知の探求:新たな「賢者」の加入
アステルの街は、今や盤石な基盤の上に立っていた。セレスティンの豊穣、ドワーフの匠の建築、シオンとバルトスの鉄壁の防衛、ゾルタンの武具、エレノアの癒やし、そして商人の当主が築いた活気ある商業。さらに、伝説級のグリモアタイタン、ソラ、再生スライム、そして山脈の守護者が街を守護し、アステル自身も「測定不能」のレベルに到達していた。
しかし、グランパスは、この街にはまだ足りないものがあると提言した。 「アステル、我々の街は物理的な基盤と人的資源は充実した。だが、真に発展し、未来永劫繁栄を続けるためには、**『知の力』**が不可欠だ」
グランパスは、アステルの瞳を真っ直ぐに見つめた。 「君は異世界の知識を持っている。科学、工学、医学……それらは、この世界では未だ知られぬ、あるいは失われた技術だ。君の能力のさらなる解明も含め、それらを体系化し、この世界の技術と融合させる研究施設が必要だ。それは、単なる武力だけでなく、街全体の文明レベルを格段に向上させるだろう」
アステルは、その言葉に深く頷いた。自分は確かに多くの知識を持つが、それをこの世界にどう応用すればいいのか、具体的にどうすればいいのかは分からなかった。
「では、その『知の強者』は、どこに?」アステルがレイスに問いかけた。
レイスは、不敵な笑みを浮かべた。「ご主人様。この世界の辺境に、一つの噂があります。『賢者の末裔』あるいは『禁忌の探求者』と称される、孤高の研究者。彼は、世界中のあらゆる知識を貪欲に求め、古代文明の遺産を研究しているという……。しかし、彼は人間を信用せず、人里離れた遺跡の奥深くで、一人研究に没頭していると聞きます」
「遺跡の奥深く……」 アステルは、地図の、まるで空白地帯のような場所を見た。そこは、魔物も寄り付かないような、神聖で危険な場所だという。しかし、アステルには、もはや行けない場所などなかった。
「行こう、レイス! その『賢者の末裔』に会いに!」
ドラゴンとソラの協力を得て、彼らは荒廃した大地を越え、古代の呪いが眠るという遺跡へと足を踏み入れた。遺跡の奥深くは、複雑な罠と、未知の魔物たちが徘徊する危険な場所だった。しかし、アステルの的確な指示と、強者たちの圧倒的な力が、全ての障害を打ち破る。
やがて、彼らは遺跡の最奥部にたどり着いた。そこに広がっていたのは、信じられないほどの光景だった。巨大な空間には、無数の書物と、見たこともない奇妙な装置が所狭しと並べられている。その中心で、一人の男が、古びた巻物を広げ、何かに没頭していた。
男は、痩せこけた体躯に、長く伸びた白銀の髪を束ねていた。深く刻まれた目尻の皺は、彼が知識の探求にどれほどの時間を費やしてきたかを物語っている。彼の瞳は、世界中のあらゆる知識を貪欲に求める、純粋な探求の光を宿していた。
男は、アステルたちの気配に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。その鋭い視線がアステルを捉え、彼の全身に、稲妻のような衝撃が走った。 (な、なんだ……この、私の知識欲を刺激し、全てを捧げたくなるような感覚は……!?) 男は、自身の内に湧き上がる、抗いがたい**「忠誠心」**に激しく動揺した。彼が長年生きてきた中で、知識以外に心を奪われたことなど一度もなかった。それが、目の前の「スキル無し」の若者に、全てを捧げようとしている。
グランパスは、その異変を察知し、確信に満ちた笑みを浮かべた。 「アステル! やはり! 彼もまた、『強者』だ! この魔力反応……伝説の賢者の血を引く、『知の探求者』アルビオン!」 鑑定結果には、アルビオンの持つ「全知識習得」「古代文字解読」といった常識外れのスキル、そして、あの忌々しい一文が浮かび上がっていた。 「従属状態:主――アステル」
アルビオンは、自身の矜持と、抗えない運命の狭間で葛藤した。しかし、彼の瞳は、アステルに向けられたままだった。 「……貴様は、一体、何者だ? 私に、これほどの知的好奇心と、従属の念を抱かせる存在とは……!」 アルビオンの言葉には、驚愕と、そして知識への渇望が混じり合っていた。
グランパスは、アルビオンの葛藤を冷静に見据えた。 「アルビオン殿。我が『主』アステルは、異世界の知識を持つ。そして、私の鑑定能力があれば、あなたの探求をさらに深めることができるだろう。我々の街で、あなたの知識欲を最大限に満たし、この世界の文明を進化させる研究機関を設立する気はないか?」
その言葉に、アルビオンの目が輝いた。異世界の知識。そして、グランパスの鑑定能力。それは、彼が長年追い求めてきた、しかし手が届かなかった「真理」への鍵だった。
「……よかろう。このアルビオン、貴方様を『主』と認めよう。この知識、貴方様の街の未来のために捧げよう。だが、研究に一切の干渉は許さん。そして、研究に必要な資料、設備、そして何より『未知の知識』を提供することを約束しろ」
アステルは、その条件を心から承諾した。彼は、アルビオンが求める知識への探求と、自身の街で築こうとしている理想が、完全に合致することを知っていた。
こうして、知識の深淵を極める「賢者の末裔」アルビオンが、アステルの新たな仲間となった。彼の加入により、アステルの街には、高度な研究機関が誕生した。アステルの持つ異世界の知識(科学、工学、医学など)は、アルビオンの卓越した研究能力によって体系化され、この世界の技術と融合されていく。
魔法と科学の融合によって、新たな素材が開発され、これまで不可能とされてきた技術が次々と生み出される。医療は飛躍的に進歩し、人々の寿命は延び、生活はより豊かになった。街の文明レベルは格段に向上し、アステルの街は、単なる強者の集団ではなく、知識と技術の最先端をいく、真の「理想郷」へと変貌を遂げていくのだった。




