蹴
十、
昔々、あるところに天道時 時雨という弱冠三歳の少年がいました。ある日、少年は彼のおばあさんと一緒に住んでいる家の近くにある神社の中に入りましたとさ。
祖母は少年をその場に残して掃除道具を取りに行きました。少年は暇だったので辺りを色々物色し、何か面白いものがないか探していました。そこへ、少年の祖父がやってきました。
「時雨や、何を探しているのかね?」
「えーっとね、ここはかなり珍しい場所だって聞いたから何か面白いものがないか探してるんだよ。おじいちゃん、何か知らない?」
祖父はうんうんと頷いてから言いました。
「この子はもしかしたらトレジャーハンターになるかもしれん。時雨や、実はここには神様が祭ってあるんだよ。ほら、あの中にあるからな。」
祖父はそういってその場を去りました。何故なら、外から誰かに呼ばれたからです。少年は神様が祭ってあるといわれたところの扉を開けました。
そこには、西洋の人形が狐のお面をつけて座ってこっちを見ていました。
少年はその人形に近付いていき、お面をはずしてみようと思いましたが・・・・はずすことが出来ませんでした。不思議に思いながらも少年はそのお人形に話しかけました。
「・・・・君は誰?」
「・・・・。」
まぁ、人形だったので喋りませんでした。いつの間にか扉は閉まっており、部屋の中が暗くなっているような感じがしましたが・・・・少年はそのままそこでお人形と遊んでいました。
少年はまだ、知りませんでした。そのお人形のお面が外れたらどうなるかを・・・。
祖父の昔話を聞いて少年は背筋がぞっとしていた。
「・・・それ、本当?」
「本当本当。なぁに、ばあさんから聞いたと思うが、彼女が出来なくなるだけじゃ。そのこと自体には問題はない。」
少年はけらけら笑う祖父を眺めてため息をついた。そして、質問してみた。
「おじいちゃん、もしも・・・そのお面が外れたらどうなるの?」
「そうじゃなぁ、何か面白いことが起きるんじゃないか?なんせ、誰がはずそうとしてもそのお面はかわらんからのう。しかし、噂ではたまに変わるらしいのじゃよ。」
ちっとも真剣そうな顔になっていない祖父を見て少年はため息をついた。そして、そろそろ学校が始まる時間帯だと気づく。
「時雨、最後に言っておくがな・・・あの後、お前さんをとあるところに連れて行ったのじゃ。そこではな、お前にもきちんと恋ができるような処置をしてもらった。なぁに、大丈夫。元気を出して行って来い!」
がはははと笑いながら祖父は姿を消した。例により、フェンスを軽々と飛び越え、何処かに消えてしまったのである。
「・・・・なんだかなぁ。」
少年は屋上の扉を開けて校内へと戻り、階段を下りた。しかし、少年の前に広がるのはエンドレスに広がっている廊下であった。その廊下には人っ子一人、いない。
「・・・・・ああ、成る程・・・だから二人ともフェンスを飛び越えたのか!!」
少年は何か変な納得をして、血相を変えて屋上に逃げ出そうとしたのだが・・・振り向いたほうもいつの間にかエンドレス・廊下であった。さて、打つ手のなくなった少年に残された一つの手段、それは助けを求めることだけであった。
「助けてぇ!!廊下で遭難した!!」
しかし、声は響くのだが・・・助けてくれる人間が一人もいないので意味がない。まぁ、そんな彼を助けてくれそうな幽霊はいつの間にか天井から姿を現した。
「やぁ、時雨・・・こんなところにいたのか。」
「ま、満月さん!!助けに来てくれたんですね?」
「いいや、私も迷子。時雨の匂いをたどっていってたら・・・。」
「貴女は犬ですか!!」
「こんなところについちゃった!!」
片手で拳骨を作って自分の頭を叩いた幽霊は言った。その頭からは寝癖のような髪の毛が立っている。
「・・・・時雨、なんだかここ、変じゃないか?」
「見れば誰でもわかりますよ。」
