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遥かなる回想
夜の気流に、龍の翼が切り込みを入れていく。
「つつつ…」
擦り傷に、彼女の指が文字を描く。
「これは?」
「私の文字ですよ」
「わっ!足が輝いた」
光はすぐに収束し、痛みはあとから薄れる。
「私の絵はどうなちゃったのだろう」
失われたものは、時に描き直せる。私は長い時間を渡って、その反復を見てきた。
「私は思い出せるようです…!」
「どうしたんだよ急に」
「まさかまさかのカタカムナ、片平様が勝ったのです」
言葉が変わる。過去が口を開く。
「カタカムナ。あなたが昔過ごした縄文時代以前のことを思い出すのです」
「思い出せる…!」
笑い合い、名もない星の下で、遠い文明の記憶を積み上げる。確かにあった、と言える重みで。
「これはどういうことなんだ、龍体?」
「私たちの世界に戻ったのです…」
だが、痛みがこめかみをかすめ、記憶は砂のように指の間を落ちていく。
「これは…」
「カタカムナ、過去のことを思い出せますか?」
「いや、さっきまで覚えていたけど…」
「私もです。思い出せなくなってます」
「片平様…」
名前だけが、灯のように残った。




