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国境を越える街:外交と警戒

アステルの街は、もはや秘匿された理想郷ではなかった。セレスティンの豊かな農地から供給される高品質な作物、ゾルタンの鍛冶場から生み出される伝説級の武具、アルビオンの研究機関から生まれる異世界の技術。そして何よりも、シオンやバルトス、グリモアタイタン、ソラ、再生スライム、山脈の守護者といった、規格外の「強者」たちの存在は、隠し通せるものではなかった。

レイスの情報網が、不穏な動きを捉え始めた。 「ご主人様、周辺諸国が、我々の街に注視しています。小国は友好的な接触を試みていますが、中には、かつてご主人様を追放した旧王国のような、警戒と敵意をむき出しにする動きもあります」 レイスの報告に、グランパスは眉をひそめた。 「当然の成り行きだ。これほどの発展と力が、周囲の目を引かないはずがない。友好関係を築くか、あるいは来るべき衝突に備えるか……我々は、今、国際社会の舞台に立つ時を迎えた」

そして、その時はすぐに訪れた。 周辺の小国から、そして、かつてアステルを「無能」と断じ、追放した旧王国の使節団が、街の視察と交渉のために派遣されてきたのだ。

使節団が街の門をくぐった瞬間、彼らはその想像を絶する光景に息をのんだ。整備された石畳の道、活気あふれる市場、ドワーフの匠が築き上げた堅牢で美しい建物群。その全てが、彼らが知るどの都市よりも洗練され、豊かなものだった。そして、彼らが最も驚愕したのは、街の至る所で見かける「強者」たちの姿だった。シオンが率いる精鋭の兵士たち、バルトスが監督する訓練された騎士団。そして、空には時折、伝説のドラゴンが悠然と舞い、大地にはグリモアタイタンの巨大な影が落ちる。

旧王国の使節団の中に、かつてアステルを冷酷に追放した騎士、そして彼を蔑んだ貴族の姿もあった。彼らは、目の前の光景が信じられず、顔面蒼白で立ち尽くした。

アステルは、グランパスの助言、レイスの情報、そして商人の当主の交渉術を借りて、使節団と対話した。彼は、豪華な謁見の間で、彼らを迎え入れた。

「ようこそ、我が街へ」 アステルは、静かに、しかし毅然とした声で彼らを迎えた。その声には、かつての弱々しさは微塵もない。

アステルは、自らの街が「脅威」ではなく、「共存」と「交易」を望む存在であることを明確に示した。 「我々の街は、いかなる国とも争いを望みません。私たちは、互いの技術と資源を交換し、共に繁栄する道を模索したいと考えています」 商人の当主が、具体的な交易のメリットを提示し、アルビオンが研究の成果の一端を披露する。

しかし、言葉だけでは足りない。 アステルは、さりげなく、しかし効果的に「力」を見せつけた。謁見の間には、鎧を纏ったシオンが控えており、その眼光は使節団を圧倒する。窓の外には、グリモアタイタンが巨大な影を落とし、その存在感だけで彼らの言葉に重みを与えた。アステルは、安易な敵対は許さないという、揺るぎない態度を示したのだ。

結果は、明確に二分された。 いくつかの小国は、街の圧倒的な豊かさと、アステルの示す共存の意思を受け入れ、友好的な交易関係が即座に成立した。街の経済圏は飛躍的に拡大し、さらなる活気が生まれる。

しかし、かつてアステルを追放した旧王国は、その対応に苦慮した。目の前の「スキル無し」の若者が、もはやかつての無力な存在ではないことを痛感した彼らは、友好的な姿勢を示す一方で、水面下ではアステルの街を極度に警戒し、敵意を募らせ始めた。彼らは、アステルの存在が、自国の支配体制を揺るがしかねない「脅威」だと認識したのだ。

アステルの「街」は、今や国際社会において無視できない、新たな勢力として認識されるようになった。外交という新たな舞台に立ったアステルは、自らの手で築き上げた街と、そこに集う強者たちと共に、世界の新たな秩序を創造していくことになるだろう。


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