鎌
十二、
その日の夕食時・・・妹は少年に尋ねた。
「兄貴、彼女居ない?」
「ははっ、何言ってんだよ・・・小さいころから女の子に縁のなかった僕にいまさら出来るわけないだろう・・・。」
「でも、色々女の子と知り合いになってない?」
妹は右手で人数を数えていたりする。しかし、少年が数えても少ない。
「そうだなぁ、鈴、満月さん、美奈さん、今日友達になった不和さんだけだな・・・。」
少年は数えていて悲しくなったのか涙を流していた。因みに、もっと詳しく言うのなら少年の母親、少年の祖母・・・・等が入る。
「ま、時雨もなんだか変なのに気に入られるようになってるし・・・。」
幽霊はそういうと味噌汁をずるずるすする。その様子を横目で見ながら時雨は誰かを忘れているような気がしたのだが・・・・気のせいだろうと思って考えるのをやめた。
「時雨様、お手紙が来てましたよ。」
そういってメイドは少年のもとにやってきた。少年は礼を言ってそれを受け取る。
「兄貴、誰から?」
差出人不明の手紙を眺めながら少年は首をかしげる。
「さぁ?わかんないよ。ちょっと、中でも見てみるかな・・・。」
少年はそういって中身を眺めた。しかし、中には小さな紙切れが入っているだけであった。
「・・・。
「嫌がらせでしょうか?時雨様、燃やしておきましょうか?」
そういってマッチを持ってくるメイドを押しとどめ・・・・もう一度手紙の中を見てみると、今度はきちんと手紙が入っていた。
「あ、入ってたよ。」
「全く、時雨はやっぱり天然だな。」
少年は気にせずに手紙の内容を確認しようとする。妹とメイドもそれを何とかしてみようと試みた。
『本日の午後七時十七分、屍公園のブランコにて待つ。』
屍公園とは少年が初めて幽霊の姿を見たところでもある。少年はさっさと手紙を閉じてその場から姿を消した。何故なら、約束の時間まであと、三分だったからである。
「兄貴!どうかしたの!」
「時雨様!お行儀悪いですよ!」
「ごめん、ちょっと行ってくるよ。」
出て行った少年を追いかけて二人もその場を後にした。残ったのは幽霊だけであったが・・・・その幽霊も
「あの筆跡・・・まさか、姉さんが・・・。」
と、意味ありげな独り言を残して姿を消した。
そして、公園に少年はやってきた。空には月が輝いている。と、ブランコに人影があった。
その人影は少年に気づくと、優雅に立ち上がって近付いてきた。
「・・・お久しぶりです、天道時さん。」
「え、あ・・・初めまして・・・・。」
深紅のドレスをまとったお嬢様のような感じの美少女がそこに居た。しかし、少年の挨拶に対して少々、眉を上げる。
「この前もお会いしましたわよ。」
「え、そうですか・・・?初対面だと思いますけど?」
「・・・・まぁ、いいですわ。ところで天道時君、少々、面白い世界に連れてってあげますよ・・・・。」
少年が首を傾げている間に、美少女は右腕を天空に突き上げたのであった・・・・。
「・・・・あれ?」
少年が気がつくと、そこはただ、何もない空間であった。
「驚きました?ここはですね・・・決闘の間なのですよ。・・・貴方に怨みはありませんが、貴方が『満月の騎士』であるのなら致し方ありません。」
どこから出したのか知らないが・・・・両腕には投げナイフが握られていた。
「え、ええぇ!!ちょっとまったぁ!!」
「待ったなしです!!」
投げナイフが的確に少年の急所をめがけて飛んでくる。そのとき、少年は相手がプロだと気がついたのであった。そして、自分の短かった人生を振り返ろうとしたのだが・・・・。
「時雨、そんな程度じゃ・・・殺されちゃうよ!!」
そのナイフを木刀で食い止めながら幽霊が現れた。少年は尻餅をついてそれを眺めている。
