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後日談 後編


 「ココアケーキ屋だぞ! ラーメン津森だ! この馬鹿モンブランといい、喪服ワンピのクソガキといい、舐めやがって」

 

 副店長が腕組しながら女性客を睨み付ける。黄金髪の女性は白々しく黄色い声を出す。知努が呆れた表情を浮かべ、トリュフチョコレートを取りに行く。


 彼はケーキとチョコレートを食べ終えた双子へ、オランウータンの活躍を聞かせる。雪道を四輪駆動車で走行し、多くの貧しい子供達にトリュフチョコレートを届けていた。


 「イヌはどうしてチョコを皆に届けないの?」


 女児、マリスが予想外の質問をする。知努はチョコレートの製造を行う人間を物語へ付け加えた。彼がオランウータンに運んで貰うトリュフチョコレートを作る。


 その後、ミヒェルは今朝の出来事を話した。自宅のリビングで家族とアニメ映画を観ているようだ。5歳児達が協力してバスを運転し、敵の車両から逃げる場面を好んでいた。


 「〇んちゃんが階段上がるシーンでママ泣いてた。変なの」


 「皆の未来を守ろうとする〇んちゃんに感動したんだよ、きっと」


 慈染も最近、母親と一緒に同じアニメ映画を観ている。劇中車の名称を仕事帰りの父親へ訊き、車の知識を高めた。オランウータンのぬいぐるみは、有名な車種の特製模型を所有している。


 黄金髪の女性が展示物を撮影した。クリスマスシーズンの展示と比較し、内容の物足りなさを感じる。彼女は知努の思惑を邪推し、鎌を掛けた。


 「クリスマスシーズンの〇クラス擬きと、〇ーゲンバス擬きの展示は良かったわね?」


 「〇ンターと食パンは他の客からも好評だったよ。バレンタインシーズンは最終日だけ〇ンチネンタルの展示に替わるからね」


 彼がバレンタインデーの展示品を説明する。過去のアメリカ大統領の専用車として有名な車種だ。彼女は来店出来ない為、SNSの投稿でその展示を楽しむ。


 夕食の支度をしなければならない黄金髪の女性が双子に帰宅を促す。知努は1人ずつ抱っこし、床へ降ろした。ミヒェルに目尻を触られ、彼の化粧が少し崩れる。


 黄金髪親子は挨拶して、店を出た。女子高校生らしき客達が席を立ち、知努へホワイトデーシーズンのイベント予定を尋ねる。彼は副店長から来店客にクッキーを渡す内容を教えた。彼女のファン達がこれを期待している。


 女子高校生らしき客達も退店した。喫茶スペースの清掃を終え、夏鈴と知努は作業場で軽食を取る。バスケットへ入ったBLTサンドだ。彼女がホワイトデーシーズンの展示模型を訊く。


 「4日から13日まで〇ビック・カントリー、最終日は白い〇650ランドレー」


 「最終日だけ成人の日並に豪華だな。ボクも頑張らないといけない」


 2人は食事の後、誕生日ケーキを取りに来た客や、持ち帰り客の応対をする。冷蔵ショーケースの在庫が2つのプリンアラモードと1ピースのショートケーキだけとなった。


 閉店間際、知努は冷蔵ショーケースの商品を全て取り出す。その直後、店の扉が開く。白いポロシャツを着て、白のボーダー入りの黒いハーフパンツを穿いていた女性客、久遠だ。


 彼は冷めた視線を向ける彼女の元へ近付き、本日の営業終了を告げた。久遠が知努の背後に回り込み、飛び付いて両脚で背中を挟む。後ろへ倒れながら右腕を彼の首に巻き付け、右手首を左腕で挟み締め上げる。


