忘却
十九、
とある、河川敷にそのダンボールは置いてあった。外のほうには『男の子です、物静かなタイプで素直な子です。誰か、拾ってやってください。』と書かれており、中には生き物が入っていた。かなり遅い時間なので人っ子一人、いない。
「ママー、あれ飼っていい?」
「駄目よ、マー君。あれはね、きっと冗談なのよ。」
そういってそのダンボールの前から母子は消え去った。既に時刻は夜となっており、どちらかというと深夜だ。
「うぅむ、どうして僕はここにいるのだろうか・・・?」
そのダンボールの中で少年、天道時 時雨は首を傾げた。どうも、ここ数日の記憶がなくなっているようであった。と言うよりも、名前と常識は覚えているのだが・・・家の場所と友達の名前などを完璧に忘れてしまっている。
「??????」
空に見えるのは静かなる月であった。そして、少年は懐かしいような感じの声に出会った。
「時雨、こんなところにいたのかい?」
少年が声のしたほうに首を向けると、そこには青白く光る少女が浮いていた。髪は腰辺りまで伸ばしてあり、丈の長いドレスを着ている。胸はあまりなさそうである。
「あの〜僕のお知り合いですか?」
「あちゃ〜やっぱり失ってるねぇ、記憶を・・・。」
少しばかり残念そうな顔して空飛ぶ少女は蝶のような溜息をついた。その右腕にはよくよく見るとかなり細長い西洋の剣が握られている。その細さは小指ぐらいの細さだが、月明かりに照らされて反射している剣の刃の部分は危なっかしい感じを出している。
「思い出した?」
「いや・・・なんだかどっかで見たことあるんだけど・・・思い出せないよ。」
少年は首を振って再び目の前にいる少女を見た。
「君、なんて名前?」
「私?私の名前は満月。満月・トロワド。う〜ん、困ったなぁ。そうだ、今から少しばかり私の話を聞いてくれないかな?」
「はぁ、わかりました。」
少年はそういって再びダンボールの中へと戻った。そして、それを合図に少女は話し始めた。
少年が家に帰ってこない。それは、今から数時間前のことである。
「満月さん、お兄ちゃん知らない?」
「?いや、知らないよ。美奈さんと一緒に買い物じゃないの?」
「そうなのかな?」
その時は誰一人として少年の行方を心配している人などどこにもいなかった。その後、メイドが帰ってきて、話は急転する。
「ただいま戻りました。」
「あ、美奈さん、お兄ちゃんは?」
「時雨様ですか?私と一緒ではありませんが・・?」
三人は速急に集まって会議を始めた。そして、地域分担をして捜索を開始した・・・のだが、当の本人は二人組に連行されていた。忍者とお嬢様に・・・・。
「すいませんね、時雨君。」
「まぁ、しょうがないわ。これも時雨さんのためよ。」
そういって気絶させた少年を抱え上げ・・・(落ちている青少年が読むには少し早い本を見つけてそれを見ようとしたところ、後ろから不意打ちされたのであった。)そして、その不覚を取った少年は少年の母親から送られてきた謎の装置に強制的に放り込まれたのであった。
「何々、『全能力強制上昇装置』?えーっと、この装置はどんなにお間抜けでぼさぁっとしている人でも頭と身体能力を今よりも数倍上げる装置です。ふぅん、成る程・・・。使い方は簡単、相手の意識を奪い、放り込んでスタートボタンを押す。」
「時雨さんを入れましたわ。さて、次はスタートボタンですね?よいしょっと。」
「そして最後に、コースを選択する。ボタンは右から極悪、悪、善、極善とあり、その人の正確にあったものを選択します。」
「ぽちっとな。」
「なお、この装置を使った人の記憶はある程度、消去されます。ご了承ください・・・!」
見た目どこからどう見ても洗濯機を急いで止めに入る二人。だが、急に携帯電話が鳴り出したのでそれを手に取った。
「時雨さんのお母様!?これはどういうことですか!!」
電話の相手は少年の母親であった。何かあったのか執事の半狂乱のような声も聞こえてくる。
