螺旋の深淵:無限の魔力と再生
再生するスライム――プルプルと震える新たな仲間を掌に乗せ、アステルは深呼吸した。激戦の疲労が全身を蝕むが、まだ奥がある。グランパスの戦術眼が、このダンジョンにはさらなる「強者」が潜んでいることを示唆していた。
「少し休憩したら、さらに奥へと進むぞ」アステルはグリモアタイタンとソラに告げた。彼の言葉に、二体の魔物も静かに頷く。再生スライムは、アステルの指の間で、安心したように小さく蠢いている。
休息を終え、アステルたちは再生スライムがいた空洞のさらに奥へと続く、ひっそりとした通路を進んだ。通路の壁は水晶の脈が走り、微かに光を放っている。その光は、この場所がただの洞窟ではないことを示唆していた。
通路を抜け、アステルたちが足を踏み入れたのは、まるで宇宙の一部を切り取ったかのような空間だった。天井も壁も床も、全てが巨大な水晶で覆われており、そこかしこに、星屑のようにきらめく魔力の光が漂っている。
その空間の中央に、それはいた。
空中に静かに浮遊する、巨大な水晶の塊。それは、ただの水晶ではない。内部には複雑な幾何学模様が刻まれ、その一つ一つの線が、絶え間なく輝きを放ち、周囲の魔力の光を吸収しているようだった。魔力の脈動が、空間全体を振動させている。それは、まるで魔力そのものが結晶化したような存在だった。
グリモアタイタンが低い唸り声を上げた。ソラもまた、その体から放たれる圧倒的な魔力に、警戒するように身構える。 「な、なんだ、あれは……?」 アステルは息を飲んだ。これまでに感じたことのない、純粋で、底なしの魔力。
その水晶の塊から、一つの意思が、アステルの脳裏に直接響いてきた。 「……我は、この世の理……。存在の摂理……」 声なき声は、空間全体を震わせ、アステルの精神に直接語りかけてくる。
次の瞬間、水晶の塊から無数の光線が放たれた。それは、グリモアタイタンとソラを狙うのではなく、空間そのものを歪ませ、アステルたちの足元に無数の魔物の影を出現させる。それらは、瞬く間にアステルたちに襲いかかってきた。
「グリモアタイタン、迎撃! ソラ、全体攻撃魔法を!」 アステルは即座に指示を出す。グリモアタイタンの拳が魔物を粉砕し、ソラの魔法が空間を焼き払う。だが、倒された魔物は、すぐに新たな光線によって再生され、数を減らすことができない。
「くそっ、キリがない!」 アステルは歯噛みした。無限に湧き出す敵、そして、この水晶の塊から放たれる底なしの魔力。それは、先ほどの再生するスライムの能力を、さらに高次元で体現しているかのようだった。
グランパスの声が響く。「アステル! 鑑定だ! あれは、ただの魔物ではない……『時間と共に魔力を回復させる』という、まさに**『魔力の源泉』**と呼ぶべき存在だ!」
アステルは、その水晶の塊を鑑定しようとした、その刹那。 水晶の塊から放たれる強大な魔力の波動が、アステルを直撃した。それは攻撃ではない。純粋な魔力の奔流。そして、その奔流が、アステルの「強者のみを部下にする能力」を、根源から揺さぶったのだ。
水晶の塊は、わずかに振動した。その内部で輝く幾何学模様が、一瞬、激しく明滅する。強大すぎる魔力を持つ存在が、アステルの能力によって、その存在そのものを揺るがされているのだ。
「……ありえぬ……我は、世界の理……。いかなる存在にも、屈することなど……」 水晶の塊の意思が、激しく動揺しているのが伝わってくる。だが、その抗いは、アステルの能力の前には無力だった。抗えない衝動が、水晶の塊の深奥にまで浸透していく。
やがて、水晶の輝きが落ち着いた。そして、その内部に刻まれた幾何学模様が、アステルの存在を刻み込むかのように、静かに脈動し始めた。
「……よかろう。貴様は、我の新たな**『摂理』**となれ……」 声なき声が、アステルの脳裏に響く。それは、絶望的な強者が、ついにアステルを「主」と認め、その力を捧げることを選んだ瞬間だった。
グランパスの興奮した声が洞窟に響き渡る。 「アステル! やはり! 彼もまた、『強者』だ! それも、この世界の魔力の根源とも呼ぶべき存在……! これで君の街は、無限の魔力を手に入れたも同然だ!」
鑑定結果には、新たな仲間――水晶の塊が、その途方もない再生能力と、時間と共に魔力を無限に回復させる能力を完全に維持したまま、**「従属状態:主――アステル」**となっていることが示されていた。
アステルは、目の前の水晶の塊を見上げた。無限の再生と、無限の魔力。この二つの力が、自分のものになったのだ。それは、もはや「街」という枠を超え、世界そのものに影響を与えうる、途方もない力だった。アステルは、この力をどのように活用すべきか、その可能性の大きさに、胸が震えるのを感じていた。