「ま、満月さん!助けに来てくれたんですか?」
「・・・いや、はっきり言って犬死しに来たのかも・・・ま、相手が相手だからねぇ。時雨、話してあげるって言ったよね、何で私が騎士と名乗っている癖して、木刀に憑いているのか・・・。」
「ええ、この前言ってましたね?何でですか?」
幽霊はそれには答えず、相手を睨みつけている。その横顔は普段の彼女のようにのべーっとしておらず、真剣そのものであった。
「私はね、刀で止めを刺されたんだよ・・・・あの女によってね・・・・しかも、成仏できないようにこんなのにいれられちゃったんだ。ま、今はどうでもいいけど・・とりあえず説明しておくけど、あれは私の姉さんなんだ。」
「え・・・似てないですね?」
「大きなお世話だ。ま、私の対極に位置している存在で・・・・『紅陽の姫君』と呼ばれてたんだ。」
「へぇ、可憐な名前ですね・・・。」
ぼさぁっとしている少年にやれやれといいながら投げナイフの刺さった木刀を幽霊は手渡す。
「・・・姫君といいながら、実力は私より上なんだ。いやぁ、生きてた頃は一度も勝てなかったなぁ。」
「さ、そろそろおしゃべりはそこまででいいでしょう。天道時さん、覚悟してもらいますよ。」
どこから出したのかさっぱり分からないが姫君とやらは再び、投げナイフを取り出した。
「いくよ、時雨!」
「え、ええ!分かりました!!」
飛んできたナイフを何とか凌いで少年は木刀を振りかざした。幽霊の姿はなく、少年の顔は真剣に染まっている・・・・。
「ぶっちゃけ、勝負を挑んでも無駄だ。勝てる確率は時雨に彼女ができるぐらいありえない!逃げ道を探すんだ!!」
「分かりました!!」
時たま飛んでくるナイフを木刀で叩き落すという、卓越した技術で少年と幽霊は逃げ道を探した。
「ほらほら、早く何とかしないと・・・・お団子になりますよ?」
ミニゲームのレベル二と言ったところだろうか・・・・投げナイフの数が倍になった。それでも、少年に憑いた幽霊はそれを全て叩き落す。
「時雨!この亀裂に思いっきり木刀を叩き落して!!」
「分かりました!!」
飛んできたナイフを避けながら・・・何とか少年は言われたとおりにことを進めることに成功した。
そして、何もなかったところには公園が現れていた。
「・・・・・姉さんは逃げた。」
「はぁ、たすかったぁ・・・。一体、あの人は何がしたかったんですか?」
その質問に何かを考えようとしている幽霊だったが・・・。
「さぁ?あの人昔から何考えているかよくわからないところがあったからねぇ。ちょっと、わかんないな・・・。」
いつもの幽霊に戻っており、少年は少年でいつものまんまであった。
「とりあえず、相手を倒すように訓練しなくちゃね。せめて、時雨だけでも飛び道具に対処できないと・・・。」
「無理でしょ!!あんなの出来ませんよ。」
「いや、出来るようにしないと危ない!それに、野球でもボールを打てるようになるぞ!」
「え、本当ですか!」
幽霊にそういわれ、少年は嬉しそうに飛び上がった。因みに、少年は今までヒットも打ったことがないのだ。と、そんな二人を影から見ている人物が居た。
「さて、天道時さんの力を見せてもらったけど・・・・ま、合格ってところかな・・・。彼の母親にも言われているし・・・・先が楽しみってところですわね。」
さぁて、そろそろ話に色々と工夫をしていこうかなぁと思っている雨月です。いやぁ、いつもならやっている十回記念も出来ずじまい・・・どうしたものでしょうか。作者は気分的に落ち込み加減ですが、これからもヨロシクお願いしますね?たまに、感想をいただけると嬉しいでげす(!?)