能力の真実と戸惑い
グランパスは、書物店の奥にある小さな机にアステルを促し、自身も椅子に腰かけた。傍らには、いまだ大人しく控えるグリモアタイタン。そして、グランパス自身も、アステルの隣にいることに違和感を覚えながらも、抗えない衝動に逆らえずにいた。
「君は、テイマーではない」
グランパスの第一声に、アステルは面食らった。 「え? でも、このモンスターは俺の言うことを聞くし、それに……」 「それは結果としてそうなっているに過ぎない。君が特別な調教術や、魔物との絆を深めるスキルを持っているわけではない」 グランパスは、丸い眼鏡を押し上げ、静かに続けた。 「君の能力は、もっと根源的なものだ。私の鑑定結果によれば、君は**『客観的に見てレベルが高い、あるいは特定分野で傑出した強者』に遭遇した際、その相手を無意識のうちに己に惹きつけ、忠誠心を芽生えさせる』**という、前例のない力を持っている」
アステルは、その言葉の意味を理解しようと、必死に頭を巡らせた。 「えっと……つまり、俺が何か特別なことをしなくても、勝手に強い奴らが俺の部下になるってことですか?」 「その通りだ。私の身に起こったことも、あのグリモアタイタンの行動も、全てその能力によるものだ。君の意思とは無関係に、発動する」
アステルは、目の前の巨獣と、冷静沈着な老鑑定士を交互に見た。自分の言葉では制御しきれないほどの力が、自分に付き従っている。そして、グランパスも、かつては王国の賢者と謳われた高レベルの強者だったはずだ。それが、何のスキルも持たない自分に、今、忠誠を誓わされているというのか。
「うそだ……」 アステルの口から、乾いた声が漏れた。 「俺は、何の取り柄もない、スキルすら持ってない、最底辺の人間なんですよ!? そんな俺に、そんな力があるなんて、信じられない……」 信じられない、というよりも、受け入れがたい。王族に無能と追放され、蔑まれ続けた日々。自分が「持たない」ことだけが唯一の現実だった。それが、今、世界を揺るがすほどの「力」を持っていると言われたのだ。
グランパスは、アステルの動揺を冷静に見据えた。 「信じられずとも、これが事実だ。君は、その力に気づかぬまま、最底辺を彷徨っていたに過ぎない。この力は、もはや君一人のものとは言えない。君が望むと望まざるとにかかわらず、周囲の強者を巻き込み、世界に影響を与えるだろう」
アステルは、頭を抱えた。 「俺、どうしたらいいんだ……。こんな力、どう使えばいいかも分からない……」
途方もない現実に、アステルの心は再び絶望に沈みそうになった。しかし、彼の傍らには、巨大なグリモアタイタンが静かに寄り添い、目の前には、不本意ながらも彼に仕えることを受け入れようとしている老鑑定士がいる。
グランパスは、アステルの迷いを見つめ、静かに問いかけた。 「君は、この力に抗い、再び無力な存在として生きることを望むか? あるいは……この力を受け入れ、生き抜く術を学ぶか?」
アステルの視線は、虚ろに宙をさまよっていた。最底辺の日々に戻ることは、もうできない。この力がある限り、自分は否応なしに、強者たちの世界に引きずり込まれるだろう。ならば、自分はどうすべきなのか?