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真実の鑑定

老いた鑑定士――グランパスは、自身の内に渦巻く理解不能な衝動に抗いながら、震える指先で再び杖を構えた。頭の中で警鐘が鳴り響いている。この感覚は、長年培ってきた経験が「異常事態」だと叫んでいる証拠だった。彼はまず、自身の状態を鑑定した。

表示されたのは、普段と変わらぬ、鍛え上げられた自身のステータス。しかし、その最下部に、信じられない一文が追加されていた。

「従属状態:あるじ――アステル」

「な……!?」 グランパスの顔から、再び血の気が引く。自身が、この目の前の若者の「従属」にあるというのか? そんな馬鹿な話があるものか。彼は王国随一の鑑定士と謳われた男。いかなる催眠術や精神操作も、彼の精神には通用しないはずだった。

次に、彼の視線は、アステルの傍らに静かに控える漆黒の巨獣、グリモアタイタンへと向けられた。強大な魔力の塊。その存在だけで周囲の空気が震えるほどの威圧感だ。彼は、そのモンスターを鑑定した。

表示される情報に、グランパスの息が止まる。 「種族:グリモアタイタン」「レベル:測定不能(極めて高位)」 そして、その強大な能力の羅列の、最も目立つ場所に、やはり同じ記述があった。

「従属状態:あるじ――アステル」

「まさか……そんなことが……ありえるのか……!?」 グランパスは、震える手で眼鏡を外し、目をこすった。しかし、何度見ても、鑑定結果は変わらない。目の前の若者、アステル。スキル無し。レベル最底辺。何の変哲もない、むしろ無力な存在。なのに、この規格外のグリモアタイタンが彼に従い、そして、この自分までが、彼に抗えない忠誠を抱いている。

長年の知識と経験が、一つの結論へと収束していく。 「これは……いかなる魔法でもない……いかなるスキルでもない……」 グランパスは、アステルを、そして自身とグリモアタイタンを交互に見た。彼の瞳に、かつて探求したあらゆる古文書にも記されていなかった、究極の真実が映し出された。

「……君は、『強者のみを部下にする異質な能力』を持っている……!」 グランパスの声は、もはや困惑ではなく、畏怖と、そして探求者の純粋な興奮に震えていた。 「特定の条件を満たした『強者』が、無意識のうちに、君を『主』と認識し、逆らうことのできない忠誠を捧げる……。これは、伝説の中にすら存在しない、まさに『王の器』……。あるいは、それすらも超越した……ユニークな、あるいは唯一無二の力だ……!」

グランパスは、アステルの何もない瞳の奥に、世界を揺るがすほどの潜在能力を見出した。自身の平穏な隠遁生活は、この瞬間、完全に終わりを告げた。だが、同時に、彼の学者としての、鑑定士としての探求心に、これまでにないほどの火が灯ったのも事実だった。

「どういうことですか……? 王の器って……俺が……?」 アステルは、グランパスの言葉の意味をまだ完全に理解できずにいた。だが、目の前の老鑑定士の表情に浮かぶ、真剣な眼差しと、その言葉の重みは、彼がこれまでの人生で感じたことのない、強烈な現実を突きつけていた。




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