通り縦横無尽だな」

 狭い空間故の戦闘方法なのだろうか? と言う疑問がスォッグの頭を掠める。しかし、相手の動きが状態異常で鈍いのでそこまでする必要があるのかと更なる疑問が浮上する。これなら一緒に戦っても大丈夫だったのではないだろうか? と思うが後の祭りでもある。何せ、動けないか動きが鈍くなっている相手を一方的に凄まじい剣閃で切り裂いていっていたので、前方にいた蛙兵団――恐らく後方に現れた数と同数であったであろう群れが残り三匹にまで減っていた。いや、剣を突き刺した蛙が光となって消えたので残りは二匹となった。

「……そう言えば」

 レイナはシキサの戦闘を見ていて、ふと不思議に思った。

「どした?」

「シキサって片手だけにしか装備してないんですね」

「……言われてみりゃそうだな」

 スォッグは腕を組み、神妙な顔つきで残り二匹の内の一匹に連撃を加えて消滅させているシキサを見て頷く。

「もう片方の手に短剣や片手剣を装備すれば攻撃力は上がると思うんですけど」

「だなぁ」

 スォッグは思案顔をしているレイナの言葉に頷く。『トライバルミックス』での武器は片手で扱えるものと両手で扱うものに分かれている。片手武器は片手剣、短剣、突剣、刀、片手斧、片手棍、短槍。両手武器は大剣、大太刀、大斧、棍、槍、鉤爪、弓が存在する。両手武器を使用する場合は盾を装備する事が出来なくなる代わりに、武器の威力や範囲が大きくなる。

 また、武器は二つ同時に装備する事が可能となっている。ただし、それは盾を装備せず、片手で扱える武器同士と言う制約が当然あり、片手剣と短剣ならば同時に装備する事が出来、片手剣と大剣は同時に装備をする事が出来ない。例外として弓のみ、短剣だけを同時に装備する事が出来る。

 シキサの装備を見る限り、どう見ても紅の剣以外は武器を装備していないように見える。

 彼の場合は当たれば一撃死なので防具である盾を装備する必要が無く、装備する事で僅かにだが敏捷も失われてしまうのでそれは納得出来る。だが、バグで外す事が出来ないとは言え、折角片手で扱える武器を装備しているので、もう片方に武器を装備すれば、多少は敏捷が下がったとしてもクリムゾンフロウの効果で低くなってしまっている攻撃力の補強にはなる。なので、本来であるならば俗に言う二刀流になっていても可笑しくないのだ。しかし、シキサは一振りの剣だけで戦っている。

「どうしてでしょう?」

「さぁ? 俺に訊かれてもなぁ」

 レイナとスォッグは頭上に疑問符を浮かべながら同時に首を捻る。

「はっ!」

 自分の装備に疑問を持たれているとは露知らず、残った一匹にシキサは『トライエッジ』を繰り出して止めを刺す。最後の一匹はまるで有り得ないとばかりに口を開き、シキサを一瞥しながら消えていった。シキサは剣を軽く振るうと、鞘に納めて後方にいるレイナとスォッグの戦況を確認し、倒し終えていたのを確認すると何事も無かったかのようにタブレットのマップを見ながら奥へと進んでいった。

 そんなシキサの後ろ姿を見ていた二人はそれぞれの武器を背負い、彼の後を追う。

「なぁ、シキサ」

「何だ?」

 スォッグが先程レイナが気付いた疑問を代表して尋ねる事にした。

「どうしてお前はヴァ―メイルブレイドだけしか装備してねぇんだ? もう片方にも武器を装備した方が攻撃力上がるだろ?」

 レイナが首を縦に振る。すると、シキサはタブレットのマップから視線を外し、僅かに振り返りながら答える。

「もう装備してる」

 それだけ言うとシキサは再び視線をマップへと向ける。

「へ? もう装備してる?」

 スォッグは片眉を上げ、シキサの体をまじまじと見るが、腰に佩いてある剣以外には武器が見当たらなかった。レイナもじろじろと見るが、やはり他の武器を見付ける事は出来なかった。

「なぁ、一体何を」

 装備してんだ? と言う前に、シキサが唐突に右側の壁付近に形成された小さめの鍾乳石を蹴り飛ばす。

 すると。

「え?」

「ん?」

「……」

 彼等の足元の地面に、ぽっかりと穴が開いた。正確に言えば、地面に綺麗な直線の切れ目が走り、左右に引いて穴を形成させた。三人は為す術なく仲良く下へと落ちて行った。




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