攻
一つの区切り目です。
十八、
今日も、少年は人数の少ない教室へとやって来て授業を静かに受けていた。彼から少し離れたところの机では同じように黙って話を聞いている忍者が先生の質問に答えている。
そして、授業を終えるチャイムが鳴り響き・・・帰宅部がお家に帰る時間となった。
「あ、時雨君、担任の先生が呼んでたよ?」
「え?そうなの?わかった、ありがとう。」
どうやら担任の先生が呼んでいるようで、少年は担任教師が待つ保健室へと向かった。本当の担任教師はいろいろと問題があって昨日やめてしまった。今のところは代理として保健室の先生が二人いたのでその片方が少年たちの教室の担当となっていた。授業をしているわけではないので掛け持ちも可能であった。
「失礼します。小林先生はいますか?」
少年はそういって中に入ると自分を呼んでいるらしい保健室の先生の片方を探していた。おばさんの先生と若くて綺麗な先生の二人がいて、少年たちの代理担任となっているのはおばさんのほうであった。
「あら、小林先生は今用事で学校にいませんよ?」
保健室にいたのは若い先生のほうであり、おばさん先生はいなかった。特に用事もないので保健室を出て行こうとすると・・・・若い先生に呼び止められた。
「すまないけど・・・この書類を職員室にいる佐上先生に渡してくれないかな?それと、受け取りのサインもお願いしたいの。」
少年は騙されやすい性格だったのでその依頼に頷いた。
「わかりました。これを渡してくればいいんですね?」
「ええ、お願い。それと、その用事が終わったらきちんと保健室に戻ってきてね?」
保健室を出て行くとき、そんなことを言われたので少年は肯定の仕草をして職員室を目指すのであった。
MISSON!!保険の先生から渡された書類を無事に佐上先生に渡せ!!
ゲームだったらこんな感じであろうなぁと少年は思いながら歩いていった。まぁ、僕が何者かに襲われたりしないだろうけどと思っていたが、それは間違いであった。
「見つけたぞ、天道時 時雨!!」
少年が不思議に思いながら後ろを振り返ると、そこにはいつかの刀剣少女が腰に刀を刺して立っていた。
「あ、三簾さん?ちょっと用事があるから待っててくれないかな?」
書類を見せようとしたのだが、刀剣少女はその書類に刀を振り落とそうとした。何とか少年はそれをかろうじで避けた。
「危ないよっ!!何するの!!」
「うるさい!!その書類がなくなれば私と勝負が出来るだろう?」
「あ、成る程・・・・じゃない。」
少年は刀剣少女に背中を向けて全速力で走り始めた。
「己、逃げるのか?」
「当然だよ。今は君に構っていられないんだ!!」
そう言われたら無理やりでも振り向かせたいというのが人の心だ。無論、刀剣少女もその心に取り付かれていた。
「ならば、その書類は不要だっ!!」
少年を追って少女も駆け出し始めた。こうして、校舎での追いかけっこは始まったのであった。放課後なので人が少ないのが不幸中の幸いだなぁと思いながら少年は猛獣から逃げる草食動物のような心境となっていた。
「栂波奥義、影月舞!!」
後ろからはそのようなことを叫びながらむきになっている刀剣少女が追いかけてきている。少年はその攻撃を右に避けた。
そんな時、幽霊は少年たちが住んでいる洋館でテレビを見ていた。
「時雨様たち遅いですね?」
「そうだねぇ、彼女とデートじゃない?あはははは!」
呑気にテレビを指差して笑っている。その言葉を聞いてメイドは少しばかり嫉妬したようだった。
「時雨様に彼女がいるんですか?」
「冗談だよ。時雨に彼女が出来るわけないじゃん。まともな連中が時雨を好きになるわけないじゃん。」
その言葉に微妙にほっとしながらも何故だか心から喜べないメイドであった。
「覚悟、時雨!!」
「勘弁してくれぇ!!」
