後編(派手な救出)
黒いヘルメットを被り、斜め掛けボタンのライダースジャケットに着替えている知努が、黒のクルーザーバイクに乗って誘拐犯達を追う。手製オープンカーへ乗り、騒ぐ20歳の若者達の姿を何度も車道で目撃した。
彼らは承認要求を満たしている。一方、式典後の同窓会で一部の男が同級生の女を連れて闇の中に消え、性欲を満たす。誘拐犯達は彼らと違い、行為の代償を支払わされる。
バイクの後部へ、櫻晴用ヘルメットをチェーンタイプヘルメットロックで取り付けていた。必ず少年を連れて帰らなければならない。
『兄様、オパールを乗せた車は近くの高速に入っていますわ』
彼が耳に無線イヤフォンを装着していた。櫻晴の現在位置は、紛失防止タグの位置情報を調べ、把握出来る。彼のペンダントの裏へ付けていた。
店内の巡は夏鈴のスマートフォンを使い、通話で知努に現在位置を教える。あおり運転が横行していた高速道路を走行しなければならない。彼は誘拐犯達の正気を疑った。
高速道路を走行中、原付の運転手が車線の中央を陣取って周りを威嚇している。後部へピンク髪の女子を乗せていた。彼は右側から追い越そうとして、運転手にバイクの燃料タンクを蹴られる。
「誰のバイク蹴ってんだ、おぉ?」
知努が身を乗り出し右拳で男の顎を殴った。運転手はハンドルを左に切り、防音壁へ衝突する。同乗者の女子が投げ出され、宙を舞う。そして、勢い良く反対側のガードレールの上に落下する。
『兄様、もしかしてあおり運転を退治しました?』
「いや、勝手に自損事故起こしたぞ、あいつ」
彼は走行車線へ戻った。巡が誘拐犯達に与える処遇内容を訊く。夏鈴は彼らの更生より死を望んでいた。しかし、知努の手で殺めれば、誘拐犯達をSNSの一部利用者が擁護してしまう。普段は真面目な子など根拠の無い妄想を抱く。
「それはオパールを取り戻してから考えるつもりだ」
5キロ程進み、派手な羽織袴姿の男達が乗る黒い国産高級乗用車、『〇ラウン』と遭遇した。屋根を切除しており、車高も下げている。彼らは車線を何度も変え、通行妨害をしていた。彼が追い越し車線へ変えて、車両の真横を走る。
「あおりは炒飯とイカで十分だ、この野郎」
運転手の顔に蹴りを放つ。スリップし、車両は走行車線の中央で停まった。そこへ白い国産高級SUV、『〇X270』が迫り、衝突する。知努は彼らに20歳を祝う言葉を送った。
『まさに高速強襲ですわ』
彼が無人料金所で支払いを行い、通過する。隣のレーンの閉開バーは破壊されていた。パトカーの出動が時間の問題だ。知努は櫻晴の無事を願った。
数分後、多重事故の発生で前方の車線が塞がれている。復旧を待つ余裕は無かった。ちょうど停車中のキャリアカーのスライド式荷台が下がっている。彼はアクセルを回し、荷台を登り跳んだ。
弧を描きながら降下し、後輪で着地する。その強い衝撃を受け、知努が顔を顰めた。彼の身を案じる久遠の声を聞く。彼女の不安を和らげる為、知努は虚勢を張った。
「身構えている時には、死神は来ないものだ」
約2キロ先の追い越し車線で、黒の長い車体のオープンカーを見つける。後部の数人が側面へ凭れ掛かり座っていた。運転席と助手席しか無い構造は霊柩車と似ている。彼がその車と並走した。
櫻晴を乗せており、誘拐犯の車両を特定する。追手に気付き、ダウンジャケットの男達は立ち上がった。1人が拳を振り被る。知努は右腕を曲げ防御し、鳩尾へジャブを入れた
腹部を押さえながら男が倒れる。運転手の男は追手の殺害を命じた。知努が後部ドアを足で押さえながら片手を構える。身を横へ逸らし男の蹴りを避けた。背中に右フックを打ち、床へ倒す。
「おい、アップにもなんねぇぞ。金も無けりゃ根性も無ぇな?」
煽られ、2人の男は彼の首に回し蹴りを放つ。それを知努が背中を後ろに逸らし避けた。男達が膝同士を強打し、蹲る。残り1人の男はポケットからナイフを出し、櫻晴の顔へ振った。
「情報ってのは大事な切り札だ。勝ちたきゃ敵より先にめくっちゃいけない」
少年の両腕は鉄の腕輪を露わにしており、刃を片腕で受け止める。反対の腕を外側へ振り、ナイフを飛ばす。そして、唖然としていた男の股間に前蹴りを入れ、悶絶させる。
「車で言えばどの位だ?」
車が分かれ道を曲がり、サービスエリアへ向かう。ジャージの女は助手席から現れ、知努の方に素早く掴み掛かる。他の男達より多少格闘技の心得があった。
「あん時は世話になったのう!」