 「あぱ、あぱ」


 裸締めを受けていた知努は間抜けな声を出す。気道を圧迫されながら彼女の両腕を掴む。久遠はSNS、『LIFE』のメッセージを半日以上見ていない彼を責める。


 スマートフォンを持つ夏鈴が、売り場へ現れ、2人の様子を撮影した。想定外の妨害を受け、久遠の視線は泳ぐ。四肢を解き、彼女が立ち上がって苦し紛れの言い訳をする。


 「水泳の練習ゥ」


 「な訳()ぇだろ」


 夏鈴は眉を顰め、一蹴した。写真をポラロに投稿しない見返りとして、売れ残りのショートケーキと、プリンアラモードを買わせる。久遠がそっぽを向きながら代金を支払う。


 知努は商品を入れた包装箱と、トリュフチョコレートの袋を渡す。彼女が中指を立て、受け取る。彼は苦笑しつつ謝罪した。


 「顔切り刻んで魚の餌にしちまうぞ、この野郎」


 久遠が知努を脅迫し、喫茶スペースの展示を覗きに行く。オランウータンのぬいぐるみをキャンプ場で若い女性へ迷惑行為を行う中年男性に見立てる。知努は無知を装い、迷惑行為の内容を訊く。


 「勝手に女性のテントを開けたりとか、3000円でホテル行きませんかって誘ってきたりとか」


 「行動力だけはある中年だな。アパアパは人気者だから大丈Vでしょう!」


 彼が腕を突き出し、人差し指と中指を立てる。彼女の横へ行き、四輪駆動車の説明をした。半世紀以上前、警察予備隊の車両として制式採用されている。久遠は全く表情を変えない。


 古臭い車種の趣味を罵り、彼女がようやく退店する。店内の片付けを済ませた後、知努と夏鈴は売り場で記念撮影を行う。彼女がすぐその写真をポラロに投稿した。



 22時過ぎ、子供を寝かし付け、一児の父親は寝室を出てリビングへ行く。左胸に木兎(ミミズク)の模様がある白いパジャマを着ていた。勤務中の化粧は落としている。


 彼がリビングの扉を開け、入室した。彼の妻が茶色のカーペットへ座り、テレビのニュース番組を観ている。ショッピングモールの礼拝室に侵入し、男女の未成年達は性行為や楽物過剰摂取を行ったようだ。


 その結果、16歳の少女2人が死亡した。記者からの取材を受けている男性イスラム教徒は、この事件をヘイトクライムと呼んだ。SNS上の強い外国人差別の風潮も報じた。


 「アパチャナならトイレで足洗っている〇人見つけたらタイキックしそう」


 彼女、染子が膝へ置いているぬいぐるみの頭頂部を眺めながら呟く。オランウータン、アパアパは白い褌しか締めておらず、賭場で有り金を全て失った人間のようだ。


 染子の配偶者が正しい知識を伝えた。小浄スペースは礼拝室の中に備え付けられている。大半の日本人が、トイレの手洗い場で足を洗う外国人を注意しない。SNSで彼らの悪口を投稿するだけだ。


 しかし、一部の危険な人間は存在していた。歪な正義感を振り(かざ)し、迷惑な外国人へ暴力を振るう。知努は無視する側の人間だった。流し台に痰を吐く中年男性の光景で慣れている。


 「こっちのショッピングモールは永遠に礼拝室も、小浄スペースも出来ないな」


 東南アジア人とクルド人の車両窃盗事件の発生で、地域住民の外国人排斥感情が高まっていた。導入される場合、数人は、礼拝室の扉へ豚や犬の落書きをしたり、小浄スペースに小便をしたりなどするだろう。


 彼女がリモコンの電源ボタンを押す。そして、ケーキ屋のトリュフチョコレート無料配布イベントを非難する。貰った人間はSNSへその報告をしているようだ。まだ染子が貰えていない。


 「14日にもっと良いチョコを渡すから我慢して欲しいアパ」


 「自認〇ゼに鼻の下伸ばしてチョコ渡しやがって」


 彼は捏造されたやり取りを否定する。今日の彼女が、狩猟本能を刺激された猫のような振る舞いしか見せていない。締め技を受け、暴言を浴びせられた。


 頑なに知努の発言を信じない染子は、オランウータンのイメージダウンを企てる。特別装甲車の模型へぬいぐるみを乗せた画像をSNSに投稿し、移民排斥思想の象徴へ仕立て上げるようだ。


