拳
九、
「・・・ふぅ、久しぶりじゃから戸惑ったわ。やれやれ、歳はとりたくないのぉ。」
朝一番にとある老人がタクシーで少年たちが住んでいる町にやってきた。タクシーの運転手に大金を預け、釣りは要らないといって老人はそのタクシーを見送った。そして、少年が住んでいる洋館の前へと足を進ませたのだが・・・
「・・・ま、ちょっと様子でも見せてもらおうかの。ばれたらばれたじゃ。」
時同じくしてとある町の上空、そこには大きなヘリが飛んでいたのであった。
少年は大きな木の下にいた。向こうからは誰かが走ってきている。誰なのかはわからない。
「・・・・お待たせ、時雨君。」
「いや、僕も来たところだよ。ところで、用事って何?」
「・・・実はね、私は時雨君のことが大好きなの!!」
そう言われて、少年は目を覚ました。
「・・・なんだ、夢か。・・・僕も悲しい人間だな。ま、取り柄のないってことは分かってるんだけど。」
今日も一日が始まる。少年は首をぐるぐる回し、ベッドから降りる。それに習って木刀から幽霊が姿を現す。
「へぇ、もう起きてたなんて珍しいね。」
「ま、たまには早く起きるさ。さ、学校に行くんだろう?今日は何かがおきそうだからねぇ。」
少年はそんな幽霊の顔が普段より輝いているように見えた。それを見て少年は夢の内容を思い出す。ああ、僕にも春が来ればいいのになぁと思いながら少年は着替えを始める。
「・・・痣が増えたね。」
「そうかな?ま、いいんじゃない?」
少年の体をまじまじと眺めて幽霊は言った。近頃、少年は幽霊を相手に練習をしていた。幽霊いわく、努力をしない男はもてないそうだ。その言葉に見事に引っかかり、少年は幽霊にぼこぼこにされる毎日である。
着替え終わって直にドアが開いてメイドが入ってきた。
「あ、既に起きてましたか・・・。朝食が出来てますよ。」
「ありがとうございます。満月さん、行きましょう。」
幽霊は頷いて宙に浮いて時雨の後ろをついていき始めた。
「美奈、時雨の体はちょっとばかり鍛えられてきただろう?」
「ええ、細身ですけど意外とついてますね。しまってていいですね。・・・あ。」
メイドは幽霊にはめられたのを悟った。幽霊はにやりと笑って去っていった。去り際、幽霊は言った。
「ふ、覗いているのを気取られてしまうなんてね。おぬしもまだまだよのう。」
そして、一人硬直しているメイドを残して少年の後を追って行った。
「行ってらっしゃいませ、お二人方。」
「「行ってきます。」」
幽霊も少年に引っ付いて(因みに、肩に乗っている。)学校についていくこととなった。しかし、そんな彼らの本日の登校はさまざまな罠が仕掛けられているのである・・・・。
最初に、異変に気がついたのは少年であった。
「・・・?」
「どうかしたの、兄貴?」
「いや、誰かに見られてる気がしない?ほら、あのおばさん達さぁ、なんかこっち見てない?」
一見すると立ち話をしているおばさんたちのようだが・・・・片方がなんとなく人形のような気がするである。
「・・・確かに時雨のいっている通りなんだけどね・・・時雨、もうちょっと近くで見てきたら?私と鈴ちゃんはここで待ってるからさ。」
そういわれて少年は怪しまれないように自然体でそのおばさんたちに近付いてみた。
「・・・・ふ、わしもまだまだじゃな。」
おばさんの一人が言うと、急に、少年の姿は消えた。
「ちょ、えぇぇぇえ。兄貴が一年お笑い芸人のようにあっさり消えちゃったぁ!」
「いや、落ち着いて、鈴ちゃん。」
幽霊はそういって妹を落ち着かせた。そして、再び口を開く。
「・・・・よく見たらあのおばさんたち消えてるわ。」
「・・・・・わぁぁぁぁ!!兄貴がぁぁ!!」
二人が騒いでいる頃・・・少年たちが通っている高校の屋上に消えた人たちは存在していた。
「・・・あれ?何で僕はこんなところにいるんだ?」
「それはのう、わしが連れてきたからじゃ。」
少年は声がしたほうに首を回した。そこには、かなり久しぶりにあう人物がお汁粉を一気飲みしていた。
