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満月の騎士  作者: 雨月
13/25

十三、

 少年と幽霊が家に帰ってくると、玄関には英語のノートを掲げた妹とタオルを持ったメイドが立っていた。


「兄貴!英語教えてよ!」


「時雨様!お風呂に入ってください!」


 何故だか、両者は一歩も譲らずといった感じで手に持っているものを突き出してくる。その目はなんだからんらんと輝いているように見えた。


「・・・ははっ・・鈴、その宿題はすぐ終わるのかな?」


「うん、すぐに終わるよ。」


「わかった、それなら先に鈴の宿題を終わらせるよ。美奈さん、ゆっくりしていてください。」


 すごすごと退散していくメイドを尻目に(幽霊が慰めている。)妹は少年の右腕を引っ張りながら自分の部屋に連れて行った。

 そして、少年は妹の宿題を見ることになったのだが・・・。


「鈴、ここの和文は『私はワクワクしながらベッドに向かった』じゃなくて、『私は早く寝た』だよ。一体、どこでワクワクなんて書いてるんだ?」


「え、そうなの・・・私はてっきり・・・その・・・あれかと思って・・・。」


 もじもじしながら答える妹を眺めながら少年は溜息をついた。そして、もういいだろうと思って妹に告げる。


「鈴、僕はお風呂に入ってくるからね。」


「え!もう?もうちょっと教えてよぉ!」


 出て行こうとする少年の服を引っ張りながら妹は言った。


「お風呂から出てきたらまたくるからさ・・・それまで、僕が指摘したところをきちんと直しておくんだよ?」


「ちぇ、わかったよ。」


 渋々といった様子で妹はそれに従った。

 この洋館には後からお風呂が増設されているらしく、結構、広い。しかし、夜中一人ではいるとなにやらおかしな泣き声が聞こえてくる気がするので夜中は誰も入っていない。少年は一人で湯船に浸かっていると・・・・誰かが入ってきたのに気がついた。


