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満月の騎士  作者: 雨月
8/25

八、

 携帯電話をポケットの中に入れ、母親はコーヒーを飲んでいた。


「・・・お坊ちゃまからですか?」


「ええ、珍しく怒ってたわ。全く、もう子どもじゃないのに・・・まぁ、気に入っているみたいだから放っておけば大丈夫でしょ・・・。渡辺、何かあったら直に報告お願いね。」


「かしこまりました。」


「はぁ、早く孫の顔が見たいわ・・・。」


 一方、電話の相手がさっさと切ってしまったので少年は携帯電話を睨みつけていた。


「・・・美奈さん、ちょっと話があるから来てください。」


 その顔はどことなく、怖い。そのままお化け屋敷にバイトに行くことをお勧めしたい。


「え・・わかりました。」


 メイドは頷いて少年の後を追いかけていき・・・妹と幽霊もその後に続こうとしたが・・・少年がついてこないで欲しいといったのでついていかないことにした。因みに、それに納得したのは幽霊だけで、妹は無理やりついていこうとして幽霊に抑えられた。


「ま、そんなに重要な話じゃないかもよ?それか、夕飯がまずかったとか?」


「どうせ、エッチなことでもしようって魂胆じゃない?兄貴はぜったいにそう出る!!」


 二人で適当なことを言い合う。しかし、ちょっとばかり真剣な話である。

 少年の部屋に入った二人は片方はベッドに腰掛け、もう片方はその近くに立っているだけであった。前者が少年で後者がメイドである。メイドの顔は少々、引きつっており、少年は切羽詰ったような顔であった。


「・・・美奈さん、母さんから何か聞いてませんか?」


「・・・いえ、何も聞いておりません。」


 そういったメイドの目を見て少年は溜息をついた。嘘をついているのは明確である。目はきょろきょろ、顔が真っ赤になっており・・・がたがた震えている。これでは自分から嘘ついてますといっているようなものだと少年は思った。まぁ、彼も人のことを言える立場ではないのだが・・・・。


「・・・母さんに電話したらね、とりあえず僕の好みを知るために美奈さんを僕のところに行くよう仕向けたんだってさ・・・本人の意思でこういうものは決めるべきだと思うんだけど・・・美奈さん、嫌になったら帰っていいよ。」


「・・・わかりました、嫌になった帰ります。それまで、いてもいいんですね?」


 メイドは床の辺りを見ながら何かを考えているようであったが・・・急に何かを決心したような感じになった。


「時雨様、貴方は私がいた屋敷では非常に有名でした。奥様はそんな時雨様に会社を継いでもらいたかったのでしょう・・・。」


 少年が中学最後の頃であった・・・少年のもとに一通の手紙がやってきた。

それには何かの券が同封してあり、内容は私のもとに帰ってきて会社を継ぎなさいと書かれていたものであった。しかし、少年はそれを捨てた。少年としては今までお世話になってきた『家族』に何一つの恩返しをしておらず、そのまま母親のもとに帰れば間違いなく恩をあだで返すことになるからであった。


「・・・まぁ、それはいいとして・・・美奈さん、これからよろしくお願いしますよ?」


「ええ、任せて置いてください!私が出来ることは何でもして見せますから・・・。」


 その頃、妹と幽霊はぼさぁっとテレビを眺めていた。明日の天気予報が表示されている。


「・・・あ〜あ、槍でも降ればいいのになぁ。」


「・・・何言ってんの?降るなら矢でしょ。」


 そんなどうでもいい会話をしているとメイドと少年が帰ってきた。それを見て幽霊は少年の耳元で言った。


「時雨、そろそろ何かが始まりそうな感じだね・・・ある程度、登場人物も増えたし・・・。ま、それはいいとして、用事はもうすんだのかい?」


「え、う、うん・・・終わったけど・・・どうかしたの?」


 いいやと首を振って幽霊は少年の周りを優雅に?回った。


「あ、そういえばみんな美奈さんにあいさつをきちんとしてなかったような・・。美奈さん、この人・・・じゃなかった、幽霊はね、満月さんっていうんだ。それで、隣の女の子は鈴って言うんだ。」


