突
十五、
その夜、精進料理に涙を流しながらも少年と幽霊は部屋(ここだけ中身は他のところと違い、洋風である。)で話をしていた。
「はぁ、何でこんなところに僕らはいるんですかね?」
「さぁ?私の感だけど・・・またなんか面白いことがあると思うよ?時雨、きちんと木刀持ってきた?」
バックから突き出ているものを眺めてのんびりと少年は答える。
「ええ、言われたとおり、持って来ました。まぁ、誰に襲われるかは分かりませんがね。」
「備えあれば憂いなし・・・・ま、気をつけておいたほうが念のためだってことだよ。」
幽霊の言葉は間違っていなかった。その二分後、境内のほうから凄い音が聞こえてきたのであった。
「・・・・満月さん、今、凄い音がしませんでした?」
「さぁて、何か面白いことが起きたんじゃない?ほら、木刀持って出かけよう!」
元気に笑いながら幽霊は立ち上がり、先に廊下へと出て行った。その後を、少年が化け物が出ませんようにと願いながら追いかけていったのであった。
その頃、彼の母親は執事と話していたのであった。
「・・・時雨様は本当に大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫のはずよ。それに、あの子が駄目だったとしても、次がいるわ。」
「・・・・。」
「刺客に選んだあの二人にもそれぞれ、条件はつけてあるわ。一度失敗したらそれで終わり・・・・。その後は時雨の友達となってあげるというのが条件よ。敗北条件はお嬢様が逃走された場合。忍者さんの場合は・・・・」
にやりと笑ったその顔は悪戯を思いついたような顔であった。
「・・・・境内に何人か人がいるよ、時雨。」
本堂の中から様子を伺う幽霊の目には黒装束の人間が何かをしているように見えた。一緒になって少年も覗き込む。
「何をしているんでしょうね?」
「さぁ?でもさ、あれって忍者だよね?」
月の光に当てられ、その姿は確認できる。少年もその姿を眺め、写真に収めようか真剣に悩んだところであった。だが、忍者たちはあっという間に姿を消してしまった。
「・・・?」
少年は忍者たちがいた場所に歩いていってみたが・・・・何もなかった。そして・・・・。
「時雨!上に気をつけて!」
幽霊の声が聞こえ・・・上から何かが降ってきた。それが何かを確認する前に、少年は急いでそれを避けた。
「な、これは・・・。」
地面に突き刺さっている黒い棒のようなものを確認して少年は驚愕した。クナイである。一昔、少年も忍者に憧れて、クナイを投げる練習をしたものだ。まぁ、三日で終わってしまったが・・・。
「誰だ!」
少年は一陣の風を感じながらクナイが飛んできた方向へと視線を滑らせ、確認した。月をバックに一人の忍者が立っていた。
その姿は黒く、覆面をしており・・・少年曰く、かっこよかったそうだ。
「・・・・。」
忍者は無数のクナイを取り出して少年へとプレゼントした。だが、少年はそれを避け・・・・幽霊のもとへと戻ったのであった。
「ひゅー、あの忍者やるねぇ。だけど、投げ専門の姉さんに比べたらちょっと甘いかな?時雨、訓練しておいて良かったね?」
「そうですねぇ、してなかったら今頃・・・お団子になっているところでしたよ。とりあえず、逃げたほうがいいんじゃないんでしょうか?」
提案をしてみるが、その提案を幽霊は手で制した。
「・・・それは無理かな。誰かがさっきから私たちを監視してるみたいだし。ま、後ろが駄目なら前の敵を倒したほうがいいんだよ。これ、常識だから覚えておいてね?」
引いて駄目なら押してみろ精神で幽霊は少年に告げると、少年と呼吸を合わせた。
「これぞ、ごちゃ混ぜ状態。時雨、行こう!!」
「分かりました!」
木刀を左で構え、少年は大地を蹴った。目指すは漆黒の忍者である。忍者も投擲が通用しない相手だと気がついたのか、背中に挿していた短刀を抜いて戦闘体制へと移行した。
「・・・。」
「うぉぉぉぉ!」
少年と忍者はお互いの獲物をぶつけた。そして、その場でぶつかり合った結果、一度間合いをとるために離れる。
「うぅむ、真剣とぶつかり合ったのに木刀が壊れてないなんて・・・これ、本当に木刀?」
「・・・・・。」
忍者は棒手裏剣を少年へと投げつけるが、それを少年は器用に交わして忍者へと踊りかかる。
「せやぁぁ!」
「・・・・!」
忍者は後数歩というところで避け、木刀は残像を残しながら近くにあった木に直撃。木はその場で霧散した。
「・・・・。」
「・・・・。」
その威力にお互い、驚き・・・少しの時間が流れる。
「満月さん、何ですか、この威力は!!これ絶対に木刀じゃないでしょ!!」
「本気で振りすぎ!!力下限が分かってないんだよ!!」
青く光る何かにびびりながらも少年は忍者に木刀を向ける。そして、馬鹿の一つ覚えのように再び突撃して行ったのであった。
「うぉぉぉぉぉ!!」
今度は完璧に避けられなかったのか、木刀の先端が黒い布を捕らえた。その部分は見事に霧散してしまった。
「!って、不和さんじゃないか!」
「あ・・・・。」
顔を覆っていた布は剥がれ落ち、その顔を確認して少年は驚いた。髪を下ろしていない状態の根暗少女が姿を現した。
「ち、違います!!私は不和ではありません!」
髪を何時もはおろしているので白を切れると思ったが・・・少年はそれに気がついていた。
「だって、不和さんの目は澄んでいて一発で分かるよ。」
「・・・!!」
その頃、未だに会話をしていた執事と少年の母親。
「彼女の場合の敗北条件は姿を見られ、二回以上・・・時雨に名前を呼ばれてしまうことよ。」
「何故、そのような条件に?」
「それはね、友達から名前を呼ばれるのは嬉しいことなのよ。・・・・小さい頃の時雨にそっくりだった氷雨ちゃんはねぇ、実は、私がつけた名前なのよ。」
「成る程、名付け親ですね?」
「ええ、きっとあの子は時雨に敗北したとき、良かったと思うわ。」
そういって再び、悪戯に笑ったのであった。
「・・・・不和さん、忍者だったの?」
「え・・う、うん。家が代々、忍者でね・・跡取りが生まれなかった私の家では結局、私を男のように扱うようにしていたんだけど・・・ずっと訓練してたせいで友達も出来なくなったんだよ。だから、私は全うな人生を生きるために忍者のまま、今の人生を送り始めたんだよ。だけどね、それ以降友達がまったくできないんだ。」
「そうだったんだ。」
境内に座って根暗少女は溜め息をついた。そして、立ち上がって更に答えた。
「ま、これで私の貴重な友達も一人、消えちゃったなぁ。でも、しょうがないよね?友達の命を狙っていたんだから・・・。」
そんな手を掴んで少年は答えた。
「大丈夫、僕はなんともなかったから友達だよ。それに、止むに止まれぬ理由があったんでしょ?それならしょうがないよ。」
少年はそういって笑った。その笑みには邪気はなかった。
「ありがとう、時雨君・・・。」
その夜、少年はいい夢を見たとのことだ。
どうも皆様、作者の雨月です。今回も読んでくれて有難うございました。御意見等をよければいただきたいと思いますので、時間があったらお願いします。さて、気まぐれな今後の展開ですが・・・これから少年は大変な目に会う予定です。