刀
六、
少年はベッドから降りて相手を見入った。
「あの、どちらさまでしょうか?」
「ああ、私の名前はリベナ・トロワド。先日、こっちに引っ越してきたものよ。」
「ああ、そうですか。」
そこで会話は終了。少年は改めて相手を見て頭の内部で認識を開始した。金髪でスタイルぐっと、顔ぐっと。性格はお嬢様みたいな感じであったが・・・・一番気になることは違っていた。
「あの、どうして僕はここで寝ているんでしょうか?」
「そなたは私を助けてくれたのよ。名前はなんていうのかしら?」
「あ、天道時 時雨っていいます。」
少年はそういって昨日のことを思い出そうとしたが・・・・友達の家にいたことしか思い出すことは出来ない。
「あ、そろそろ・・・お邪魔になりそうだから失礼しますね。」
「そ、そう?私の恩人なんだからもう少しいても構わないのよ?」
幽霊のことも気になるのでさっさと御暇させてもらうことにした。
「ええっとですね、また会う機会もあると思いますから・・・それでは失礼させてもらいますね。」
少年はそういって屋敷の外に出た。そして、最後に走りながら告げた。
「まぁ、もう会う機会もないと思いますけどね。」
そして気がつく。
この家が自分の新しい家とかなり近いことを・・・・。あの少女は未だにこっちを窓から見ており、家に入っていくのを簡単に確認することが出来そうだったので少年はわざと家と反対側の方向に向かって歩き出した。因みに、そちらには今まで少年が住んでいた家があり、妹の庭のようなものでもある地域である。
案の定、少年の姿を見つけた妹は音も立てずに背後に忍び込んだ。そして、尾行を開始。そんなことに全く気がつく様子もない少年は洋館の道に歩きだした。
成る程、こっちの方のいえかぁ・・・・と妹は思いながら少年の家に行き着くことに成功したのであった。
「ただいま。」
少年が一人で住んでいるはずの洋館のほうを見て妹は驚愕した。何故なら、洋館の扉の前には白いドレスを着た美少女が少年を待っていたからだ。妹視点で見ると新婚さんのような感じがしている。
「あわわわわ・・・。」
妹はそんな声を出して白いドレスを着ている少女を指差し、震えた。あの時も妹の前に姿を現したのだが、じっくりと話す機会もなかった。その後、妹的に色々と考えてみたのだが、頭の中では少年の彼女ということになっている。白いドレスの少女は妹に向かって微笑んだ。幽霊にしてみれば妹のことを知っていたので軽い挨拶のつもりだったが・・・・妹はそれを
「どうも、貴方のお兄様の非の打ち所のない可愛い女の子です。」
といっているように思え、彼女がいないといっていた少年に聞きたかった。しかし、悲しいと思うほうの気持ちのほうが力が強かった。(圧倒的な力により、聞きたいと願っている願望はあっという間に大敗した。
「・・・兄貴の・・・嘘吐きぃ!!」
背後から少年にドロップキックを食らわせて妹は走り出した。どこに行けばいいのか分からなかったのでとりあえず公園のほうに走り出したのであった。
「・・・・え、え?ねぇ、満月さん、今僕は誰に蹴られたの?」
「時雨、今すぐ妹さんに謝ってあげないといけないよ。詳しい話は時雨の妹がすると思うから・・・・ほら、公園のほうに走っていったからね。」
全身から?オーラを出している少年の肩を掴んで幽霊は後ろを向かせて背中を押したのであった。
少年は幽霊に教えてもらったほうに駆け出したのであった。しかし、誰かさんは少年を軽々しく公園に行かせたくなかったのかもしれない。少年がマンホールの上を走ろうとするとえげつない何かが飛び出して少年を捕縛しようとしたり・・マンションの一室から吹き矢が飛んできたり・・誰かに隠し撮りされている感じに襲われたのであった。
少年が公園に着いたときには既に夕方になっており、飮まず食わずの少年は車に轢かれて潰され、更にさんさんと降り注ぐ太陽のせいで干からびてしまった蛙のようになっていた。
夕焼けの空をバックに妹は頭を垂れてブランコに一人で乗っていた。砂場では砂のお城をバックに二人の少年が死闘を繰り広げていた。
妹はいきなり少年の背後からドロップキックをお見舞いしたことを少し悪く思っていたが、嘘をついた少年のほうが許せなかった。もしも、自分が兄貴の立場だったらスリーカウントをとられるまで無防備でいてもいいと思っていたのであった。
「・・・鈴・・・」