 「染子ちゃんは天王寺動物公園で学んだ事をすっかり忘れてしまっているアパ」


 彼女が両耳を塞ぎ、嫌味を聞き流す。彼は日々、大事な老犬や老猫との別れを覚悟しながら過ごしている心情を明かした。久遠に下心を抱く余裕が無い。


 「秋田犬や白猫の余命が短い中、どこかのジジイはまだボケずに元気だから皮肉なものね」


 「曽孫(ひまご)が20歳になっても免許返納する気無いぞ、あの後期高齢者」


 知努の祖父は過去30年以上、所有する国産SUVを巡り、様々な車両窃盗団との防衛戦を繰り広げていた。染子が車両窃盗関連の凶悪事件を話題へ出す。


 昨年の秋、重機を使う外国人車両窃盗団は台頭する。彼らが特定メーカーの車種ばかり狙っていた。警察は彼らの犯罪行為を取り締まらず、近隣の盗難被害を拡大させる。


 平日の深夜、車両窃盗団が知努の祖父母宅に向かった。しかし、その道中、1人の男は彼らのフォークグラブ搭載油圧ショベルカーを強奪し、今世紀最悪のヘイトクライムを起こす。


 「もう良いだろ、その話。表向き、解体業者の事故って事になってんだから」


 事件当時、染子が野次馬を装い、車両窃盗団と重機泥棒の凄惨な争いを見物していた。外国人犯罪者達の解体される様を楽しむ。機動隊の出動で、野次馬達は退散する。


 重機泥棒が虐殺の後、手錠を掛けられ、護送車に連行された。老人の国産SUVは多くの車両窃盗犯達へ恐怖を植え付ける。その日を境に、知努の祖父母宅周辺が警察の厳重警戒区域となった。


 「己の欲せざる所は、人に施すこと(なか)れ」


 彼は非人道的行為を体裁の良い言葉で取り繕う。染子が意味を理解していないまま、頷く。知努の追及を避ける為、間髪入れずアパアパの愛車の種類を訊いた。すぐ彼がその意図を見抜き、言葉の意味を教える。


 「知ってんだよォォォ! 国語の教師か? オメーはよォォォ!」


 染子は神経を逆撫でされ、声を荒げた。そして、明日の朝食を知努だけ1本のバナナしか用意しないと告げる。彼が情けない悲鳴を上げ、許しを請う。昼間のジュース製作で冷蔵庫のバナナを使い切っている事実を彼女はすっかり忘れていた。


 

 用語の解説を入れておきます。

 〇ココアケーキ屋だぞ! ラーメン津森だ!

