ギルドの底辺
王城の裏路地に放り出されて数日。アステルは、どうにかこの異世界で生き残る術を探していた。元の世界で身につけた知識やスキルは、剣と魔法が支配するこの世界では何の役にも立たない。ましてや、**「スキル無し」**と宣告された自分には、まともな仕事などあるはずもなかった。
行き着いたのは、冒険者たちが集う街のギルドだった。活気と喧騒に満ちたそこは、アステルには場違いな場所に見えた。受付の女性は、彼の顔を見るなり露骨に嫌な顔をした。
「……またあんたかい。今日もスキルのない雑用か?」 彼女の言葉には、侮蔑がにじんでいた。 アステルは俯く。「はい……何か、ありますか」 「チッ。しょうがないね。これでも持っていきな。」
投げつけられたのは、小汚い木札だった。そこに書かれているのは、ダンジョン探索に同行する冒険者の荷物持ち。報酬は雀の涙ほどで、危険手当など存在しない。他に選択肢がないアステルは、ただそれを握りしめるしかなかった。
「おい、そこのスキル無し!」 声がした方に目をやると、屈強な男たちがニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。彼らはアステルが担当するパーティーのメンバーだった。 「てめえが今日の荷物持ちか? スキルもねえくせにダンジョンなんざ来やがって、足手まといになんなよな。」 「ヒヒッ、万が一魔物に出くわしたら、真っ先に囮になってもらうからなァ!」 嘲笑がギルドに響き渡る。周囲の冒険者たちも、憐れむような、あるいは軽蔑するような視線を向けてくる。アステルは全身が縮み上がるような心地がした。
「わ、わかりました……足手まといにならないように、頑張ります……」 蚊の鳴くような声で答えるのが精一杯だった。喉の奥がカラカラに乾く。彼らの言葉は、鋭い刃となってアステルの心に突き刺さった。
俺は、本当に何の役にも立たない人間なんだ……。 この世界に来ても、結局、誰かの足手まといで、使い捨ての道具でしかない。
自己肯定感は底辺を這いずり回り、彼の心は常に暗い影に覆われていた。ダンジョンでの作業は過酷だった。重い荷物を運び、パーティーの休憩中も休む間もなく雑用をこなす。休憩する彼らの傍らで、自分の無力さを痛感するたびに、胸の奥が締め付けられるようだった。
「おい、スキル無し! もたもたするな!」 怒号が飛ぶ。アステルは慌てて、ずり落ちそうになる荷物を肩に担ぎ直した。
それでも、生きるためには、この屈辱と疲労に耐えるしかなかった。いつか、この最底辺から抜け出せる日が来るのだろうか? しかし、スキルも力もない自分に、そんな未来が訪れるとは、どうしても思えなかった。