「私はてっきり時雨の高校は世界一の廊下の長さを持つ高校だと思ったのだが・・・ほら、あれ。」
幽霊が長いひらひらスカートをひらひらさせながら廊下の奥のほうを指差した。そこには、なにやら真っ黒な人型の化け物らしきものがこっちによって来ている。身長が変わったりしており、あっちの景色が見えているので水分の割合が結構多いのかもしれない。まさに、透けるような肌である。
「・・・・ついでに言うと、ほら、窓の外・・・。」
青空だったはずの外の景色は真っ黒になっており、満月が蒼く輝いているように見えた。そして、何かが空を飛んでいる。UFOっぽい。
「・・・ここ、何処?学校?」
「さぁ?私は学校だと思うけど・・・。それより、何とかしないとやばいんじゃない?」
先程の軟体生物たちは少年たちに着実に近付いていた。スピード的には遅い。
少年と幽霊は反対側の廊下へと逃避行を始めた。
「時雨、なんだか追っ手に追われている恋人みたいだね?」
「満月さん、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
少年の肩に乗って囁いている幽霊は何処か楽しそうであった。少年の顔は真っ青だ。
「なんか方法はないんですか!」
幽霊は少しばかり唸ってぽんと手のひらを叩いた。
「時雨、次のうちから選んでね?一、白旗を揚げる。二、窓から飛び降りる。最後・・・。」
「最後?何です?」
「抵抗してみる!!」
幽霊はそういってどこからか木刀を出した。それは、家においてあるはずの木刀であった。
「な、何故に?」
「ほら、いくよっ!!」
少年に無理やり木刀を握らせ・・・・少年は前に進んでいる足をとめた。
「さ、時雨・・・『満月の騎士』の力を見せてあげようよ。」
立ち止まった少年の右肩で幽霊は言った。少年は頷きながらも連載当初からの疑問を口に出す。
「・・・満月さん、なんで騎士なのに木刀なんですか?」
「生きて帰ってきたら教えてあげるよ。時雨、ガンバ!!」
幽霊はにこりと微笑んで少年の後ろを押した。幽霊なのにいろいろできるのは不思議だ。てか、幽霊は既に幽霊じゃないだろうに・・・。
「こうなったらやけじゃー!!」
少年は木刀を左手に持って(言い忘れていたが少年は左利きである)なきながら人型軟体生物の群れに突っ込んでいった。やってきた少年に人型軟体生物たちは襲い掛かるが・・・どれも少年になぎ払われて霧散した。少年のはるか後方、幽霊は茶色の眼鏡を取り出してそれをはめて眺めていた。
「ははは、最高のショーだとは思わんかね?」
誰に問いかけるでもなく、そういって少年の巧みな剣技(実際はただ振り回しているだけ。)にうむうむと首を縦に動かしていた。
「うむ、やはり素質があるな・・・。」
「ぎゃー、こんな軟体生物と遊んでいたらトラウマになりそー!!」
少年が最後の一体を切り裂くと・・・・そこには黒いフリフリのドレスを着た西洋人形が座っていた。ただ・・・おかしいところは申のお面をかぶっているところである。
「・・・・・。」
その人形は音も立てずに姿を消した。
「・・・・にゃるほど、あれが近頃噂のゴスロリ衣装か・・・私もたまにはあんなの着てみようかな・・・。」
幽霊はフリフリの真っ白のドレスをつかんでみた。
「そんなことより、あれ、何か知ってるんですか?」
祖母と祖父から聞いた昔話を思い出して少年は少しばかり、震えていた。何故なら、自分の将来の奥さんがあれかもしれないからである。
「ま、気にしない気にしない・・・ほら、そろそろ・・・・力が抜けて立っていられなくなるよ?私がきちんと力を貸してなかったからねぇ・・・。」
言われたとおり、少年はその場にしりもちをついた。
「・・平和な世界は何処に消えたんだろう・・・。」
少年はいつの間にか屋上に戻っており、近くには幽霊が座ってそれを眺めていた。
「さぁね、でも・・・面白いことがあってよかったね、時雨。」