未だに少年の追いかけっこは続いており、少年は体がぼろぼろになりながらもなんとか書類だけは守っていた。時折、校舎に残っていた生徒たちとぶつかりそうになったりもする。
そろそろ職員室に到達するが、こんな状態で職員室に入ってしまったら刀剣少女は大暴れしてしまうであろう。それだけは阻止したい少年だったので、とりあえず姿を隠すことにした。
「秘技、上着脱ぎ!!」
学ランを刀剣少女の顔面へと投げつける。
「ふん、こんなものが私にあたるとでも思ったのか?」
それをあっさりと交わして相手に襲い掛かろうとしたが・・・肝心の相手はどこにもいなかった。
「く、逃げられたか?だが、この付近にいるはずだ。」
そういって少年が向かっていたほうに刀剣少女も姿を消した。そして、その廊下には一人の人間も残っておらず、学ランが廊下に残されていたのであった。だが、次の瞬間には学ランをどけて下から人が出てきた。
「ふぅ、助かった。さて、そろそろ下校時間だから急がないと・・・。」
そういって少年は学ランを着て今度こそ、その廊下からは人がいなくなったのであった。
少年は職員室で書類を渡したのであった。そして、刀剣少女に見つからずに保健室へと戻ってきて保健室の若い先生からお礼を言われて外に出ると、廊下の端のほうに刀剣少女がいた。こちらに気がついたのか再び全速力で少年のもとへとやってきたのだが・・・・。
「覚悟・・・ばたっ。」
少年の目の前で倒れてしまった。目を開けているので大丈夫であろう。躍起になって少年のことを探していた刀剣少女は自滅したのであった。
「おつかれさま。」
「く、今日のところはこれで勘弁してやる。だがな、私はお前を絶対に葬ってやるからな?覚えておけよ?」
「はいはい、ほら、そろそろ下校時間だから帰らないと危ないよ。」
鼻息荒い刀剣少女を立たせて少年は苦笑したのであった。そんな少年の態度に再びムカッとした刀剣少女だったがどうも自分だけが存しているような感じになったので黙って礼を言って去っていった。
「あ、氷雨さん、待っててくれたの?」
「うん、一緒に帰ろうと思って・・・。」
顔の半分を隠している髪の間から時折潤んだ目を向けている忍者に礼を言って少年は教室を出て下駄箱へと向かった。
「お兄ちゃん、遅いよ!!」
「あ、鈴も待っててくれたのか?ありがとう。」
下駄箱にいた妹も一緒に帰ることになり、学校の敷地から出る。そこにも少年を待っている人がいた。
「遅いわよ、時雨さん?」
「ふん。」
お嬢様と刀剣少女が二人して待っており、なんだかハーレム気分を味わっているような感じだったがあいにく、少年にはそんな気持ちを持っていなかった。
少年を中心に囲んでいるような感じで妹は右腕を掴んでおり、忍者は左のすそ部分を遠慮しているような感じで引っ張っていたりもしていた。お嬢様は投げナイフを少年に突きつけており、刀剣少女は木刀で少年の頭をぽこぽこ叩いていた。
「・・・時雨、モテモテね?」
「そのようですね。」
離れたところから双眼鏡を構える二人組みは笑っていた。少年の母親と執事である。当の少年はどことなく、嬉しそうでもあり、痛がっているようにも見える。だが、他の皆は幸せそうであった。
そしてそれぞれ、家の方向へと向かっていき、残ったのは少年と妹となった。
「お兄ちゃん、意外ともてるね?」
「そう?気のせいだよ。」
どことなく元気のない妹の頭を軽く叩いて少年は言った。そして呟く。
「はぁ、これからどうなるんだろう。」
「何が?」
「この小説の方向性・・・冗談、僕の日常。」
「大丈夫。」
そういって妹は少年の手を握った。
「私が妹でいてあげるから。」
少年は苦笑してから洋館の前で待っている二人に手を振って家に帰りついたのであった。
皆さん、こんにちは。簡潔に述べますが、次回からはサブタイトルが増えます。一字→二字となる予定です。