 自己紹介といえない自己紹介はおわった。美奈さんはにこりと笑ってそれぞれに挨拶をし、挨拶された二人も一応、返した。


「・・・私、もう疲れた。」


 妹はそういって姿を消した。


「・・・時雨様、鈴様は怒っているように見えましたが・・・どうかされたのでしょうか?」


 メイドは不思議そうに首を傾げながら少年に尋ねた。しかし、少年も首をかしげて首を振った。


「いや、どうにもしてないんじゃないかな・・・。」


 それを聞いて幽霊は呆れたような溜息をつき、メイドの耳元で何かを話した。それに納得がいったのかメイドは成る程というような顔になり、少年に言った。


「恐れ入りますが・・・どうやら時雨様が鈴様にそっけなさ過ぎるのが原因だと思われます。満月様から聞きましたところ、血はつながっていないそうですが・・・・お二人は兄妹だそうですね。たまにはお話をされたほうがいいのではないでしょうか?」


「そうだねぇ、私もそう思うよ。近頃、二人でゆっくり話しもしてないんだろう?鈴が言ってたよ。兄貴はいつも部屋にこもって何かと話してたってね。」


 二人にそういわれ、少年は頷いた。

少年としては目の前にいるメイドともっと話したかったのだが・・・・言っていることも事実なので妹のところに向かった。因みに、妹の部屋は少年の隣であり、一応、鍵が掛けられるようになっている。少年は扉を開けて妹の部屋に入った。妹はベッドの上にのっており、入ってきた少年を少し眺めた後言った。


「・・・ノックもせずに普通、女の子の部屋に入ってくる?」


 きっと妹に睨まれ、少年はそのまま後ずさって扉を閉めた。そして、今度はノックをして入る。


「・・・何しにきたの?」


「鈴と話に来たんだよ。」


 少年はそう告げて妹の隣に座った。その動作に何かを期待するように妹は聞いた。


「・・・実は私を襲いに来たとか?」


「はい、君は何を言ってるのかなぁ?・・・・ま、それはいいとして、鈴は家に帰ったほうがいいんじゃない?いつまでもさ、こんなところにいたらおばさんに迷惑を掛けるんじゃないか?」


 少年は心底心配しているような感じで妹に告げた。


「・・・大丈夫、連絡しておいたしさ・・・。」


 そういった後、妹は顔を真っ赤にして少年に聞いた。


「・・・兄貴、私のこと嫌い?」


 少年はそう聞いてきた妹の顔を見た。穴が開くほど見つめ、見つめられたほうの妹は顔を真っ赤にしていた。


「・・・いや、別に嫌いじゃないよ。」


「じゃ、じゃあ・・・好き?」


「うん、好きだよ。」


 妹はそれが兄妹としての好きでも嬉しかった。もっと、詳しく知りたかった為、更に質問した。


「どんなところが好き?」


「そうだねぇ、優しいところと、小さいところに気がつくところかな。」


「じゃあさ、何処が嫌い?」


 妹はどこからか手帳を出して色々と書き込んでいた。その目は既に真剣そのものとなっている。


「・・・嫌いなところは特にないかな。」


 その少年の答えに妹はほっとしていた。妹は少しばかり戸惑いながらも少年の肩に頭を乗せた。


「・・・鈴?」


「・・・妹ってさ、甘えてもいいよね?」


「・・・・う〜ん、いいんじゃない?」


 そんな二人を影から・・・正確に言うと天井から見下ろしている幽霊とメイド。幽霊は分かるとして、メイドはまるで忍者のようにその光景を見ていた。


「まぁ、これでいいでしょう。」


「そうだねぇ。ま、兄妹仲良くやってもらわないとね・・。私の兄弟たちはろくな連中がいなかったからねぇ。」


 幽霊は首を振ってやれやれといった感じで首を引っ込めた。それに習ってメイドも首を引っ込める。多分、この二人が手を組んだら何でも出来るに違いない。


「・・・・・。」


「鈴?」


 少年と妹はそのままの体勢であった。妹は安心したのか知らないが・・・そのまま寝入ってしまい、少年は妹を起こさないように努力しながら自分の部屋に戻ったのだが・・・幽霊にはやし立てられたのでさっさと寝ることにした。その夜、少年は幸せな夢を見ることが出来たらしい・・・・。


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