少年は頭を垂れてブランコに座っている妹に話しかけた。少年としては隣のブランコに座りたかったが、先客の少女がいたのでどかしてまで座ろうと思わなかった。妹は少年の呼びかけに応え、顔を上げたが・・・・まるで、阿修羅のような顔であった。
「・・・何か用、嘘吐き?」
「いや、何が何なのか僕にも分からないんだけど・・・。それに、何で怒っているの?」
少年を見据える妹。少年は阿修羅様な妹を見ることが出来ず、顔をそらした。そんな少年の態度に更に頭をヒートさせて、妹は尋ねた。
「・・・兄貴に彼女がいないよね?」
「何度言ったら分かるんだい?何も取り柄のない僕に彼女がいるわけないだろうに・・・・」
「だったら・・・あの、美少女は何?」
美少女といわれ少年は今日の朝に会った女の子(既に名前は忘れている。)を想像したが・・・見られた覚えがないのでその考えを消すと同時に・・・その少女のことを忘れてしまったのであった。
「・・・美少女?僕の知り合いにはいないけどなぁ・・・。」
「兄貴の洋館の前にいた白いドレスを着た女の子よ!」
それを言われて少年は納得した。
未だに少年は妹の顔を見ていない。怖いのだ。そしてそれは正しい行動であった。近くにいた少女は既に逃げ出しており、妹の体から噴出したオーラによって砂場で戦っていた二人の少年は息を潜めて少年と妹のやり取りを見守っている。その近くにブランコから避難してきた少女はそれを怯えた表情で見ている。
「ああ、成る程・・満月さんの事か・・・。鈴、幽霊だよ、その人は・・・・。」
当然のように鈴は納得しなかった。
「幽霊?ふん、また嘘ついてるんでしょ?」
「嘘なんてついてないよ!」
少年は先程より怖くなった顔の妹を直視できず、襲われたときのためにいつでもバックステップできる準備をしていた。
「・・・だって、嘘ついてないときの兄貴は私の目をちゃんと見るもん!それに、嘘ついてても素直に認めてごめんって言ってくれてたもん!それに・・・それに・・・私が泣いてたときは泣き止むまで優しく慰めて・・・・くれたもん!!」
水を差すようで悪いが最後の少年の行動は小学三年生が最後だ。それ以降、妹は泣いたことがない。
泣き始めてしまった妹を見てしまった少年は辺りから『あんたが悪いのなら、さっさとどうにかしろ』といった感じの視線を浴びてどうしようと考えていた。妹としては自分を優しく抱きしめて『嘘だよ、鈴。』なんてことを言ってもらいたいのだが、少年としては公共の場でそのようなことをするのは他人の迷惑になるだろうと考えていた。しかし、全く泣き止まない妹に覚悟を決めた。
「鈴、ちょっとブランコからどいてくれないかな?」
「・・・・。」
少年の言ったことに素直に応じた妹は泣きながら立ち上がった。そんな妹を抱きしめて少年は言った。辺りからはこれでいざこざは解消するのかといった疑惑の視線が少年に注がれている。
「・・・鈴、本当に満月さんは幽霊なんだ。信じられないならしょうがないけどね、満月さんは僕の彼女じゃないよ・・・。それだけは信じて欲しい・・・。」
「兄貴のバカぁ!!うわぁぁぁぁぁん。」
少年にしっかりと抱きついた少女は大声を出しながら更に泣き始めたのであった。
「・・・ごめん、鈴。」
自分より頭一つ分小さい妹の頭に顎を乗せて少年は言った。辺りからは安堵の溜息が漏れている。
妹が全体重を少年にかけると・・・あっさりと少年は後ろに倒れ、頭を打って気絶した。
「あ、兄貴?」
動かなくなった少年を揺すってみたが・・・起きることはなかった。たんこぶが出来ているので妹はとりあえず洋館まで少年を運ぶことにしたのであった。
「・・・おかえり。」
「・・・こんにちは。」
洋館の前には例のごとく幽霊が立っていた。
「・・・私は貴女に負けません。」
「・・・勘違いしてると思うけど・・ま、そんなことより時雨をベッドに連れて行ったほうがいいと思うけど?」
ズリズリと引きずりながら二人で少年を運んでいったのであった。少年の顔は下を向いていたので擦り傷きり傷などがたくさんあった。傷は男の勲章らしいが・・・・目も当てられない状況になっている。ベッドに載せたのはいいが・・・誰も少年の顔を治療しようとは思っておらず・・・色々と話し合っていた。
「私もここにすみます!」
「ふぅん、いいんじゃない?私の住んでいる家だけど・・・ま、時雨なら許してくれるんじゃない?」
こうして、少年が寝ているうちに話し合いは進んでいくのであった。