決闘
久しぶりの更新となりました。
二十三、
少年は幽霊を後ろから羽交い絞めにしてとりあえず動きを抑えた。
「満月さん、落ち着いて下さいっ!!」
「じれったいんじゃぁ!!その仮面をとれやぁ!!」
ものすごい剣幕でそのようなことを申すので黒ドレスの少女は屋上の隅っこでがたがた震えている。
「ほら、怖がってますよ。」
「いや、あれはきっと誘ってるのよ。ふふふ・・・時雨ではなく、私をね・・・。いじめてくれぇって言ってんのよ。」
適当なことを言って少年の包囲網から抜け出そうとしている。
「満月さん、とりあえず詳しく話を聞いてから仮面をとるかどうか決めましょう?ほら、もしかしたら話の途中で取るかもしれませんよ。」
少年が幽霊の耳元でそう言うと、不承不承幽霊は頷いた。
「わかった、時雨がそういうのなら信用しようじゃない。」
大人しくなった幽霊を連れて、少年は未だにめっちゃがたがた震えている哀れな黒ドレスの少女の元へ移動した。幽霊が彼女に近付くごとにびくっと震えている。かわいそうだ。
「ほら、満月さんがそんな怖い顔してたらまた逃げちゃいますよ。」
「む、別に普通の顔だよっ!!それで怖いと思うなら、元からこんな怖い顔なの!ほっといてよ。」
ふんとそっぽを向いた幽霊にやれやれといいながら黒ドレスの少女に尋ねた。
「えーと、君は誰?」
「・・・わ、私は・・・」
ぎょろぎょろ動いている幽霊の目をなるべく見ないようにしているのか、お面の間から見える目は少年を捉えて放さない。というより、目をちょっとでも幽霊のほうに動かしたら目で、仕留められそうである。
メンチを受けながら、黒ドレスの少女は少年の右腕を掴んだ。
「私の名前は、フィール・トロワドなの。」
「「トロワド!?」」
それは無いんじゃないのかと少年は幽霊を見て幽霊はドレスの少女を見ていた。
「満月さん、貴女の名前って・・・」
「満月・トロワド!じゃ、この少女は私のご先祖様!?」
相手もこのめちゃくちゃ顔が怖い幽霊が自分の家系の末端だと知ったのだろう。まぁ、幽霊なので故だろうが・・・。
「・・・しかし、貴女は何故、僕の前に姿を現したんですか?」
「理由は簡単です。貴方が私の夫になるのにちょうど良いと思ったから、私の世界へとご招待したのです。」
「私はご先祖様の妻になるために呼ばれたの?」
幽霊は自分の方向を指差しながら黒ドレスの少女へと尋ねる。尋ねられた黒ドレスの少女はそれには首を傾けて唸っている。
「うーん、それはちょっと理解できませんね。何故、貴女はここに来たんでしょう?まぁ、どうやら私の血筋なのでくることが出来たんでしょうね。」
「ところで、お面はとらないんですか?ご先祖様?」
既に後ろから襲い掛かるような格好で幽霊は準備オーケーである。いや、既に襲い掛かったと記述するべきだろう。
「きゃぁ!!」
「ふははははっ!!敵将、討ち取ったりぃ!!」
狐の仮面を月に掲げ、幽霊は相手の顔を見る。
「あ、普通に美少女だ。それ以外の何者でもないねぇ。」
幽霊の言うとおり、黒ドレスの少女は美少女であった。しかし、今では幽霊に仮面を取られたので涙を流している。まぁ、なんだかとっっても近くに痛いような雰囲気にさせる感じを出しており、こんなのもいいなぁと世の男子は言うかもしれない。
「なんで、こんな仮面を被ってたんですか?」
「それは・・・その昔、私が・・・まだ人間だった頃ね、ちょうど日本に来て一人の男の子に恋をしたの。それから私はその人に想いを伝えようといろいろがんばった結果、想いは・・・通じらなかった。」
「何故?」
「簡単よ、私の顔が趣味に合わなかったみたいね。」
そんな簡単な理由で仮面の一つをつけてんじゃねぇよと幽霊は言いたかったが、抑えた。
「じゃ、それが理由で・・。」
「そう、だから今のところは時雨さんに心を奪われたままなんです。不束者ですが、よろしくお願いします。」
「え・・・・。」