「あ、山海おばあ様。どうかしたんですか?」
少年は急いでその場に立ってあたふたとしながらいつもあったときのように接していた。それを見て彼の祖母はため息をついた。
「・・・はぁ、全く普通にしてくれて構わんといっておるのに・・・。」
彼女としては少年には普通にしてもらいたかったのだが・・・彼の母親がいつも祖母に対しては頭が上がらなかったのでそれを見た少年(当時五歳。)はそれ以降、母親以上に祖母に対してかなり硬い態度をとるようになったのであった。
「まぁ、それはいいとして・・・時雨、彼女は出来たか?」
「い、いえ・・・すいません。出来てません。」
少年は背筋をびしっとして答えた。その顔は真っ赤に染まっている。
「人に自慢できるものなんてとくにありませんし・・・・まぁ、近頃は勉強をやっているところなんです・・・。」
しかし、そんな少年を見て祖母は頭を下げた。
「すまん、それはわしのせいじゃ。」
「お、おばあ様!頭を上げてください。そんなことしないでください!!」
少年があたふたしながらもどうにかして祖母の頭を上げさせようとする。しかし、一向に頭を上げる様子もなく、少年は困りきっていた。
「・・・おばあ様、どうか頭を上げてください。そうしないと僕は母さんに怒られてしまいます。」
そういわれてようやく祖母は頭を上げた。
「・・・時雨、少々つまらん話をするが黙って話を聞いてくれ。・・・これはな、十五年前のことじゃ。ナレーター、準備はいいな?」
ええ、準備オーケーです。さて、それでは少々、昔話をするかのう・・・。
昔々、あるところにとぉっても金持ちの一族がいました。
ある日、その一族にも後継者が誕生しました。
男の子で、未来を約束されたようなお坊ちゃまでしたが・・・・とある日、その地方に飾られていた代々のご神体とお人形遊びをして遊んでしまったのです。
そのご神体には噂があり、彼女がいないものがそのご神体に触れてしまったら普通の女の子と付き合うことが二度とないと語り継がれておりました。
その人形にはお面がついており、なんでも、過去にお面をずっとかぶっていた女の子が人知れず泣いて人形となってしまったそうです。
それで、お人形と遊んでしまった男の子を自分の彼氏にすると言われているそうです。
まぁ、それも運命だと思ったのでしょうか・・・・とりあえず様子を見ることにしました。しかし、それが効果覿面・・・少年が女の子に近付くと、必ず、不幸がやってきました。ご神体を保存していたところに入れたのは祖母であり、彼女はとても自分を責めておりました。まぁ、そんなこんなで今に至ります。少年の年齢=彼女いない暦となっておりますのです、はい。
「・・・そ、そんな過去が・・・。」
その昔話を聞いて少年は驚愕していた。まぁ、顔はどちらかというと美系といってもいいのだが、そういう理由で少年は彼女が出来ないのである。
「・・・その神様の名前は面様といわれておるのじゃ。・・・しかし、時雨は普通にあの二人の女の子と接しておったし・・・・おかしいのう・・・。時雨、わしは詳しく調べてみるから・・・出来るだけ早く彼女を見つけろよ?」
「わ、わかりました。」
そういって祖母は少年に手を振ってフェンスを軽く飛び越して姿を消した・・・。
「いや、ちょ、まった!!今、フェンスを跳び越したって言わなかった?」
知らない。いってないし、それに物語すすめよぉっ。
少年の頭上にはヘリが飛んでおり、青空が開けていた。何にも悩みのなさそうな風が吹き・・・・そんな中、誰かの声が聞こえてきた。
「時雨!!おじいちゃんは悲しかったぞぉ!!」
少年はあたりを見渡した。しかし、どこにも彼の祖父はいない。しかし、更に声は聞こえてくる。
「さぁて、時雨、おじいちゃんが華麗に着地を決めて見せるぞぉ!!」
ひゅーーーんと音がして、屋上に何かがすたっと着地した。
「お、おじいちゃん。」
「いやぁ、おおきくなったなぁ、時雨。おじいちゃんがお前に会いに来たぞ?さぁて、昔話をしてやろう。」
さぁて、良い子の皆、今度は昔話からだぁ!!