「時雨様、お背中流しましょうか?」


 タオルを巻いたメイドが入ってきたので少年は湯船の中でずっこけた。


「みみみ・・・美奈さん!!何してるんですか!」


「何って・・・お勤めです。御主人様のお背中を流すのも仕事のうちなんですよ。」


 因みに、少年の母親から言われた仕事は最低限の家事だけである。後は、適当にやっておけといわれただけである。


「あ、成る程・・・・じゃ、ないですよ!こっちに来ないで下さい!!」


 急いでメイドから離れようとするが・・・・あっさりとつかまった。


「大丈夫ですよ、小さくても文句を言いません。」


「何のことですか!とりあえず放してくださいよ!!」


 少年はとりあえず両腕を振り回すことにしておいた。しかし、思いっきり振り回すとメイドのタオルが落ちてしまいそうになっているので危ない。


「・・・・やっと大人しくなりましたね・・・。さ、体を洗ってあげます。」


「・・・・・・・・背中だけじゃなかったんですか?」


 メイドはにこりと笑い、少年に告げた。


「背中だけ洗っても面白くありませんよ。隅々まで洗ってあげます。そう、隅々までね・・・。」


「い、いやぁぁぁぁぁ!!」


 風呂場に絶叫がこだましたのであった・・・。

 風呂場でのいろいろ危なかった時間は終わり、少年は約束どおり、妹の部屋へと戻った。


「お兄ちゃん、やっと来てくれたんだね?」


 少年は首を傾げた。何かがおかしいと思ったのであるが・・・・目の前に居る妹はいつもと変わりがない。


「さ、早く教えてよ。」


「え・・・う、うん・・?」


 少年は潤んだ瞳を自分に向けてくる妹のもとへと向かった。机の隣に立ち(いつの間にかあった。)ノートを覗き込む。


「ええと、ここはね・・・・。こうやって・・・」


 妹は急に少年に体を引っ付けはじめた。既に風呂に入っていたので未だに体が温かい。


「えーと、それでね・・・。」


 しかし、そんなことにも気づいているのか居ないのか・・・・少年はさっさと妹に勉強を教えると・・・。


「鈴、そろそろ寝ることにするよ。じゃ、体に気をつけて寝てね?」


「え・・・ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!!」


 今度は妹が体を掴む前に出て行ってしまったのであった。残された妹は口を開けたままになっている。

 そして、少年は洋館の二階にある大きな部屋にやってきた。そこには、幽霊が一人でテレビを見ていた。


「お、時雨がようやく来たね・・・さ、寝る前にちょっと対策を立てておこうか・・・。」


 幽霊はテレビのスイッチを名残惜しそうに消して立ち上がった。


「ところで、一体全体何を対処しようって言うんですか?相手は満月さんのお姉さんでしょ?」


「そ、相手は化け物だけど・・・襲われて勝てないってわけじゃない。簡単なことさ・・・強くなればいいの。」


「・・・そんなんでいいんですか?」


 自信満々に頷く幽霊を見て少年は信頼してみることにした。


「さて、まずは・・・時雨の身体にくっ憑いて・・・・身体の基本能力を上げようかな・・・。」


 そういうと幽霊のようにあっさりと消え、時雨の体支配権を手に入れたのであった。悪戯し放題である。


「さ、行こうか・・・・。」


 まじめな顔した少年が言うと、今度は焦ったような顔になった。


「ど、何処へですか?」


「勿論、姉さんのところだよ。なぁに、練習ぐらいなら手伝ってくれるさ。」


 ケラケラ笑った後、少年の顔は今度はげんなりとした表情となった。


「大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫。逃げようと思えば逃げれるし・・・・駄目だと思ったら脱出・・・じゃなかった、私が身を盾にして守るから。」


「い、今・・・違うこといいませんでした?」


 そんなことを一見すると一人で言いながら少年は洋館から何処かに向かったのであった。

 公園には、一人の美少女が砂場で何かをやっている。


「・・・・・来たわね、天道時君に満月。」


 少年はそれには答えず、左腕に握っている木刀を振り上げた。


「挨拶も抜きかしら?ま、いいですけどね・・・。」


 風を撫でる様な手つきで『紅陽の姫君』こと、リベナ・トロワドは投げナイフを飛ばしたのであった・・・。


「・・・・。」


 それを少年は何かに操れるかのようにすべて避けたのであった。


「へぇ、一度戦っただけなのにここまで見切るなんて・・・いい体ですわね。」


 そういいながらも姫君はナイフをまるでダーツのように相手に投げる。その数は先ほどより格段に増えていたのであった。しかし、そのナイフもすべてよけてしまう少年。


「・・・そろそろ、物量に限りがきてしまいましたわ。それでは、今宵のダンスレッスンはお開きですわね。ごきげんよう、お二人方。」


 最後にお買い得版といった感じで持っている全てのナイフを少年に投げつけると、あっさりと姫君は姿を消してしまった。


「・・・・。」


 右に左に・・・時には木刀で防いだりして、少年は何とかナイフの雨をしのいだのであった。


「はぁ・・はぁ・・・。」


 さすがに体力の限界が来たのか少年はその場にへたり込んだのであった。その体からはなんだか変な煙が出ている。


「ま、初日はこんなもんでしょ。時雨、今度からは気合入れていかないといけないよ。なぁに、色々役に立つと思うから・・・ね?ガンバロ?」


 笑顔で少年に語りかける幽霊を見て少年は自分の運命はどうなる予定なのだろうと誰かに聞きたくなったが・・・・とりあえず、明日に備えてさっさと寝たほうがよさそうだと思ったが、先程の訓練で大量の汗が出ていることに気づき、家に帰って湯船につかることにしたのだが・・・・この後も、少年は色々と大変な目にあったのであった。

 少年は、その日の夜・・・・夢の中でメイドに虐められた夢を見たらしい。


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