  映画「ターミネーター2」の空耳、「ココア病院だぞ! ラーメン津森だ!』のパロディです。

 〇ミヒェルが話していたアニメ映画

  映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の事です。

  染子も黄金髪の女性ユーディットと同じく、ジャガイモ小僧(野原しんのすけ)の名場面で泣いています。

 〇劇中車

  ×ヨタ 2000GT、〇ツダ 〇スモスポーツ、〇バル 360です。

 〇×クラス擬き

  ×ズ ×ンター、ロシアの〇ィフェンダーに喩えられるSUVです。軍用車のような武骨なデザインが愛好家の心を射止めています。ドアガラスの開閉は手回し式です。

  クリスマスシーズンにサンタクロースの仮装をした、アパアパはこの模型の傍で展示されました。

 〇×ーゲンバス擬き、食パン

  ×ズ 2206の事です。ソヴィエト連邦時代からデザインの変更が行われていません。

  形状から食パンの愛称を持ちます。キャンプ場で駐車すれば、一際目立ちます。

  クリスマスシーズンに、ギズモのぬいぐるみがアパアパと同じく、この模型の傍で展示されていました。

 〇ギズモのぬいぐるみ

  映画「グレムリン」のキャラクター、ギズモ(種族名 モグワイ)のぬいぐるみです。

 一昨年のクリスマスシーズンにアパアパより客の人気を集めました。

  昨年のクリスマスシーズンも、液体窒素噴射器を背負う、サンタクロース衣装のアパアパと共に展示されました。

 〇×ンチネンタル

  ×ンカーン 4台目×ンチネンタルの事です。映画「マトリックス」の劇中者としても有名です。

 〇×ビック カントリー

  「チェンソーマン」の早川アキが乗っている車です。チェンソーマンファンを呼び込む目的でこの模型を展示します。

 〇×650ランドレー

  世界に99台しか無い限定仕様の〇レンデです。後部座席だけソフトトップの構造がランドレーです。久遠に脅迫されて、展示します。

 〇久遠の裸締め(チョークスリーパー)

  「チェンソーマン」のレゼを真似ています。知努はわざと受けています。

 〇水泳の練習ゥ

  淫夢語録の一種です。何かを誤魔化す時に使います。

 〇顔切り刻んで魚の餌にしちまうぞ、この野郎

  映画「アウトレイジ 最終章」の大友の台詞です。

 〇3000円でホテル

  元ネタは、朝の〇成で目撃したホームレス中年です。財布から3000円を出して、通行人の中年女性をホテルに誘っていました。

 〇大丈Vでしょう

  「アリナミンV」のCMが元ネタです。「チェンソーマン」のデンジ君もこれを真似ていました。

 〇木兎の模様

  映画「国宝」の立花喜久雄(通称、キク坊)が背中に入れている刺青が元ネタです。

 〇アパアパの白い褌

  建国記念の日に相応しい格好として、染子が穿かせています。アパアパの写真をSNSへ投稿し、「変態糞親父」の蔑称を付けられました。

 〇豚や犬の落書き

  イスラム教の教義では豚や犬を穢れた存在として扱っています。 

 〇特別機動車両

  「西部警察」の特車、サファリの事です。高圧放水銃や散水銃を装備しており、強力な車両です。

 〇天王寺動物公園で学んだ事

  プロパガンダに2度と動物を利用しない事です。

 〇老いた秋田犬

  ユーディットの実家で飼育されている赤虎の秋田犬、クーちゃんの事です。散歩する元気すらもうありません。

 〇老いた老猫

  知努の元カノ宅で飼育している雑種の白猫、カナコとヨリコの事です。布団の中で過ごす時間が多いです。

 〇知努の祖父

  三中一族で最も謎の多い人物です。趣味は読書と映画鑑賞、車の模型作りです。

 〇国産SUV

  ×トタ 〇ンド・クルーザー70セミロングバンタイプZXです。盗難被害数が他の車種より圧倒的に多いです。

 〇アパアパの愛車

  父の日の展示予定内容の事です。知努は6月まで染子に教えないつもりです。

  ×ヨタ 〇ランナー・〇レイルハンターの特製模型を父の日にケーキ屋で展示する予定です。

 〇知ってんだよォォォ! 国語の教師か? オメーはよォォォ!

  「ジョジョの奇妙な冒険 第5部黄金の風」の登場人物、セッコの台詞を引用しています。



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 若者の暴走が許される風潮を持つ成人の日に、霊柩車を盗む恥知らずがいたら面白そうだという思い付きで、この短編を書きました。主人公は物語を大きく動かすトラブルメーカーの男にしました。

 「後編(派手な救出)」のガソリンスタンド爆発は、ハリウッド映画のようだと書いていて感じました。霊柩車泥棒達の存在が、数日で人々の記憶から忘れられる末路を正史に選んでいます。

 王道の展開の為、色んな方が楽しめる内容だと思っています。多くの人に読んで貰えたら幸いです。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。しばらく、連載中の長編執筆に専念する予定です。

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