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建築の匠を求めて

食料と資金。二つの強固な基盤が確立されたことで、アステルとグランパスの「街づくり」は次の段階へと進むことになった。安定した食料は彼らの生活を支え、売却益は活動資金となったが、まだ彼らには「住まい」がなかった。仮設の野営地では、集まってくるであろう強者たちを受け入れるにはあまりにも脆弱すぎた。

「次の目標は、**『建築・建設系の強者』**だ」 グランパスが古びた地図を指で叩いた。「街を作るには、土を固め、石を積み、木材を加工する技術が必要不可欠だ。戦闘力は劣っても、その分野で並外れた力を持つ者がいれば、我々の拠点建設は飛躍的に加速するだろう」

グリモアタイタンの圧倒的な破壊力は、土地の開墾には役立ったが、精密な建築には不向きだ。セレスティンは土壌を豊かにすることはできても、建物を建てるスキルは持たない。今、彼らに必要なのは、無から有を創造する**「匠の技」**だった。

ギルドの情報網は、戦闘系の冒険者たちの噂ばかりが目立つが、グランパスは熟練の鑑定士としての知識と経験を駆使し、街の片隅に埋もれた「伝説」を探し始めた。 「街の外れの山奥に、何十年も前に引退したというドワーフの石工がいると聞く。彼はかつて、鉄壁の要塞を一人で築き上げた伝説の職人だったそうだ」 「あるいは、土魔法の達人で、一瞬にして巨大な建造物を作り出すという**『大地の魔術師』**の噂もある。だが、その居場所は謎に包まれている……」

様々な噂がグランパスの耳に届く中で、アステルは直感的に、ある共通のパターンに気づき始めていた。自分の能力に引き寄せられる「強者」たちは、皆、世間から姿を消し、静かに暮らしている者たちだ。

「きっと、その『建築の強者』も、どこかで隠れて暮らしてるんでしょうね」 アステルは呟いた。もしかしたら、彼らもまた、その途方もない能力ゆえに、平穏を求めて世を避けているのかもしれない。

そして、その直感は当たっていた。

グランパスが集めた情報と、グリモアタイタンの持つ感知能力(獲物を探す能力が、高レベルの魔物だけでなく、強い魔力を持つ存在にも反応するようになっていた)を頼りに、彼らは街から数日離れた山岳地帯へと足を踏み入れた。

険しい山道を数時間進んだ先、彼らの目の前に現れたのは、巨大な岩壁に穿たれた、見事な洞窟住居だった。ただの洞窟ではない。緻密に削られた入り口には、岩肌に描かれた幾何学模様が浮かび上がり、自然の岩を利用しながらも、人工的な美しさが融合している。

「ここか……!」 グランパスが息をのんだ。そこに住む者は、確かに只者ではない。

アステルが洞窟の入り口に近づき、中を覗き込んだ、その瞬間。

洞窟の奥から、ガツン、ガツン、と規則的な槌音が響いてきた。そして、その音と共に、小柄ながらも筋肉質な影が姿を現した。岩屑にまみれた作業着を着た、頑丈そうなドワーフだ。その顔には深い皺が刻まれ、鋭い眼光がアステルたちを捉えた。彼が持つのは、使い込まれた大きな槌。

ドワーフは、警戒の色を露わに、アステルたちを睨みつける。 「なんだ、お前ら。俺の安息の地で何の用だ?」 声は太く、威圧的だった。彼は、長年人目を避けてきた存在だ。

アステルが言葉を発しようとした、その刹那。 ドワーフの目が、大きく見開かれた。その頑丈な体に、激しい電流が走ったかのような衝撃が走る。彼の内に、今まで感じたことのない、抑えがたい**「忠誠心」**が湧き上がってくる。その対象が、目の前の、いかにもひ弱そうな人間の若者だということに、ドワーフは激しい困惑と怒りを感じた。

「ば、馬鹿な!? この私が……なぜ、お前のような人間に……!」 ドワーフは、自らの感情に逆らうように、槌を構え、威嚇の姿勢を取る。しかし、彼の体は、抗えない衝動によって、アステルに向かって一歩、また一歩と踏み出してしまう。

「やはり発動しましたか!」 グランパスがすかさず鑑定スキルを発動した。表示されるドワーフのステータスに、グランパスの顔に興奮が走る。 「種族:ドワーフ」「スキル:要塞構築(伝説級)」「レベル:測定不能(極めて高位)」 そして、その最下部には、やはりあの忌々しい一文が。 「従属状態:あるじ――アステル」

グランパスは、老ドワーフの驚愕に満ちた表情を前に、静かに、しかし有無を言わさぬ口調で語り始めた。 「落ち着きなさい、ドワーフの匠よ。あなたの身に起こっていることは、私の『主』であるアステルの能力によるものだ。彼は、あなたが望もうと望むまいと、あなたを必要としている」

ドワーフは、怒りと困惑、そして抗えない運命に打ちひしがれながらも、アステルを見据えた。彼の目には、未来の壮大な光景が、朧げに映り始めていた。

こうして、伝説級の建築の匠が、アステルの三番目の「強者」として仲間に加わることになった。食料と資金、そして建築の技術。アステルたちの「街づくり」は、今、本格的な幕開けを告げたのだ。



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