衝撃の帰還とギルドの裁定
グリモアタイタンが懐いてきたことに困惑しつつも、アステルは生き延びた。そして、その巨大な相棒と共に、光が差し込むダンジョンの出口を目指した。グリモアタイタンは、まるで彼の守護者のように道を切り開き、邪魔な魔物を一瞬で蹴散らしていく。その圧倒的な力に、アステルは改めて「テイムできたのか……?」と半信半疑になりながらも、生存への希望を強く感じていた。
やがて、ダンジョンの冷たく湿った空気が、街の賑やかな喧騒と入れ替わった。アステルは、グリモアタイタンを連れてギルドへと向かう。まずは、この状況を報告しなければ。
ギルドの扉をくぐった瞬間、アステルは異様な熱気に包まれた。冒険者たちの話し声が飛び交い、受付カウンターには複数の人影があった。見覚えのある声が聞こえる。
「……はい、そうです。恐ろしいグリモアタイタンでした……。私たちは必死で抗いましたが、残念ながら、荷物持ちの**アステルは、あの魔物に殺されてしまいました。**遺体は回収できませんでした……」
その声は、先日アステルを囮にしたパーティーのリーダーだった。彼らは、ギルド職員に深刻な顔で状況を報告している。アステルは、自分が「死んだこと」にされていると知って、呆然と立ち尽くした。
ギルド職員が「そうですか、それは残念でしたね」と事務的に答える声が聞こえる。他の冒険者たちも「スキル無しなら仕方ない」「どうせ足手まといだったんだろ」と囁き合う。
その時だった。
ギルドの喧騒が、一瞬にして凍り付いた。 ギルド内のすべての視線が、扉の近くに立つアステルと、彼の背後に控える漆黒の巨体に釘付けになる。グリモアタイタンだ。先ほどまで、彼らが「アステルを殺した」と報告していた、あの恐ろしくも強大な魔物が、まるで忠犬のようにアステルの傍らに立っている。
元パーティーメンバーの顔から、さっと血の気が引いた。彼らの目は、恐怖と混乱、そして信じられないものを見たかのような驚愕に満ちている。 「ば、馬鹿な……アステル……生きて……!?」 リーダーが震える声で呟いた。他のメンバーは、顔面蒼白で後ずさり、その場から逃げ出したい衝動に駆られているのが見て取れた。
ギルド職員も、口をあんぐりと開けて立ち尽くしている。 アステルは、元パーティーメンバーの凍り付いた表情を見て、ようやく悟った。 「あ……ああ、みんな、無事だったんですね。俺は、あのモンスターに襲われたんですけど……なぜか、そいつが急に懐いてきて、それで、助けてもらって……」
アステルの言葉を聞き、ギルド職員がすぐに状況を察した。 「待ちなさい! お前たち、まさか、このアステルさんを囮にしたのか!?」 職員の鋭い声に、元パーティーメンバーは震え上がった。 「い、いえ! そ、そんなことは……」 彼らは必死に言い訳をしようとするが、目の前の証拠(生きたアステルと、彼に従うグリモアタイタン)はあまりにも明白だった。
ギルドは迅速に、そして厳正に裁定を下した。 「……貴様らの行為は、冒険者としての信頼を著しく損ねるものであり、仲間を危険に晒す悪質なものと判断する。また、再び同じような行為に及ぶ可能性も否定できないため、ギルド規約に基づき、貴様ら全員に無期限の活動停止を命じる!」
活動停止。しかも、無期限。 その言葉は、彼らにとって冒険者としての死を意味した。彼らは、顔を歪ませ、絶望の表情でアステルを睨みつけた。その目には、憎悪と怨嗟が深く刻まれている。 「あ、アステルのせいだ……! あいつが……あいつが生き返ったから……!」 罵声がギルドに響き渡る。だが、周囲の冒険者たちは、もう彼らに同情する者はいなかった。
アステルは、彼らの憎悪に満ちた視線を受け止めた。自分は「最底辺」で「スキル無し」のはずなのに、何かが、とんでもない方向に動き出している。この異常な状況に、アステルはまだ戸惑いを隠せないでいた。