『あ〜その装置を今すぐ何処かに隠しておいてくれないかな?執事に見つかってしまったのよ。』
「しかし・・・既に時雨さんが在住ですが・・・?」
『大丈夫、その装置を使えば時雨の記憶はなくなるけど・・・その子が思い出したいと願うのなら、きっと思い出してくれるからね。あ、うるさい執事が着たから私はこれで失礼!!追伸、その装置が終わったときは絶対に気を抜かないこと、もしも気を抜いたら時雨はいなくなるからね。』
一方的にかかってきた電話はガチャリと切れて言葉を発しなくなった。そして、二人はその装置がいつの間にか止まっており、少年の姿がないことにようやく気がついたのであった。
「リベナさん、どうしましょう・・・。」
「どうもこうもないわ。急いで時雨さんを探しに行くのよ!!」
二人はその場から急いで姿を消して少年を探し始めたのであった。だが、少年は実はそこらをうろついていたのであった。
「うぇぇ、気もち悪ぅ。」
そしてそのまま、近くの川へとダイビング。そのまま流されること、数時間・・・・既にカレンダーは一マス駒を進めており、次の日になっていた。少年の体は何者かによって引き上げられて今に至る。
その頃、幽霊たちは色々と聞いて回っていたのだが・・・少年の姿を確認することは出来なかった。
「うぅむ、時雨は何処に行ったんだろ・・・。」
幽霊は一人、町をふらふらと歩いていた。とりあえず、こちらの方角にはいないことは確認できたので、一旦、家に戻ることにした。洋館が少年捜索隊の本拠地であり、一時間探して見つからなかったら一度戻ることとなっていた。時刻は午後九時。いつもだったら今頃少年と幽霊が部屋ではなしなんかをしている時間でもある。
幽霊が洋館へと帰宅すると誰もいなかった。もしかしたら部屋に少年がいると思って幽霊が部屋を覗いてみたがいなかった。代わりに、寝床の木刀が青い光に包まれていたのであった。幽霊は気味が悪いと思いながらもその木刀を掴んでみた。すると、木刀はそれ以降、発光しなくなったのであった。と、誰かが帰ってきたようだ。
「あ、美奈さん・・・時雨はいましたか?」
「いえ・・・・いませんでした。」
帰ってきたメイドにあちらのほうにはいなかった。と伝え・・・そろそろ警察に捜索願を出そうと真剣に考えていると、お嬢様と忍者がやってきた。その顔は青ざめている。
「どうしたの、姉さんたち・・・なんだか存在しないモンスターでも見たような顔してるけど?」
「満月、ちょっと大変なことになったのよ・・・。ところで、時雨さんはいるかしら?」
切羽詰ったような感じで言われたが、とりあえずこちらの事情を説明した。
「成る程・・・やっぱり帰ってきてないのね。」
「どういうことです、姉さん。説明してください。」
その場で洗濯機のような機械に少年を放り込み、その後、少年の姿が消えたことを告げて・・・二人は話し終えた。それを聞いた三人は愕然としていた。
「とりあえず、時雨様を探しませんと・・・。」
「そうだね、探そうよ。」
再び、少年捜索隊に二人を加え、少年を探し始めた。念のため、木刀を持参していたのであった。幽霊はその途中、刀剣少女と会ったのであった。
「あ、満月さん。時雨?時雨なら川で見かけましたよ?」
「ありがと。」
そして、今に至る。
「成る程・・・それで僕はこんなところにいるんですね?」
「まぁ、そういうことになるかな・・・。ところで、名前をきちんと覚えてるの?」
幽霊にそう言われ頷いた。そして、幽霊は立ち上がって少年の手を掴んだ。
「家に帰ろ、時雨。」
「ええ、お願いします。ところで、その物騒な光を纏っている剣は何ですか?」
「これ?これは時雨を見つけたときにこうなったんだ。うん、そういえば時雨が覚えてるわけないか・・・。」
初対面の人から私のことを覚えてますかと聞かれても知っているわけではない。知っていたらそれは運命という奴だろう・・・・。ともかく、少年の記憶はなくなったままであり、これからどうなるのであろうか?少年は転校するさきの小学校で友達百人できるかなといった状態であった。