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満月の騎士  作者: 雨月
17/25

十七、

 少年を乗せた謎の車?はかなり広いところに着陸したのであった。


「さ、降りてついてきなさい。」


 運転手の姿はいつの間にか警察官から執事の格好になっており、少年の母親が乗っているほうの扉を開けた後、少年が乗っているほうの扉も開けた。


「ささ、坊ちゃま。」


「あ、すいません。」


 少年は母親の後ろを追いかけながら執事に頭を下げてその場を後にした。家を出たときはもう少し小さかったような感じがする家だが、今では比べるものが他にないため、どの程度でかいのかさっぱり確認することなどできそうになかった。


「どう?久しぶりでしょう?」


 特に感情をこめていない母親の声を聞いて少年は頷いた。

少年が家を出たのはかなり前であり、もはや覚えていない。かすかに残っているのは父親の葬式に出たぐらいである。少年が家を出ることになったきっかけは、彼の父親が死んでしまったことであった。少年が生まれて二年後ぐらいに死んでしまい、その後、母親は莫大な財産で更なる利益を増やし、もとから大企業だった父親の会社を更に大きくしたのであった。


「さ、入りなさい。」


「あ、はい。」


 屋敷の扉はでかく、それをくぐって少年は驚いた。

中にはお手伝いさんがごろごろ・・・失敬、多くのメイドさんや執事さんが頭を下げていたのであった。少年は噂でこの会社の大きさを知っていたが、ここまで大きかったとは思いもしなかった。少年は静かな場所などが好きなので、こんなに人が多いところでは少しばかり、緊張してしまい、心に安定を求めてしまうのであった。

 隣の母親は全く持って平常心。近くに立っているのはジャガイモの花と葉っぱみたいな視線で彼らを見ている。


「・・・・さ、ついてきなさい。」


 そういって一人で進みだし、会談をあがっていったので急いで少年もその動作に習ってメイドさんや執事さんに頭を下げながら進んでいったのであった。

 そして、一つの大きな扉を開け、少年と母親はそこに入ったのであった。


「・・・母さん、話って何ですか?」


「そうね、そろそろ話しましょうか・・・。」


 高級そうな椅子などは一切無い部屋で、どちらかというと物置のような場所であった。


「実はね、厄介なことに・・・私たちの親戚・・・といっても、全くとっていい無関係にあたる『津波』グループがこの会社を乗っ取る気になったらしいのよ。それで、今のところ一番跡継ぎの可能性の高い貴方を呼んできたの。」


 少年は思いっきり首をひねって考えてみた。答えになっていない。


「母さん、つまり僕は何の為に連れてこられたんですか?」


「・・・実は、あっちの考えをもっと詳しく聞く為に囮になってもらうわ。あちらさんのトップの子どもと話をしていればいいわ。何でも、同い年で、会社を軌道に乗せた張本人だそうだから・・・・貴方と仲良くしている隙に、私たちが部下を締め上げて少しでも情報を手に入れるわ。わかった?」


 その目は既に母親というより、冷徹な女社長といったほうがしっくりきてしまって怖いといった感じであるので少年は首を縦ではなく、横に思いっきり振った。


「無理ですよ。と言うより、するきになりません。母さん、他にも候補がいるのならその人を使ってください。」


「・・・わかったわ。貴方がそういうのならしょうがないわね。先に部屋を出ておいて・・・」


 少年は言われた通りに部屋を退出した。いまだに背中に背負っているリュックからは木刀が突き出ており、部屋から出た少年の首筋辺りに幽霊が姿を現した。


「へぇ、時雨もやるねぇ?」


「気のせいだよ。ここでは出来るだけ首を出さないほうがいいよ。ばれるから・・・。」


 少年にそう言われ、気の無い返事を幽霊がしたところで執事がひとりやってきた。何でも、家に送ると言ってきたのであった。少年は頷き、それに従った。

 そして、数日後・・・いつもより少しばかり楽しい生活を送っていた少年に事件が起こる。

 その日は幽霊に忍者、お嬢様、妹と一緒に下校していると、道端に着物を着ている女性が倒れていた。その着物は鮮やかな緑色であった。


「時雨!急いで救急車呼んで!!姉さんは生死の確認!残りの二人は何でもいいから祈ってて!!」


 幽霊が迅速かつ、適切?な判断を下し、言われた皆はその通りに動いた。そして、救急車も素早くやって来て倒れていた女性を連れて行った。そのメンバーの中でもっとも年上であったお嬢様が同行したのであった。残りの皆はそれぞれの家に向かって帰っていった。


