拠点建設、その壮大な目標
グランパスは、アステルと共に書物店の奥にある簡素な部屋で、今後の戦略を練り始めた。卓上には埃を被った古地図が広げられ、老鑑定士の指がその上を滑る。
「さて、現状の把握はできた。君の能力は、良くも悪くも君を一人にしてはくれない。そして、私も含め、集まってくる強者たちも、ただの気まぐれで従っているわけではないのだ」 グランパスは眼鏡の奥で光る目をアステルに向けた。 「この力がある限り、君は否応なく強者たちを巻き込み、そして巻き込まれる。ならば、この力を無為にせず、有効に活用する道を模索すべきだ」
アステルは、自分にできることなどあるのかと不安を感じていた。 「でも、どうすれば……俺はスキルもないし、リーダー経験なんて……」 「だからこそ、私が必要なのだ。そして、集まってくる強者たちも、だ」 グランパスは地図の一点を指差した。「不安定な冒険者稼業を続けるのは愚策だ。いつまでもギルドの片隅で日銭を稼ぐような真似は、君の器にはそぐわない」
アステルは、自分の肩書きが「王の器」だと聞かされても、全く実感が湧かなかった。むしろ、その重みに押し潰されそうだった。 「じゃあ、俺たちはどうすれば……?」
グランパスは、老いた顔に微かな興奮を滲ませた。 「ふむ、これほど興味深い研究材料は久しぶりだ。いいか、アステル。君が成すべきは、**『強者が集まる安全な拠点』**を築くことだ。いずれは、そこが新たな街となるだろう」
「街を……ですか!?」 アステルは、その壮大な言葉に目を見開いた。スキル無し、元荷物持ちの自分が、街を作るなど、夢にも思わなかったことだ。
「そうだ。強者たちは、君の能力に惹かれて集まってくる。だが、彼らが安心して力を振るい、生活できる基盤がなければ、その力はただの衝突や混乱を生むだけだ。安定した場所、つまりは**『君を主と仰ぐ者たちの安息の地』**が必要となる」
グランパスは、言葉を続けた。 「そして、その拠点……新たな街を築く上で、何よりも優先すべきは**『食料』と『住まい』**の確保だ。飢えと風雨をしのげなければ、いかなる強者も力を発揮できぬ。我々がまず目指すべきは、安定した食料生産を可能にする人材、そして安全な建物を築ける人材の確保だ」
アステルは、その言葉にわずかな希望を見出した。自分一人では何もできない。しかし、もし本当に、自分の能力で「食料」と「住まい」を確保できるような、途方もない力を持った者が仲間になるのなら……。
不安はまだ消えない。だが、最底辺の自分にも、何か成すべきこと、そして成せる可能性があるのだとしたら。 アステルの瞳に、これまでの絶望とは異なる、静かな光が宿り始めていた。
「わかりました……! まずは、食料と住まいを確保できる人を探しましょう!」
それは、何の変哲もない、ただの「スキル無し」の男が、自身の持つ奇妙な力に導かれ、新たな世界の礎を築くための、最初の一歩だった。