第2話
コボルトが消え、落ち着いてきた頃、今までのゲームでは味わうことのなかった生き物を殴ったとき独特の感触、それが蘇ってきた。そして、それがリアルだという実感、それに伴う恐怖、死に対する恐れが俺に押し寄せてきていた。
「ち、近くに村か街は・・・?」
死の恐怖にとりつかれた今、俺がすぐに浮かんだことは安全な村、街だった。
しかし、自分が今いる場所は林か森かわからないが、木々で埋め尽くされている。パッと見渡した限りでは、人が整えたような道がなく、獣道もない。
それでも、出てきたのがコボルトということは、ゲームで考えたら近くにそういった道があるはずだ。焦っている中で、必死に深呼吸しながら落ち着けてそう考え付ける。
現実ではわからないけれど、ゲームならそういった道の付近は危険なモンスターが少なく、奥に強いモンスターが多いので、最弱と設定されてるコボルトに出会ったというのは、不幸中の幸いだと思う。・・・唐突すぎる出会いを除けば。
そういったことを踏まえて、闇雲に動くのは危険ではあるけど、木を傷つけてマーキングしながら道を探せばどうにかなるだろう。
「・・・よし、行くか。」
木の枝だけでは心もとないので、無いよりマシであろう石を拾ってから移動をはじめる。
そうして『命をかけた』ゲームが始まった。
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「――――道だ!」
現実であり、ゲームである(と思っている)この世界。やはりゲームの常識は通用したようで、少し移動しては戻り、別方向に移動を何度か繰り返してついに道を見つけた。
運が良かったのか、そのあいだに一度もモンスターと遭遇しなかったことはありがたかった。
見つけた道に移動し、これからどうするかを考える。
「このままどちらかに進むにしても、まずはゲームの機能を確かめないと・・・『メニュー』!」
ゲーム「エラシティーチ」の説明書には、「『メニュー』という言葉がキーワードとなり、各種機能が開ける。」ということがかいてあったので、それを試した。
すると、半透明の画面が出てきたので、その中にある項目を上から順に確認していく。
ステータスに、スキルと、インベントリ・・・環境設定(主にBGMを流したい人とかがいじる程度のおまけ設定)とログアウト項目は、やはりというべきか、見当たらなかった。
そのことに今は落ち込んでも仕方ないので、最初の項目、ステータスのところをタッチして開く。
名前 :霧崎怜司
職業 :学生
レベル :1
HP :93/100 MP :20/20
力 :12 体力 :10
敏捷 :9 知力 :7
精神 :8 BP :0
設定として、HPとMPは時間経過で回復していく。コボルトとの戦いからそこまで時間が経ってないということもあり、HPは全快していないみたいだ。
そして、このゲームには装備という機能がなく、身につけているものの性能も不明。実際にダメージを受けて防御力を、ダメージを与えて攻撃力を測るしか無いらしい。そのため、ステータスに必ずと言っていいほど出てくる装備内容がない。
BPはレベルアップ時にもらえるボーナスポイント、ステータスに割り振れるポイントになっている。
読んでおいた説明書の内容を思い出しながら、それと同じだということを確認する。
確認が済んだのでステータスを閉じ、次はスキルを確認する。
スキルもレベルアップでSP、スキルポイントを獲得して覚えることができる。
そしてBPとは違い、レベル1の時から特別に、SPは3ポイント使えるようになっている。危険だけど、現状では比較的安全な道の上に居る内にスキルを割り振ろうと思う。もちろん、周囲の警戒は怠らずに。
結果としては、スキルはパッシブ、常時発動しているステータスアップ関連と観察というものを取った。アクションは詳細として、動きがイメージが流れ込んできたので、スキル補助の威力分がでないが、自力でアクションの再現ができるようになろうと思う。
そうして取ったパッシブスキル、近接の心得Lv2。まず、Lv1(SP1)を取り、Lv2にするときにさらにSP1を使った。
内容として、近接の心得は力と敏捷、HPの5%アップだ。
あくまで補助としか役割はないが、%アップなのでバカにはできないスキルなはずだ。もちろん、数値が低いままだと意味のないスキルではあるが、高くなればなるほど少しの%アップでもとっている人ととっていない人との差が大きくなるのが%アップである。
そして、もうひとつの観察Lv1。これに関しては最高Lv2でマックスなようで(選択すると、事前にそのスキルに関する情報が流れ込むため、理解出来た。)、Lv1の場合はキャラクターのLvと同じ、もしくはそれ以下の対象のステータスを閲覧出来る。Lv2の場合はキャラクターより10Lv上までならステータスの閲覧ができる。それ以上の場合はLvだけ判明(Lv1も対象のLvは判明できる。)。という内容だった。
最初はこれを持っていても仕方ないだろう。と思って無視した。が、近接の心得などのパッシブスキルを見て思案していたうちに、コボルトは外見と最弱だという情報を調べていたので判ったが、HPバー以外は名前もLvも見当たらなかったことを思い出した。
もし、今後格上や、それに近い相手にぶつかったとき、素早く判断できなければ死につながると気がつき、すぐに観察Lv1だけを取った。観察Lv2は、自分よりLvが高い相手は今は相手しないつもりなので、取らずにパッシブスキルにSPを回した。
一通りのスキルを流し見て、それからいろいろ考えてとったため、一時間ぐらいその場にいただろうか。それだけ時間が経過しているにもかかわらず、その場に留まっていたからなのか、ただ運が良かったのかはわからないけどモンスターに出会わなかったのは助かった。
しかし、人にも出会うことがなかったので、どちらの方向に進めばいいのかがわからないままだ。
「・・・仕方ない。棒の向いた方に進むことにしよう。」
どちらに村、もしくは街があるのかわからないので、気は進まないが運頼み。
そして俺は、棒が倒れた方向に近い道を進んでいった。