「「「ただいま。」」」


 三人で家に着くと、誰かが来ているようであった。客室の一室からメイドが姿を現していた。そして、困ったような感じで少年のもとへとやってきていた。


「あの・・・時雨様にお客様です・・・。」


「僕にお客?母さんかな?」


「いえ・・・その・・・。」


 なんとも歯切れの悪い言葉で喋りながら少年の後ろへと隠れたのであった。いつもと違う感じの態度に戸惑いながらも少年はお客が待っているという部屋へやってきた。途端、何かが振り落とされたのであった。


「のわっ!!」


 少年はそれを見事に手で押さえ込んだ。そして、反射的に言葉を発した。


「何奴!姿を見せい!!」


「ふん、少しはやるようだな・・・。」


 刀を振り落とした犯人は少年の首辺りまでの身長の女の子であった。刀はよくよく見れば木刀で、これなら安心・・・まぁ、当たっていたら悪くて石の下であろうが・・・。


「君は・・・?」


 少年は木刀を放してまじまじと相手を見やった。後ろからは幽霊たちが見守っている。


「私の名前は栂波つがなみ 三簾みれん。『津波』のものだ。」


「『津波』?何処かで聞いたような・・・。ああ、思い出した。母さんが話してたっけな?それで、その栂波さんが何か僕に用があるの?初対面だって思うけど・・・。」


 少年はのほほーんと構えており、花畑オーラが体からにじみ出ている。それを見ていた相手はいらいらしているようだ。


「先手をうちに来たのだ!庭に出ろっ!!貴様は我が道の邪魔となるものだと思われる!!」


「わかりました。外で話がしたいんですか?」


 半ば頭の上に疑問符を出しながら少年はそれに従って外に出た。そして、それを追いかけるような感じで他のギャラリーも場所を移す。

 刀剣少女は木刀を地面に置き、まるでマジックでも見るような感じで何処からか真剣を取り出した。刀身は紫色に染まっており、見たところかなり怪しい。


「成敗してくれる!!剣を抜け!!」


「ちょっと待ったぁ!!何でそうなるんですか!!」


 ここで、第三者が現れる。


「私の出番だね?行くよ、時雨!!」


「ま、満月さんまで!?」


 こうして、成り行き上どうしようもない戦いはスタートの合図もなしに始まったのであった。両者切り結び、睨み合う。そしてまた、離れる・・・の繰り返しでなかなか勝負がつかない。


「せいっ!!」


 少年の髪の毛を数本、切り落として刀は何も無い空間へ進む。そこへ少年は突きを繰り出した。だが、この前の木刀の威力を思い出して手加減をする。しかし、あっさりとその木刀はかわされてしまった。そしてまた、間合いを取る。


「く、いい加減本気を出してみろ!!」


 どこからどう見ても手加減をしている雰囲気(少年の右腕にはそこらへんから千切って来た花が掴まれている。)を感じて刀剣少女は不平を垂れた。因みに、彼女のほうは至極真面目に戦っている。


「待った、どこからどう見ても一般市民に剣を向けるほうがおかしくない?」


 そして、少年もまた、とても納得のいく反論をしてみた。刀剣少女も動きをぴたりと止め、数分ほど考え・・・・刀を納めた。


「すまなかった。どうやら私がおかしかった。」


「うんうん、真剣を持ってそこいらをうろついてるほうが間違いなくおかしいよ。警察を呼ばれなくて良かったね。さ、そろそろお母さんが心配している頃だろうから、おうちに帰りなさい。」


「・・・・失礼した。」


 刀剣少女は謝罪して夕日の沈むほうに帰っていった。そして、その少女の後姿を四人で眺めながら一人が呟いた。


「時雨様、幽霊に取り付かれている人は一般市民に入るんでしょうか?」


「さぁ?どちらかというと政府の実験施設にでも連れて行かれそうだね・・・・。」


「それに、お兄ちゃん意外と強くない?」


「そうだね?あの後も普通に戦えてたかも・・・。」


 その場一同、ならそのまま続けて決着をつければよかったのではないのであろうかと考えていた。

 刀剣少女もそのことに気がついたが、既に家についていたので本日のところは諦めたそうだ。人間、諦めが肝心である。


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