難関ダンジョンへの挑戦と、新たな魔法使いの仲間
セレスティンの豊かな畑が広がり、ドワーフの匠が築き上げた堅固な住居群がそびえ立つ。そして、シオンとバルトスの存在が、揺るぎない防衛体制を確立したアステルの拠点――まだ名もなき「街」は、確実にその基盤を固めていた。
「これで、俺たちも本格的に動けるな」 グランパスが地図上の、街から遙か離れた地点を指差した。そこには、赤く「難関」と記されたダンジョンがある。 「防衛が整った今、君はより危険な場所へ赴き、さらなる強者を見つけ出すべきだ。それに、君自身の成長も必要だろう」
アステルは、難関ダンジョンと聞いて、一瞬体がすくんだ。かつては囮にされ、死の淵を彷徨った場所だ。だが、今は違う。隣にはグリモアタイタンがいて、頭脳となるグランパス、そして街にはセレスティン、シオン、バルトスがいる。彼らが築き上げてきたものは、アステル自身の自信に繋がっていた。
「はい! まずは、その難関ダンジョンに行きましょう!」 アステルは意を決し、グリモアタイタンを伴って、遥か遠くのダンジョンへと足を踏み入れた。
難関ダンジョンは、これまでアステルが潜ってきた場所とは、比べ物にならないほど危険だった。出現する魔物はどれもが桁違いの力を持ち、通路には複雑な魔法の罠が仕掛けられている。しかし、グリモアタイタンの圧倒的な戦闘力と、アステルが培った「戦術眼」が、彼らを迷宮の奥深くへと導いていく。
「グリモアタイタン、そこだ! 右手の壁を崩せ! 罠が仕掛けられている!」 アステルの指示は、もはや迷いなく明確だ。グリモアタイタンは、アステルの言葉通りに動くことで、魔物の群れを一掃し、隠された罠を無力化していく。その度に、アステルの身体に力が漲り、レベルが目に見えない速さで上昇しているのが分かった。
ダンジョンの深層部。ひときわ巨大な空間に出たアステルは、そこで奇妙な光景を目にした。無数の魔物が倒れているのだ。しかし、グリモアタイタンが倒した痕跡とは明らかに違う。魔物たちは凍りつき、燃え尽き、あるいは雷に打たれて黒焦げになっていた。
そして、その惨状の中心に、一匹の魔物が立っていた。
それは、見る者を畏怖させるほど美しい、深紅の瞳を持つ白い狐だった。体から蒼い魔力が揺らめき、周囲の空気がビリビリと震えている。その姿は、まるで魔法そのものが形になったかのようだ。グリモアタイタンすらも、その白い狐からは、並々ならぬ魔力の奔流を感じ取っているようだった。
白い狐は、アステルたちの姿に気づくと、警戒するように身構えた。そして、その口元に、小さな火の玉が灯る。 「……貴様ら、何者だ」 声が聞こえた。驚くべきことに、その白い狐は、人間の言葉を話したのだ。
アステルが、白い狐の問いに答えようと一歩踏み出した、その瞬間だった。
白い狐の深紅の瞳が、アステルを捉えた。次の刹那、狐の体から放たれる蒼い魔力が、一瞬にして膨れ上がり、周囲の空間を圧倒する。その魔力の奔流は、アステルの「強者のみを部下にする能力」を、根こそぎ刺激した。
白い狐は、体に走る強烈な違和感に、目を見開いた。自身の魔力が、意思に反して、目の前の「スキル無し」の若者に吸い寄せられていくような感覚。抗いがたい衝動が、その純粋な魔力を持つ心臓を締め付ける。 「な、なんだ!? この感覚は……! まさか、この私が……お前のような凡俗に……!?」 白い狐は、自らの意思に逆らうように、アステルに向かって一歩、また一歩と歩み寄ってしまう。その口元にあったはずの火の玉は、いつの間にか消えていた。
ダンジョンの奥から、白い狐の異変を察知したグランパスの声が響いた。 「アステル! 間違いない! その魔物もまた、『強者』だ! しかも、これほどの高位の魔法を操る存在は稀有……!」
グランパスの鑑定結果が、白い狐の正体を明確に映し出す。 「種族:エレメンタルフォックス」「スキル:全属性魔法(伝説級)」「レベル:測定不能(領域級)」 そして、紛れもない、あの呪文がそこにあった。 「従属状態:主――アステル」
白い狐は、自らのプライドと、抗えない運命の狭間で葛藤する。だが、その瞳は、やがてアステルを見据え、諦めと、そして新たな探求への期待が混じり合った光を宿した。
「……愚かな人間め。私の力は、そんな取るに足らない存在に操られるものではないはずだが……。まさか、お前が……私の主だと?」 白い狐は、不本意ながらも、アステルの前で膝をついた。その姿は、新たな魔法の「強者」が、アステルの「街」の仲間となったことを意味していた。
アステルは、その光景を呆然と見つめた。剣を振るう才能もない。魔法を唱える力もない。だが、彼の周りには、世界を変えるほどの力を持った「強者」たちが、確実に集まってきている。アステルは、その力を、いよいよ自覚し始めていた。




