情報の紡ぎ手:影の蒐集家
強固な防衛網、潤沢な食料、そして空を翔ける移動手段まで手に入れたアステルたちだったが、グランパスの言葉は常に的確だった。
「街を築き、強者たちを導くには、力だけでは不十分だ。未来を予測し、危険を回避し、好機を掴むためには、**『情報』**が不可欠だ」
グランパスは、そう言って街の酒場や裏路地、商人の行き交う場所を指差した。 「この世界には、表に出ない情報が山ほどある。裏社会の動向、未発見のダンジョンの噂、権力者たちの思惑、あるいは、これから君の能力に反応するであろう新たな強者の居場所……それら全てを、我々は知る必要がある」
アステルは頷いた。確かに、これまでもグランパスの知識に頼りきりだった。だが、彼一人では限界がある。より広範で、深い情報網を持つ存在が必要だった。
「では、どうやってそんな人間を見つければ……」アステルが尋ねる。 「情報通は、自らを明かさない。だが、その影は、必ずどこかに痕跡を残すものだ」
グランパスは、数日間、街のあちこちを綿密に調査した。そして、彼の前に浮上したのは、街の片隅にひっそりと佇む、潰れかけの古物商だった。埃を被った品々が並べられた薄暗い店内は、一見何の変哲もない。だが、グランパスの鑑定眼は、その店主の背後に、ただならぬ「情報」の波動を読み取っていた。
店主は、痩せこけた体躯に、フードで顔の半分を隠した、影のような男だった。常に薄ら笑いを浮かべ、客とは必要最低限の会話しかしない。だが、彼の目だけは、店の奥で光る宝石のように鋭く、全てを見透かすかのようだった。彼の名は**『影の蒐集家』レイス**。街の噂では、彼に金を出せば、どんな情報でも手に入ると囁かれていた。
アステルが、グランパスに促され、レイスに近づいた、その瞬間。
レイスの薄ら笑いが、凍り付いた。彼の隠された顔が、僅かにひきつる。全身に、まるで不可視の鎖が絡みつくような、ぞっとする感覚が走った。情報屋として長年生きてきた彼の勘が、目の前の「スキル無し」の若者が、とてつもない異常事態を引き起こしていることを告げている。
(な、なんだ……この、逆らえない力は……!?) レイスは、心の中で叫んだ。彼の脳裏には、過去に一度も鑑定したことのない、真っ白な情報が表示されていた。何も見えない。だが、その「何も見えない」ことこそが、彼の持つ鑑定スキルが、目の前の存在の根源的な「何か」に、触れてしまった証だった。その何かは、レイスの存在全てを支配しようとしている。
グランパスは、レイスの異変を察知し、確信に満ちた笑みを浮かべた。 「やはり、見つけたぞ、アステル! 彼もまた、『強者』だ!」 グランパスの鑑定結果には、レイスの持つ膨大な「情報網」と「裏社会の知識」が、「スキル」としてではなく、「特性」として表示され、その最下部には、あの忌々しい記述が浮かび上がっていた。 「従属状態:主――アステル」
レイスは、激しい葛藤に苛まれた。自身の唯一の武器である情報網と、誰にも知られることのない影の生活。それが、目の前の若者によって、今、脅かされている。しかし、内側から湧き上がる抗えない衝動は、彼の身体をアステルへと引き寄せた。
「……ふっ、ふふふ……これは、面白い。まさか、このレイスが、誰かの下につくことになろうとはな……」 レイスは、自嘲するように笑った。その笑みは、もはや薄ら笑いではなく、諦念と、そして新たな興味が混じり合ったものだった。
「……よかろう、御主人様。このレイス、貴方様の影となり、この世界の全ての情報を紡ぎ出しましょう。しかし、一つ条件があります」 レイスは、その鋭い目をアステルに向けた。 「私の情報網は、何よりも『自由』を尊ぶ。私に、不必要な命令を下すな。私は、得た情報を自らの判断で取捨選択し、貴方様に提供する。ただし、貴方様が求める情報であれば、いかなる闇の奥底からでも引きずり出して見せましょう」
アステルは、その条件を受け入れた。彼は、レイスが単なる「部下」ではなく、自律した知性の持ち主であることを理解したのだ。
こうして、街の裏と表を知り尽くした「影の蒐集家」レイスが、アステルの仲間となった。彼の加入により、アステルの拠点には、まるで水が流れ込むかのように、あらゆる情報が集まってくるようになった。街の細かな噂から、国家間の情勢、ダンジョンの新たな変化、そして、これからアステルの能力に反応するであろう、まだ見ぬ「強者」たちの居場所まで。
アステルは、レイスがもたらす情報によって、世界の全てが手のひらにあるかのような感覚を覚えた。彼の「街づくり」は、今や、目に見えない「情報」という強大な武器をも手に入れ、より盤石なものへと進んでいく。