彼は掴まれる寸前で人差し指と中指を彼女の瞼へ突き刺す。流血させ、叫びながら女が藻掻き苦しむ。運転手の髪を掴んで引っ張る。男が抵抗し、アクセルペダルを強く踏み加速させた。
サービスエリアへ侵入し、ガソリンスタンドの方角に進んでいる。知努はバイクの車体を傾け、右手を伸ばす。櫻晴は不安そうな表情で彼の方へ駆け寄る。
「マズイ! このままだとガソスタに突っ込むぞ! こっちに跳べ!」
「む、無理だよ! 怖くて跳べない」
「たった数センチだ。お前の人生はたった数センチで終わるのか?」
少年が首を横に振り、後ろへ下がって助走を付けた。ガソリンスタンドまで後20メートルの距離だ。櫻晴は意を決め、片足で車の縁を足場にして跳ぶ。場違いな掛け声を出していた。
「チャーハン!」
知努が落下する少年を腕の掴み、車体後部へ着地させる。櫻晴を座らせ、ハンドルを横に切りながら加速し旋回した。窃盗犯達の車両はガソリン計量器へ直撃し、大爆発を起こす。
他の計量器にも引火し、爆発が連鎖した。轟音を聞き付け、野次馬は施設の外へ出て来る。スマートフォンを向け、間抜けな若者達の火葬を撮影した。
「オパール救助完了だ。ついでに、霊柩車泥棒と誘拐犯の火葬も済ませた」
『副店長が喜びますわね。気を付けて帰って来て下さいまし』
巡との通話が終了する。駐輪場にバイクを停め、2人は降りた。櫻晴が燃えているガソリンスタンドを眺め、やり場の無い気持ちを抱く。失われた窃盗犯達の命は2度と戻って来ない。
「これで良いのかな。成果が被害に見合ってないような気もするよ」
「探偵や強盗みたいに隠密のやり方が良かったか? でも、どうなっていたか分からないぞ」
知努が苦笑しつつヘルメットを脱ぎ、ハンドルへ吊った。少年は頷き、空腹を訴える。長時間、座席の無い車内でいたせいか、体力を消耗しているようだ。
昼食を取り損ねているケーキ屋従業員も食堂を利用したかった。彼が食事を提案し、施設内の食堂に向かう。券売機で知努はきつねうどんの券を購入する。
櫻晴へ注文する料理を訊いた。彼がカツカレーを選んだ。両親から却下されそうな料理だった。口止めを約束させ、ケーキ従業員は料理の券を購入する。
しばらくし、知努がきつねうどんとカツカレーを載せたトレイを座席に運ぶ。着席し、合掌して食べ始める。休憩せず、走行した甲斐のある至福の時だ。
食事の後、2人はバイクへ乗って、サービスエリアを出る。パトカーや消防車がガソリンスタンド付近に集まっていた。数台の消防車は放水し、消火作業を行っている。
辺りがすっかり暗くなり、彼らがようやくケーキ屋の前に到着した。櫻晴は店内へ入り、母親の夏鈴と再会する。彼が霊柩車の乗車体験や、窃盗犯達の末路を話した。
知努も入店し、喫茶スペースに視線を向ける。客達が退店しており、静かな風景だ。彼は展示品のぬいぐるみ達へ労いの言葉を掛け、作業場に移動した。そして、閉店業務へ取り掛かる。
作中の登場人物や用語の解説を入れておきます。
〇紛失防止タグ
×irTagが元ネタです。最近、ストーカー被害の手口として用いられています。
〇黒い国産高級乗用車、〇ラウン
ヤンキーに人気な180型です。街中で見掛ける〇ラウンの運転手は、少し威圧的な格好をしています。
〇身構えている時には、死神は来ないものだ
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の有名な台詞を引用しています。
〇情報ってのは大事な切り札だ――
「龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii」のジェイソン・リッチの台詞を引用しています。
〇鉄の腕輪
上記登場人物の武器を参考にしています。櫻晴の武器解除術はオリジナルです。
〇車で言えばどの位だ?
ヒゲクマ調教師の台詞を引用しています。時速何キロで答えると怒られます。
〇あん時は世話になったのう!
「龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii」の真島吾郎の台詞を引用しています。
〇チャーハン!
映画「イレイザー」の主人公の台詞を引用しています。空耳で「じゃあな!」が「チャーハン!」に聞こえます。
〇探偵
八神探偵事務所の八神隆之の事です。「ロストジャッジメント」で潜入をさせられます。
〇強盗
「グランドセフトオートⅤ」のマイケル・デサンタの事です。
外史結末ですが、掲載しました。正史の知努は、櫻晴を極力危険に晒さない隠密救出を選びます。