少年は別に可愛いからいいかなと思っており・・・まぁ、相手は既に人間ではないようだが、承諾しようとしていたところ・・・・。
「ちょっと待った、時雨は私の騎士だからそう簡単にはほいほいと渡せない!!」
「騎士?時雨さんが貴女の?」
「ええ、そう。私は時雨に護ってもらって初めてこの姿をこの世に現せるの。つまり、時雨の心が私のようなもので、私の心と時雨の心は一心同体じゃなくて、二心一体なのよ。時雨、帰るよ。」
「え?あ、はい・・・わかりました。」
おずおずとそれに従いつつ少年は黒ドレスの少女にお別れを告げた。
「すいません、貴女に好かれたのはかなり嬉しいんですけど・・・どうやら僕はあの人の騎士だったようです・・・。」
黒ドレスの少女はにこりと笑い告げた。
「大丈夫ですよ、時雨さん。私は他に貴女に女が居ても気にしません。どうぞ、ゆっくりしていってください。」
そういって少年の右腕を掴む。左腕は幽霊がしっかりと掴んでいるので綱引き状態となった。少年は少々、困ってしまって二人を交互に見やる。
「ご先祖様なのに今更、恋に未練を持たないでよ!!」
「ふふ、それなら貴女も同じです、貴女だって死んでるんですからね。」
まぁ、両方とも幽霊なので戸籍は既に無い。一つの手段として両方をとるという手もあるが、それは人としてどうかと思うのでやめておこう。
「待った!これ以上やったら僕の腕が引きちぎれますから・・・何か勝負をして決着をつけてください!!」
「「勝負?望むところ!!」」
両者少年を放して後ろのほうへバックステップをして間合いを取った。中心にはどうにか立ち上がった少年がどうなるのかと隅っこに移動した。二人の手には同じような西洋剣が握られている。少年は別に持っているので幽霊はどうやらどこからでも剣を出せるようだ。
「ふふ、貴女は先程、二つの心に一つの体といいましたからどうぞ、ハンデとして時雨さんとご協力してください。見せてもらいます。」
「ふん、余裕なのは今だけよ。時雨の力はあんたが出してたそんじゃそこいらのまっくろ○ろすけとはお話にならないわよ。時雨、手伝って!!」
「わ、わかりました。」
少年はいやだとか言わずに剣を持って幽霊の元に行く。少年が幽霊の元へ近づくと、幽霊は金色に輝きだした。
「ふふふ、見せてあげるわ、『満月の騎士』の力を・・・・。」
幽霊が何かを唱え呟くと少年の体から青い光があふれ出てきていた。そして次にいまや金色となってしまった幽霊の色が剣からもあふれ出す。
「さぁ、ガチンコ勝負よ!!頑張って、時雨ぇ!!」
「見せてもらうわよ、貴女の力を!!」
「ええぇい!!!こうなったらやけだぁ!!」
少年と黒ドレスの少女は剣から火花を散らして鬩ぎ合った。若干、少年がおされ気味なのは年季が違うといった感じであろう。
「さて、これからが本番!時雨!!行くわよっ!!避けれないなら避けなくていい!」
あろうことか、幽霊は持っていた剣を投擲した。二人は巨大な力で真っ向から対峙していたのでとっさに避けることができず・・・・
ぶしゅう!!!
「ぎゃーす!!」
「ふふ、これぞ、愛し合っていた二人の繋がった瞬間ね・・・・。」
剣は両方の背中に刺さっており、黒ドレスの少女は結晶となって消えていっていた。
「・・・見せてもらったわ、貴女の想い・・・だけど、今度私が生まれ変わったら貴女を倒して見せるから・・・・。」
「はは、それならいつか、また会いましょう。成仏してね、ご先祖様。」
一筋の光が月へと向かって飛んでいくようにして消えていった。少年は自分にささっている剣を抜き出そうと努力しているが、触ることも出来なかった。
「大丈夫、それはただ単に力をこめて作っただけだからさ、人体に支障は無いって。ま、時雨の心が汚いなら先程のご先祖様のようになってたけどね!さ、帰ろう、私の騎士。」
ええと、先に予告しておきますが、次回で最終回です。今まで応援してくださっていた皆様、ありがとうございます。終わり方はちょっと暗いかもしれませんが、よろしくお願いします。